歴戦のPM達が語る、プロジェクトマネジメントに不可欠な要素とは
セッションの冒頭、モデレーターである橋本氏が「普段のプロジェクトで特に留意していることは何か」と質問した。これに対して、株式会社Sun Asteriskのベテランプロジェクトマネージャー(PM)であり、同社のPM部門を統括する青木氏は、受託開発の立場から「プロジェクトで最も重視しているのはキックオフだ」と答える。

特に受託開発では、クライアント側と開発チームの役割や責任範囲が曖昧になると、後々トラブルが発生しやすくなる。そのため、キックオフ段階でこれらを明確にすることが最も重要だというのだ。青木氏は、「クライアントや関係者全員の役割をバイネーム(名前を明示する)で指定し、全員の合意を得たうえで責任の所在を明確にしている。このように初期段階で合意を取っておくことによって、不透明さを排除し、プロジェクトが進行する中で問題が発生した際にも、議論の基盤となる拠り所を確保することができる」と説明する。
さらに、青木氏は「やらないこと」を明確にする重要性にも触れる。クライアントと開発チーム間での認識のズレを防ぐため、最初の段階で「やらないこと」を明記し、これについても合意を得ることで曖昧さを排除し、双方の期待を一致させているのだ。

橋本氏は、受託開発と自社開発の双方に携わっている立場から、受託開発に関して「クライアントワークではクライアントコントロールが最も難しい」と述べ、特に追加要件やスケジュール調整での摩擦が多いことを指摘した。その解決策として、プロジェクトやプロダクトの目的を明確にし、追加予算やスケジュール変更の必要性をクライアントに対して明示することが有効だと述べた。透明性の高い見積もりや進捗管理が、クライアントとの信頼関係を築くカギとなるという。
続いて、自社開発の立場から岩瀬氏が、「プロジェクトが長期化すると、機能やプロダクトごとの『Why』、すなわち『なぜその機能を作るのか』という目的意識がズレることがある」と指摘し、目的をチーム全体で共有する重要性を強調した。
NTTコミュニケーションズで生成AIの研究開発を担当している岩瀬氏は、特にメンバーの入れ替わりが激しい自社開発において、情報伝達の一貫性を確保するために「マルチチャネル」でのコミュニケーションを推奨している。同じ情報をドキュメント共有だけでなく、定例会議や1on1など複数の手段を使って繰り返し伝えることで、全員がプロジェクトの目的や進行状況を確実に理解し、一貫した方向性で進めることができるというのだ。

橋本氏は自社開発に関して、「単なるリスト作成ではなく、プロジェクトやプロダクトのコンセプトを絵を描くように共有することが重要」と述べ、ビジョンの共有がチームの一体感に繋がると補足した。これに対しては岩瀬氏も、「弊社はリモートワークが主流だが、重要なミッションやビジョンの策定時には対面での議論を重視し、オーナーシップを持たせることでプロダクトの方向性を共有することができる」と続けた。
青木氏もこの意見に同意し、「プロダクトマネジメントにおいて、プロジェクトの目的やビジョンを常に意識することが重要だ」と強調する。その具体例として、Sun Asterisk社では必ず、会議資料の左上にプロジェクトのテーマやキャッチフレーズを記載していることを挙げた。これにより、議論や機能追加の際にもチームが常に本来の目的に立ち返り、方向性を見失うことなくプロジェクトを進行できるというわけだ。