「YAPC::Asia 2008」取材記者からのこぼれ話です。
5月15日から16日にかけて開催されたPerlのカンファレンス「YAPC::Asia 2008」では、ラリー・ウォール氏によるPerl 6での文法拡張に関する基調講演(基調講演としてはやや難度が高かったような気もしないではないが)から、Yappo氏によるおなじみのミサイルランチャー発射まで硬軟取り混ぜたさまざまなセッションが行われたが、今回のちょっとした新しい傾向として、モバイル開発に関連したセッションがいくつか集中して行われたことがある。
16日午前中には「OpenSource TypePad Mobile」と題されたセッションで、シックス・アパート株式会社が15日に公開した携帯電話向けコンテンツ表示モジュール「TypeCast」の詳細が紹介された。TypeCastは、ブログホスティングサービス「TypePad」のモバイル向けの表示処理(管理画面は含まれない)を行うモジュールで、各携帯キャリアに応じたHTMLフィルタや絵文字変換などの機能がある。シックス・アパートでは今回のYAPCに合わせて、このモジュールをオープンソースのライセンスで提供している。
このセッションに続いて、ArcheType Roomの午前中最後のセッションで「use Encode::JP::Mobile; ―― Perl標準の機能を使った絵文字の相互変換」と題された発表が行われた。これは、もともとmiyagawa氏が日本の携帯端末のシフトJIS+外字をUnicodeにマップするモジュールとして2005年に開発したもので、現在ではCodeRepos上で有志によって開発が進められている。単純な文字コード変換だけでなく、携帯電話キャリアごとに別々に実装されている絵文字を、Perlの標準的な手続きで相互変換することができる。
そして午後一番のセッションでは、世界最大規模のモバイルSNS「モバゲータウン」を運営する株式会社ディー・エヌ・エーが、同サービスで利用されているフレームワーク「MobaSiF(Mobile Simple Framework)」を紹介した。MobaSiFは、キャリアや端末タイプ・端末IDの判別、各キャリアに対応したテンプレートエンジン、そしてやはり絵文字変換機能を有しており、モバゲータウンという大規模なケータイサービスで長い実績を持つ、シンプルで軽く使いやすいフレームワーク。これも今回のYAPCに合わせて、16日朝にバージョン0.9.0がオープンソースのライセンスで公開された。
ケータイ用ウェブサイトやサービスの制作では各キャリアごとの特別な処理が多く、従来はソフトウェアハウスがそれぞれに個別のノウハウを持って開発に当たるのが一般的だったのではないだろうか。しかし、こうした発表に見られるように、ブログやSNSといったウェブ2.0的なサービスがケータイの世界にも広まっていく中で、オープンにできる情報は共有してみんなでメンテナナンスしようという、オープンソース的な手法が少しずつ広まってきているようだ。
今回のYAPCスポンサー企業を見ても、上記の発表を行ったシックス・アパートやディー・エヌ・エーだけでなく(両社はそれぞれメイン会場以外のセッションルームのスポンサーでもある)、日本最大のSNSサービスであるミクシィでも携帯端末経由のページビューがPC経由を上回るなど、モバイル開発の存在はPerlコミュニティの中でも決してマイナーな存在ではなくなっているのかもしれない。
それにしても今年のYAPCはランチの無料提供などスタッフの方々の努力にも敬服したが、何より会場となった東京工業大学の環境の素晴らしさが心に残った。ベビーカーを押した親子連れが散歩するのんびりとした構内で、天候にも恵まれ新緑の下で味わうカップラーメン(Yahoo!提供)もまた一興。また女性の参加者が去年よりかなり増えたようにも見受けられたのも、新しい潮流を感じさせるYAPC::Asia 2008年でした。
【関連リンク】
・Six Apart - シックス・アパートが、携帯電話向けコンテンツ表示モジュール「TypeCast」をフリーソフトウェア・ライセンスとして提供開始
・TypePadの絵文字アイコン画像と、携帯コンテンツ表示モジュールをフリー(自由)ライセンスで公開
・/lang/perl/Encode-JP-Mobile/ - CodeRepos::Share - Trac -
・携帯の文字コードと絵文字の基礎知識
・SourceForge.JP: Project Info - MobaSiF (Moba/Mobile Simple Framework)
・ラーメン特集2007-2008 - Yahoo! JAPAN -
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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)
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