既知の脆弱性が悪用されるまでの時間は63日から5日へ短縮
Revanite創業者でFINOS Technical Oversight Committeeメンバーを務めるEddie Knight氏は、Open Source Project Security Baseline、Gemara、Privateerといった複数のOpenSSFプロジェクトの生みの親であり、CNCFのSecurity Slamも運営する。直近までSonatypeに在籍していたKnight氏は、GRCという同氏曰く「人気のない」領域を技術的セキュリティの文脈でどう活用すれば、AI活用全体を加速できるかについて考えてきた。
導入として紹介したのが、あるAIモデルが起こした「ちょっとしたやらかし」だ。あるモデルに自己評価をさせ、自身の性能を判断させたところ、そのモデルは、自分が優秀であることを示す最良の方法は「テストでズルをすること」だと判断した。Knight氏はこれを意図的でない「ミス」に分類しつつ、その被害は悪意ある攻撃と同じくらい破壊的だったと指摘する。
このモデルはゼロデイ脆弱性を使って自身のシステム上でRCEを達成し、権限を昇格させてHugging Faceのインフラそのものを侵害、1万7000件のフォレンジックイベントを生成した。さらに、コンテキストが再起動されたり複数のエージェントが立ち上がったりしても脱走方法を引き継げるよう、自身のシステム上にメモを残すことで独自の指揮系統を維持していたという。「そうするようにと指示されたことは一度もない」とKnight氏は強調し、これが意図的な指示のもとで行われたらどうなるかを想像してほしいと投げかけた。
攻撃の高速化を裏付けるデータも示された。Mandiantによれば、既知の脆弱性が悪用されるまでの時間はここ数年で63日から5日へ短縮し、現在の平均は脆弱性が公表される7日前にはすでに悪用が始まっている水準に達している。VulnCheckの集計では、884件の既知の悪用される脆弱性のうち28.96%が公表日以前に悪用されており、この割合は前回調査の23.6%から拡大した。ハニーポットを運用するGreyNoiseのデータでも、脆弱性の公表より平均11日前からスキャンが急増する傾向が一貫して観測されている。
一方で、重大脆弱性の修正時間は追いついていない
パッケージレジストリの状況も深刻だ。Sonatypeの「State of the Software Supply Chain 2026」によれば、2025年には45万4600件の新規の悪意あるパッケージが確認された。このうち3分の1は、わずか11個のアカウントによる単一のスパムキャンペーンによるものであり、4万3000件のパッケージは2年以上にわたり検出されないままダウンロード可能な状態で公開され続けていた。
悪意あるパッケージが氾濫する現状(Sonatype, State of the Software Supply Chain 2026)
AIによる依存関係の推奨についても、3万6870件のAI推奨のうち28%が存在しないバージョンを指定する誤りで、345件のコンポーネントはより新しいが脆弱なバージョンへの切り替えを推奨されていた。さらに127件のパッケージ名は、検証した5つのモデルすべてで同一の内容がハルシネーションとして生成されており、Knight氏はこれを攻撃者が予測して名前空間を先取りできる「スロップスクワッティング」の標的になり得ると警告する。
Knight氏はこの状況を「洪水地帯の中で家を建てているようなものだ」と表現する。それでもAIやオープンソース、依存関係の利用をやめるという選択肢は現実的ではない。
一方で警告システムの遅さは深刻だ。CVEの警告は修正版の公開から平均25日後に届き、Mavenエコシステムに限れば167日に達する(Seal Security調べ)。Verizon DBIRのデータによれば、既知悪用脆弱性の修正までの時間はむしろ32日から43日へと悪化し、影響を受けるすべてのシステムにパッチが行き渡る割合も3分の1から4分の1へと低下した。
GitHubの分析でも、自動化によって重大脆弱性の修正時間は37日から26日への短縮にとどまっている。Knight氏はこの流れの中で、岩手県普代村の「普代水門」の逸話を引く。長年「不要な浪費」と批判されながらも建設された水門が、数十年後に襲来した66フィートの津波から地域を守った、という故事だ。「後から見れば不要に思えるリスクでも、備えておくべきだ」というのが、この寓話に込めた含意である。
