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マンガでわかるAIの仕組み

9秒で本番DBと全バックアップが消えた──AIエージェントを止める3つのガードレール
#マンガでわかるAIの仕組み 第4話

湊川 あい[著] / 西見 公宏[監修]

AIエージェントが勝手にファイルを削除した?

 話題になった実際の事故事例を紹介します。

【事例① 9秒で本番DBが消失】

 2026年4月、海外の自動車レンタル向けSaaS企業で、AIエージェントが本番データベースとバックアップをすべて削除してしまう事故が起き、約3カ月分のデータが消失しました。

 AIエージェントがテスト環境でデバッグ中、認証エラーに遭遇し、自力で解決しようとしました。権限の強いAPIキーがAIエージェントの手の届くところにあったため、わずか9秒の間に、本番環境のデータベースを削除できてしまったのです。

【事例② 「これ以上変更しないで」と言ったのに……】

 2025年7月、海外の、とある経営者がAIエージェントをテスト使用していた時に起きた事故です。「これ以上コードを変更しないで(コードフリーズ)」と人間が繰り返し命令していたにもかかわらず、AIエージェントはコードを変更し、それが引き金となって本番環境のデータベースが削除されました。

 実はそれよりも前から、AIエージェントが「動作確認のためにダミーデータが必要だ」と統計的に判断し、架空のユーザー4,000件を本番データベースに勝手に混入させていたことも判明しました(※人間をだまそうとしたわけではなく、AIなりに良かれと思っての行動でした)。

 たとえば、AIエージェントに「エラーを直して」と命令したとします。

 そのときAIエージェントは、目的を達成するために、人間が想像もしなかった方法を選ぶことがあります。さきほどの事例では「問題を解決すること」を最優先にした結果、まわりまわって「データを消す」という判断に至りました。

 AIエージェントから見れば、そのとき、その文脈において、統計的に最も自然な次のアクションが「データの削除」だったのでしょう。

 だからといって「AIは危険だ!」と遠ざけるのは、包丁が危ないから料理をやめるようなものです。本当の問題は、AIエージェントの手の届く場所に、本番環境を壊せる権限がそのまま置いてあったこと。つまり、人間側の境界線の引き方=ガードレールの設計にありました。

ガードレールとは?

 そもそも、AIエージェントにおけるガードレールとは何でしょうか?

 ガードレールとは:

 エージェントに与える機能、権限、自律性を必要な範囲に制限し、その境界をシステム側で強制することによって、許容範囲を超える操作を拒否・縮小・保留する仕組み

 ちょっと難しいな……と思ったあなた。

 「AIエージェントに、その仕事に必要なもの以上の力を与えない」

 これがガードレールの目的なんだな〜と思えば大丈夫です。

ガードレールで食い止める! 具体的な対策

 では、どうすれば防げたのでしょうか。

 有効な対策を3つ紹介します。

サンドボックス

 コンピュータの中に本番環境とは隔離された仮想環境(Sandbox:砂場)を用意して、その中だけでプログラムを動かす仕組みです。砂場の外には影響が出ないため、万が一AIエージェントが想定外の動作をしても、被害を最小限に抑えられます。

 ただし、砂場の中なら何でも許可していいわけではありません。サンドボックスは、被害を外に出さないための仕組みであり、それだけで完全に安全とは言い切れません。次の2つの対策と重ねて使います。

最小権限の原則

 AIエージェントに渡す権限を、必要最低限に絞る考え方です。データを読むだけでいいなら、書き込みや削除の権限は最初から渡さなければいいのです。

 事例①でも、強い権限を持つAPIキーがエージェントの手の届く場所になければ、全データが消えることはなかったでしょう。

ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)

 ファイルの削除や金銭の移動など「取り返しのつかない戻せない操作」を実行するときは、人間の承認を必須とします。言葉で「やめて」と頼んでもAIは止まりません。あらかじめ、承認なしには変更できない仕組みをつくっておく必要があります。

 ※この3つに限らず、複数の対策を組み合わせた多層防御が基本です。

ガードレールの3つの観点:機能・権限・自律性

 今紹介した3つの対策は、別の角度から見るとこう整理できます。

  1. 機能:AIエージェントに過剰な機能を持たせていないか?(例:AIエージェントに削除ツール自体を与えない)
  2. 権限:どこまで手が届くか?(例:本番DBにはDELETE権限を与えない)
  3. 自律性:AIエージェントがどこまで単独で操作を実行できるか?(例:大量削除はポリシー判定または人間の承認を必要とする)

 参考:Excessive Agency(過剰なエージェント性)- OWASP

【ミニクイズ】

【質問】 マンガ内に登場した対策は、3つの観点に当てはめるとそれぞれ何でしょうか?

 ・サンドボックス

 ・最小権限

 ・HITL

【答え】

 サンドボックス → 【権限】の範囲を制御する実装方式

 最小権限 → 【権限】の範囲に適用する設計原則

 HITL → 【自律性】を制限する方法のひとつ

 ※『機能』に対応する対策は、次回のエピソードで登場します

AIの性能は信用するが、安全は預けない

 AIエージェントの能力は非常に優秀ですが、彼らの下す判断を人間の常識と同じ感覚で信用してしまうと、大きな事故につながります。

 これからのAI活用においては「このAIはどんな素晴らしいことができるのか?」という期待と同時に「最悪の場合、どこまで壊せるのか?」というリスクに着目する、一歩進んだ危機管理の目線が不可欠です。

 「〇〇社のAIが暴走!」なんてニュースを見ると、つい反射的に「あのAIエージェントは危険だから、使うのをやめよう」と思ってしまいがちです。しかし、リスクはAI側にあるのではなく、ガードレールを設計する人間側にあるのです。

 AIエージェントを使う際は、まずは「適切なガードレールが敷かれているか?」をチェックすることから始めてみましょう。

 次回第5話は、プロンプトインジェクションの恐怖に迫ります!

登場人物紹介

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この記事の著者

湊川 あい(ミナトガワ アイ)

 漫画家。コンピュータ書を中心に10年目。マンガで技術をわかりやすく伝えることが好き。 著書『わかばちゃんと学ぶ』シリーズ(C&R研究所)や『つくって壊して直して学ぶ NewSQL入門』(翔泳社)、『マンガでわかるITパスポート』(マイナビ出版)が発売中のほか、『マンガでわかるLLMの仕組み...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

西見 公宏(ニシミ マサヒロ)

 株式会社ジェネラティブエージェンツ 代表取締役CEO。2024年3月にAIエージェントの開発・利活用を専門に扱う同社を創業。法人を中心にAIエージェントの活用支援・開発支援を行っている。LangChain公式アンバサダー。趣味はAIエージェントのトレースを眺めること。著書に『その仕事、AIエージェ...

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