「Region:Earth」Cloudflareが所有する大規模なネットワークで何が実現するか
プロジェクトは、OCIのオブジェクトストレージを元データが格納されるオリジンとし、Cloudflareをフロントエンドのキャッシュおよびプロキシ層として配置するアーキテクチャの実装へと進められた。ここで中核的な役割を担ったのが、Cloudflareのエッジコンピューティング基盤である「Cloudflare Workers」だ。Workersは、世界中に分散されたCloudflareのエッジサーバー上で、軽量なコードを実行できるサーバーレス環境である。
このアーキテクチャにおいて、Workersは単なる静的ファイルのキャッシュサーバーにとどまらない役割を果たす。ユーザーからのリクエストを最前線で受け取ったWorkersは、リバースプロキシとして機能し、裏側にあるOCIオブジェクトストレージの実際のURLや構成を隠蔽する。そして、エッジ上のキャッシュ状態を確認し、データが存在すれば即座にユーザーへ返し、キャッシュが存在しない場合のみOCIのオブジェクトストレージへデータを取りに行くというロジックを実行する。
この仕組みが課題解決に最適であった理由は、Cloudflareが有する圧倒的なネットワーク規模と、Workers特有の軽量な実行環境にある。Cloudflareの木下氏が「我々はインターネットで飛び交っているトラフィックの20%を処理しています」と述べるように、同社は世界中のエンドユーザーの極めて近くにエッジサーバーを網の目のように配置している。日本国内においても、東京、大阪、福岡といった主要都市にデータセンターを展開しており、ユーザーは物理的に最も近い場所から最短距離でコンテンツを受け取ることができる。
Cloudflareは、所有する大規模なネットワークを「Region:Earth」と表現する
さらに技術的な観点において、Workersは一般的なコンテナ技術とは異なり、「V8 Isolate」と呼ばれる隔離された実行環境を採用している点が極めて重要だ。通常のコンテナが起動までに数秒から数分を要するのに対し、V8 Isolateを利用したWorkersは約5ミリ秒という瞬きするほどの短時間で立ち上がり、即座にリクエストを処理できる。この極めて低いオーバーヘッドが、ミリ秒単位での低遅延を追求するコンテンツ配信ワークロードにおいて、決定的な優位性をもたらしたのだ。
開発者体験の観点からも、この組み合わせは強力であった。木下氏は「クラウドの設計、冗長性、スケールなどを一切気にしていただく必要はありません。作ったコードをポンとCloudflareに乗せるだけで、全世界のエッジで、お客様から最短の距離で使っていただけます」と、インフラ管理の煩雑さから開発者を解放する同社の思想を紹介する。
これにより、OCI側は安価で大容量の非構造化データを保存するストレージとしての役割に専念し、トラフィックの変動や突発的なアクセスのスパイクといったフロントエンドの負荷はすべてCloudflareのエッジ側で吸収するという、明確で無駄のない役割分担が成立した。
