SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

CodeZine編集部では、現場で活躍するデベロッパーをスターにするためのカンファレンス「Developers Summit」や、エンジニアの生きざまをブーストするためのイベント「Developers Boost」など、さまざまなカンファレンスを企画・運営しています。

IT×大企業で社会の変革に挑むトップランナーたち

「三菱電機を芯からアジャイルに」三菱電機の中の人になった市谷氏×20年のアジャイル推進者 細谷氏と紐解く大企業DXのヒント

市谷聡啓氏が三菱電機 プリンシパルアジャイルエキスパートに就任、新たなジャーニーへ

  • X ポスト
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 三菱電機では、2023年4月に「DXイノベーションセンター(DIC)」を設置し、2024年3月には社内外の共創空間である「Serendie Street Yokohama」を開設するなど、DX推進に力を入れている。そこでアジャイルを前提とした品質管理システムの構築を担うのが細谷泰夫氏だ。さらに、細谷氏とコミュニティ活動でも親交のあるレッドジャーニーの市谷聡啓氏が、三菱電機のプリンシパルアジャイルエキスパートとして就任し、一員として組織内からアジャイル推進を強化していく。本稿では、両氏の対談を通じて三菱電機の過去20年のアジャイルの取り組みを振り返り、その将来の展望から日本企業にアジャイルを取り入れるヒントを探る。

  • X ポスト
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

三菱電機におけるアジャイル開発20年の軌跡

──細谷さんは2002年ごろから三菱電機でアジャイルを進めてこられたと聞きました。どのようなきっかけでアジャイルを取り入れていったのでしょうか。

細谷泰夫氏(以下、細谷):私が当社でアジャイル開発を始めたのは、2002年頃のBtoB領域での開発からです。私の担当していた分野は顧客要望が厳しく、新規性も高いため、最初から仕様を決めて計画通りに進めることが難しい領域だったのです。私自身は、社会人になった1997年頃にUMLの流行や統一プロセスの登場を経験し、反復型開発を学ぶ機会がありました。その後、日本にXPが入ってきて、その衝撃的で魅力的な手法に惹かれました。2001年に三菱電機に転職し、翌年に自社開発プロジェクトのソフトウェア開発リーダーを任されたときに、XPを導入しました。これが当社におけるアジャイル開発の始まりです。

 その後、活動を徐々に広げ、コーポレート部門に移って全社的なアジャイル開発支援を行うようになりました。同時に、2002年頃からXPのユーザーグループなどのコミュニティ活動も続けており、そこで市谷さんとも出会いました。

 私は現在、三菱電機のDXプロジェクトの推進活動をするDXイノベーションセンター(DIC)にて、事業のDXに適した開発プロセスと品質管理システムの構築に取り組んでいます。これまで当社ではウォーターフォール開発が主流でしたが、DX事業ではアジャイルを前提とした開発プロセスや品質保証の仕組みの構築が必要です。また、全社的なアジャイル開発推進支援組織のマネージャーとして、現場でのアジャイル開発導入支援も行っています。

三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター 開発・品質管理部 部長 細谷泰夫氏
三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター 開発・品質管理部 部長 細谷泰夫氏

──そうした流れのなか、市谷さんが三菱電機の一員として、アジャイル推進をしていくことになったのですね。

市谷聡啓氏(以下、市谷):今回、プリンシパルアジャイルエキスパートという役割を拝命し、三菱電機でアジャイルを広めていくことになりました。細谷さんが20年にわたって行ってきたアジャイル開発を礎として、新しい事業やデジタルサービスの開発に、アジャイルをさらに活用していきたいと考えています。また、組織外のアジャイルコミュニティとのつながりを強化していく役割も担っていきます。

──三菱電機での、この20年のアジャイル推進の成果と課題について教えてください。

細谷:最初はボトムアップでアジャイルを始め、私が責任ある立場になってからは組織全体でスクラムを本格的に適用しました。工場の規則やガイドラインを整備し、誰でもアジャイルに取り組めるようにしたのは成功事例です。しかし、私が異動してしまい、元の組織にアジャイル開発の推進者がいなくなると活動が下火になるという課題も見えました。

 ソフトウェア開発だけでなく、経営や顧客、品質保証、資材など多くの部門が関わるビジネス全体の中で、開発部門だけがアジャイルになってもさまざまな軋轢が生じます。これを解決しながらアジャイルを推進するには、強い意志と問題解決能力が必要です。

──市谷さんが三菱電機に関わるようになったのはいつ頃からでしょうか。

市谷:私にとっては細谷さんが全ての始まりです。2014年、細谷さんから社内向けのアジャイル勉強会での講演依頼を受けたのが最初の関わりでした。それ以前はコミュニティでつながりがあり、一緒に同人誌作成やイベント開催などを行っていましたが、そこから会社としての関わりが始まりました。その後、組織内でのアジャイル導入やプロダクト、事業作りの伴走支援を行うようになり、三菱電機でのアジャイル活用の可能性や自身の立ち位置について考えるようになりました。

三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター Principal Agile Expert 市谷聡啓氏
三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター Principal Agile Expert 市谷聡啓氏

細谷:補足すると、翔泳社主催ITエンジニア向けカンファレンス「Developers Summit 2014」に参加し、そこで市谷さんが「正しいものを正しくつくる」というテーマの話をされました(講演資料)。それが、当時私が感じていた課題にものすごく刺さって、勉強会を依頼することにしたのです。そうした勉強会では、工場長や部長など、影響力のある人たちに直接連絡して参加を促し、アジャイルの考え方を広めていきました。

 市谷さんの講演では「期待マネジメント」の話題が好評でした。大規模な開発に携わり、顧客との関係性に苦心している方が多い部門でしたので、その概念は彼らにとって目新しいものだったようです。

市谷:プロジェクト開始時、メンバーの暗黙的な期待を明確にしないと、後に齟齬が生じてうまくいかないことがあります。アジャイル開発では、これを防ぐためにインセプションデッキという手法を用います。これはメンバーの思いを表出し、すり合わせるプロセスで、チームの方向性を統一できます。当時もすでに仮説検証型アジャイルの概念がありましたが、まだ受け手が理解しづらいと考え、より分かりやすい方法を示しました。

次のページ
三菱電機でのアジャイル導入の成果が、日本企業のDXを変える

この記事は参考になりましたか?

  • X ポスト
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
IT×大企業で社会の変革に挑むトップランナーたち連載記事一覧
この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務やWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業。編集プロダクション業務においては、IT・HR関連の事例取材に加え、英語での海外スタートアップ取材などを手がける。独自開発のAI文字起こし・...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

近藤 佑子(編集部)(コンドウ ユウコ)

株式会社翔泳社 CodeZine編集部 編集長、Developers Summit オーガナイザー。1986年岡山県生まれ。京都大学工学部建築学科、東京大学工学系研究科建築学専攻修士課程修了。フリーランスを経て2014年株式会社翔泳社に入社。ソフトウェア開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集・企画・運営に携わる。2018年、副編集長に就任。2017年より、ソフトウェア開発者向けカンファレンス「Developers...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

ミヨグラフィ(ミヨグラフィ)

フットワークが窒素よりも軽いフリーランスフォトグラファー。ポートレート、取材、イベントなど主に人物撮影をしています。英語・中国語対応可能。趣味は電子工作・3Dプリント・ポールダンス。 Webサイト

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

  • X ポスト
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
CodeZine(コードジン)
https://codezine.jp/article/detail/19939 2024/09/06 11:00

おすすめ

アクセスランキング

アクセスランキング

イベント

CodeZine編集部では、現場で活躍するデベロッパーをスターにするためのカンファレンス「Developers Summit」や、エンジニアの生きざまをブーストするためのイベント「Developers Boost」など、さまざまなカンファレンスを企画・運営しています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング