AIで開発が速くなった分、何ができるようになった? 街に出て、先に作って、仕組みを整えた3人のエンジニアの実践
【Session 3】AIで「現場」を動かし「私」を変える! エンジニアの定義を広げていく、3つの挑戦
「一軍コンテキスト」でチームメンバー全員の負担を軽減
最後に登壇したのはパソナで開発リーダーを務める鹿又菜摘氏だ。テーマは「一軍コンテキストを使い倒そう あなたとチームをハッピーにする新しい技術に挑戦できるAI駆動開発」。背景にあったのは、メンバーとしては新技術に挑戦したくても日々の課題で手がいっぱい、リーダーとしては自分も実装したいのに課題管理や会議で時間が取れないという問題だ。このような状況を、コンテキストとAIの活用で突破した。
鹿又氏が整備したのが「一軍コンテキスト」だ。1日1回以上参照されるコンテキストファイルを指す鹿又氏の造語で、3種類からなる。AI専用のREADME(AGENTS.mdやCopilot instructions.mdなど)、実装の観点や運用ルールをまとめた実装・テストガイド、そしてチームの共通用語辞典にあたるユビキタス言語の3つだ。たとえば料理レシピアプリなら「レシピ」という単語を決めたら、コードでも会話でも「レシピ」以外は使わないという取り決めがユビキタス言語にあたる。コードに「クッキング」や「メニュー」「アイテム」が混在することを防ぎ、成果物の統一感と品質を高める工夫だ。
ファイルはすべてマークダウンで記述し、一気に作るのではなく徐々に育てていくことを前提とする。1ファイルは短く書くことが重要で、トークン数の削減だけでなく、1ファイルが長すぎると読んでもらえないという問題を防ぐねらいもある。この仕組みによって、新人がAPI設計やデータベース設計を担当できるようになり、案件内で新しく触れるフレームワークの学習期間を1週間確保することも実現した。開発フローでは、生成AIが一軍コンテキストを読み込んだうえで実装・テスト・レビューを担い、人間は動作確認のみを行う役割分担で進める。
「お願いベース」では組織は動かない
試行錯誤の中でアンチパターンも経験した。コンテキストを作りすぎ、1案件に50個以上のファイルが乱立してしまったのだ。メンバーはどれを見ればいいかわからなくなり、結果的にどのファイルも読まれなくなった。この反省から6ファイルに絞り込み、不要なものは別フォルダに隔離するか削除。また、AIエージェントのHooksを使って業務終了時にコンテキストを自動更新する仕組みも導入した。
もうひとつのアンチパターンは、新しい仕組みの導入を「お願いベース」で促したことだ。「これ、ちょっとやってみませんか」という声がけでは強制力が働かず、やる人とやらない人が分かれ、品質にばらつきが生じた。鹿又氏の結論は、新しいルールはトップダウンで導入し、説明会などで使い方を周知したうえで、使用感を定期的にフォローアップするというものだ。「コンテキストや生成AIはあくまでツールで、メンバー間で共通認識を持ち、コミュニケーションロスを減らす工夫をしたことが大事だったのかなと思います。仕組みを作ったら、あとはAIとメンバーに任せましょう」と鹿又氏は締めくくった。
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