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対象読者
- EMなどのマネジメント層や開発組織の責任者で、組織づくりに関心がある方
- 特にアジャイルな組織へと改善をしていきたい方
- 組織が拡大しても、良さを維持したいと考えている方
ソフトウェア開発組織を拡大するときにうまくいかなくなる
ソフトウェア開発組織を拡大する際に、ある大きさまでは組織が滑らかに動作していたのに、大きくなるにつれてその滑らかさが失われる事象があります。皆さんもよく耳にするのではないでしょうか。
経営学者であるヘンリー・ミンツバーグ氏は、著書『ミンツバーグの組織論』で以下のように記しています。
多くの組織は、ほとんどの期間、同じ構造を維持し続ける。
(略)
しかし、組織の世界に聖域はない。たいていの組織はときおり、ほかのいずれかの組織形態へ、あるいはハイブリッド型の形態への転換を経験する。
※参考:『ミンツバーグの組織論』(p.261)
彼によると、調整の仕組み、重視すること、意思決定のやり方などに応じて組織は7類型にわけられるとのこと。話題にあげている組織拡大の際に起きるのは、パーソナル型からの組織構造の転換です。ソフトウェア開発組織において多くの場合、プロジェクト型という組織構造へと変わっていくと推察されるので、パーソナル型とプロジェクト型の特徴を見ていきましょう。
パーソナル型は、名前の通り「ある特定の人物が組織を取り仕切っている形態」です。多くの組織はこの形からスタートします。パーソナル型では、組織を率いる人の魅力が組織の魅力に直結しており、ビジョンをもったリーダーが率いていれば活気ある組織となります。また、物事を決める速さも特徴的で、リーダーが意思決定を下せば物事が動きます。しかし、組織が大きくなるとこの形態を取り続けるのは難しくなります。その理由は以下の通り。
リーダーが現場に深く関わってマネジメントするアプローチは、マイクロマネジメントと化し、最高責任者が細かいことに忙殺されかねない。
※参考:『ミンツバーグの組織論』(p.266)
プロジェクト型は、プロジェクトを完成させるという目的に対して専門家がチームを組み、また複数のチームが協業するような組織形態です。パーソナル型に比べるとより大きな複雑さに取り組める一方で、協業のためのコミュニケーションが欠かせません。そのため。物事を決める速さはパーソナル型に劣ります。
並べてみると、調整については、パーソナル型のときは直接リーダーと交渉するという直接的で素朴な形だったのに対し、プロジェクト型では相互の調整といったより複雑な形を取る必要があります。また、パーソナル型におけるリーダーの魅力によって人を強く巻き込む力や物事の決定の明確さは、プロジェクト型では劣後します。
こういった調整方法や強みが組織形態の転換によって変異していくことをメンバーが承知していないと、これまではうまくいっていた既存の進め方が新しい組織形態ではうまくいかないことが起き、滑らかさが失われてしまったように感じることでしょう。
DIGGLEにおいてもこういった組織形態の転換は起きていますが、ギャップを少なくできています。それはマネージャーと各メンバーによる毎週30分の1on1による部分も大きいと考えています。時間を割いた高頻度のコミュニケーションを通じて、違和感やもやもやといった言語化には至っていない何かの兆しをキャッチしやすくなっており、問題が顕在化する前に予防できています。
特に私たちはフルリモートで働いているため、変化の大きい環境の中で立ち止まってじっくり話す時間を定期的に設けることは、コストはかかるものの欠かせない投資だと考えています。この効果は実際に発揮されていて、顕在化している解決の難しそうな軋轢は少ないように感じられます。