顧客とのハッカソンで交渉より“協調”に価値を置く
さらに4つめの価値として、アジャイルソフトウェア開発宣言では「契約交渉より顧客との協調に価値を置く」が挙げられているが、これに関しても従来のソフトウェア開発のビジネスモデルでは「開発側と顧客側のどちらがリスクを負うか」「どちらが多く利益を得るか」といった観点から契約交渉が行われることが多く、このことがアジャイルの本来の価値を損ねてきた。そこでWong氏は、「細かな条件を契約で取り決める代わりに、開発側と顧客側の双方に共通のインセンティブを設けることで両者が協調し、アジャイル的な働き方ができるはずだ」と提言する。
なおAtlassianでは、Atlassian Market Placeにアプリを登録しているサードパーティと合同でハッカソンを行ったこともあるという。例えば、とあるクラウド移行プロジェクトでは、事前にAtlassianと企業のプロジェクトメンバーが一堂に会して、いくつかのチームに分かれてクラウド移行のシナリオを競い合うハッカソンを1週間にわたって開催した。
![ハッカソンのスケジュール](http://cz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/12037/12037_003.png)
「ハッカソンはやるのは簡単ですが、きちんと結果を出すのは難しいものです。そこで今回は、1週間のハッカソンを行う前に、参加者全員に『ハッカソンの目的やゴール』についてアンケートフォームに記入してもらい、参加者全員がハッカソンの目的やゴールをきちんと共有できるよう工夫しました。また、社内のさまざまな関連部署の協力を仰いだほか、ハッカソン終了後には参加者全員が参加して振り返りを実施しました」(Wong氏)
こうした取り組みを行った結果、このプロジェクトでは先に挙げたアジャイルの原理の1つである「契約交渉より顧客との協調に価値を置く」を実践できたという。
プロダクトではなく「サービス」を開発することの意味
以上のように、アジャイルの原点であるアジャイルソフトウェア開発宣言のビジョンに立ち戻り、ここに記された4つの価値それぞれの意味を問い直すことによって、「アジャイルの意味が歪んできた」「継続的な向上のために何をすればいいのか」という課題を解決する糸口が見つかるのではないかとWong氏は述べる。
一方で、冒頭で挙げたもう1つの課題点「チームの健康状態に課題を抱えている」については、これらとは異なるアプローチが必要だという。
「不健康なチームは、不健康なソフトウェアしか開発できません。従って健全なプロダクトを開発するには、チームの健康状態を定期的に振り返ってチェックする必要があります。具体的には、チームメンバー全員で定期的に集まって、『チームのバランス』『共通理解』『価値と指標』といったいくつかのチェック項目ごとに『緑(健康)』『黄色(やや不健康)』『赤(不健康)』で採点し、チームの健康状態をセルフチェックします。アトラシアンでは、健康状態をチェックする方法と、その際にConfluenceで利用することができるテンプレートをセットで提供しています」(Wong氏)
![チームの健康度チェックのための「アトラシアンチームヘルスモニター」](http://cz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/12037/12037_004.png)
加えて、近年ますます進展する「ソフトウェアのサービス化」のトレンドも、アジャイルの真の価値を見直す上でいい契機になるのではないかと同氏は提言する。「アジャイル(agile:俊敏)」というネーミングから、アジャイル開発ではとにかくスピードや効率を重視する傾向があるが、ソフトウェアをサービスとしてとらえた場合は、スピードと同時に「ユーザーに提供する価値」を常に意識する必要がある。
Wong氏はこうした考え方を、「Stay lean, stay loveable, be agile」と表現する。「無駄なく(lean)、俊敏(agile)に開発すると同時に、人々に愛されなくてはなりません(loveable)。そのためには、日本の『おもてなし精神』はとても参考になるかもしれません」(Wong氏)
こうした境地に至るためには、まずはアジャイル手法の適用から出発して、次に品質の高いソフトウェアを継続的にリリースできるプロセスを確立し、最終的に成果物の価値が上がるようプロセスを反復する必要がある。そのためにWong氏は、「結果より成果に価値を置く」べきだと提唱する。
「私は個人的にこれを、先に挙げたアジャイルソフトウェア開発宣言の4つの価値に並ぶ『5つめの価値』として提唱したいと思います。その実現のために最も大事なのは、開発の過程を社内だけでなく社外にも公開する『オープン性』です。Atlassianもこうした考えにのっとり、オープンな企業文化と価値観のもと、今後もアジャイルの発展に貢献していきたいと考えています」(Wong氏)
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