現場からボトムアップでサービス化を提案
YourFIT 365は、店頭にある3D足形計測器で足を計測後、3Dスキャンデータを元に自分の足に合う、オススメの靴をレコメンドしてくれるサービスだ。ユーザーは店頭のタブレットで自分の足形データやオススメの商品を確認できることに加え、三越伊勢丹アプリをダウンロードしてデータを連携させることで、スマートフォンでも計測データやオススメ商品を閲覧・購⼊ができる。2019年8⽉28⽇、伊勢丹新宿本店にて婦⼈靴向けにサービスを開始した。最初は数ブランドから始まったが、現在ではおよそ25ブランドまで広がり、すでに5000⼈以上が利用している。
このサービスを立ち上げたのは、プロダクトオーナーとして開発を牽引した河村明彦氏。元々、情報システム部に所属していたわけではなく、生粋の現場の人間だった。つまり、始まりは売り場(以下、三越伊勢丹の用語で「お買い場」)からのサービス化案件だったのだ。
伊勢丹新宿本店の婦人靴売り場では、足と靴に関する専門知識を持ったシューカウンセラーという社内資格を整備するなど、「足に合う靴を提供したい」という思いが強い。とはいえ、やはり10年20年の経験がある販売スタッフ(以下、三越伊勢丹の用語で「スタイリスト」)と、入社直後の新人ではスキルに差がある。
三越伊勢丹に限らず、小売の業態では販売スタッフの接客スキルの差が大きな課題になるが、特に靴を売るシーンでは「正確に足のサイズを測る」ことはもちろん、靴の構造や足の骨の形などさまざまな知識や経験が求められる。そこで、スタイリストの経験やスキルの差を、3D計測器を使うことで埋められるのではないかと仮説を立て、計測器を試していった。
そこで計測器をいくつか試していきながら、計測専門の会社であるアイウェアラボラトリーと出会う。パートナーとして協業することになった理由は、精度の高さだけでなく、マインドがマッチしたこと。「お客さまの足に合う靴を提供したい」という思いを共有できたことから、計測の精度とスタイリストの伝え方のところで「勝てる」という確信を得て、担当役員にサービス化の提案を上げていくことになる。ここまでシステム開発予算ではなくお買い場の事業予算で賄っていたので、まさにボトムアップで進めてきたプロジェクトだ。
担当役員の英断で採用されたのがアジャイル開発。鈴木雄介氏がアジャイルコーチとして招請され、プロジェクトにジョインすることになる。
鈴木氏が、担当役員にまず伝えたのは次の2つ。
- 「プロダクトオーナー(仕様を決定する人)は現場(お買い場)のメンバーにすべきだ」
- 「現場と開発チームが直接やりとりすべきだ」
この内容を担当役員の即決で聞き入れてもらった。
お買い場の担当者(河村氏)を情シスに異動させ、YourFIT 365のプロダクトオーナーとして専任にする。ただ、河村氏自身はシステム開発の経験がないため、開発者とコミュニケーションするためのメンバー(ビジネス側とシステム側のことがわかる、いわゆる「デジタルサービスデザイナー」)をアサインし、POチームとして2名体制を組むことになった。そして、既存の開発プロセスとは切り離し、「お買い場」「PO」「開発チーム」がダイレクトにコミュニケーションする体制がとれた。
開発チームは4月にスタート。YourFIT 365は伊勢丹新宿本店の改装の目玉として、リリース⽇が8月28日と決まっており、あと4カ月強というスケジュールだった。