AIエージェントの進化が変えるエンジニアの役割
セッションの冒頭、服部佑樹氏は「AI技術の進化は、インダストリー全体としても驚異的なペースで進行している」と強調。特にここ数年で著しい変化を見せているのが、GitHub Copilotをはじめとした生成ツールにおけるAIの性能向上であると指摘する。

すでに多くのエンジニアがAIを活用しており、AIとの協働が日常化しつつある。もはやAI活用は一部の先進的な事例にとどまらず、エンジニア全体に影響を与える潮流となっているのだ。
その進化の象徴として紹介されたのが、GitHubが2025年4月に一般提供を開始した「GitHub Copilot Agent Mode」である。従来の補完機能を超え、ユーザーの指示に従って自律的にコードを書き換えるこのモードは、プログラミング体験そのものを根底から刷新しつつある。
服部氏は、トラベルエージェンシーのアプリケーションを題材に実演。「プロンプトをエージェントに渡すと、自動的に実装が進み、エラー修正もAIが検知してくれる。完全にデバッグが不要になるわけではないが、非常に多くの作業が簡略化されている」。

特筆すべきは、こうした機能が特別な開発環境ではなく、「GitHub Copilot」という汎用的かつ広く普及したツールに組み込まれている点だ。すぐ目の前にある日常的な開発環境の中で、AIとのインタラクションが始まっている。ともすれば、エンジニアの定義そのものが書き換わるかもしれない。進化し続けるモデルとAIによる自動化に直面するいま、開発者は何を武器にしていくべきなのか。本セッションの核心は、まさにこの問いだ。
話題は、新たに登場した「GitHub Spark」へと広がる。「GitHub Copilot Spark」ではなく、あくまで「GitHub Spark」という独立した名称で提供されているところからは、GitHubがより幅広い開発者層や顧客ニーズに応えるためのブランド戦略が読み取れると服部氏は話す。
まだプロトタイプ段階にあるGitHub Sparkは、ローコード・ノーコードツールとしての進化が期待されている。服部氏はオセロのアプリケーションを例に、簡単な実装をデモで紹介。「このようなツールによって、開発者以外の人でもアプリを作れる時代が到来しつつある」と見通しを語った。
一方で、服部氏はこの流れに対して慎重な姿勢も崩さない。ツールによってアプリが構築可能になっても、テストや品質保証といった工程は引き続き重要であり、各段階におけるソフトウェアのテストを怠れば、開発の品質を担保できず、最終成果物に問題が生じる可能性があるためだ。
「どこまでをエンジニアが手を加え、どこまでをAIに委ねるのか。この線引きに関する議論は、かつてあったクラウドインフラにおける抽象化の議論と同様、プログラミングの領域でも話題になっている」。服部氏はそう分析し、将来の開発環境についても言及する。「極端な例かもしれないが、将来的に一つのAIエージェントが、大規模な開発作業の大部分を一手に担う世界がくる可能性すらある。そしてその片鱗はすでに見え始めている」。それはすなわち、我々が知る既存の開発プロセスそのものが抜本的に変わることを意味する。
変化を見据え、服部氏はエンジニアに対して思考の転換を促す。エディタやツールの性能差を近視眼的に論じるだけでは不十分であり、「開発とは何か」という根源的な問いに立ち返ることが求められているのだ。AIとツールが高度化し続けるなかで、エンジニアに求められるのは、もはや単なるコード記述能力ではない。開発全体を俯瞰し、自社の技術やプロダクトの競争優位をどこに築くかを見極める戦略的視座が必要だ──というのが服部氏の見解である。