社内のエンジニアとどうつながっていくか
職業「戸倉彩」(以下、戸倉) 今回、サイバーエージェントにおけるデベロッパーとの関係性の構築、その取り組みについてお伺いしたいのですが、まずは長瀬さんご自身が何をされているのか、自己紹介的なことを教えていただけますか?
長瀬慶重(以下、長瀬) 通信業界での研究開発を経て、2005年にサイバーエージェントに入社しました。サイバーエージェントが「技術のサイバーエージェントを創る」と掲げたのが2006年。そこから代表の藤田と、採用に取り組んだり内製化を進めたり、開発体制を強化したりして、今に至るという感じです。今は「AbemaTV」の開発責任者を務めながら、人事、広報を含めた、より良いエンジニア組織を築くことにも注力しています。
戸倉 いま、何か新しい、イノベーティブなものを作るときは社内だけではダメなんじゃないかということに気づいて、情報を収集していたり、検討を始めている会社が増えています。やはり開発者がすごく足りないので、外のリソースを使おうとか、目的はいろいろあると思いますが。
長瀬 1つの考え方としては、昨今のように、エンジニアが売り手市場になってくると、会社で無理矢理囲い込むことは逆効果です。私の考え方としては、エンジニアはどんどん外に出なさいとダメ。とにかく外に出て行って、自身の技術的な市場価値を高めてほしい。それを会社の中で還元してもらえれば、正しく評価をしたいということを伝えています。そういう循環が年を重ねる上で定着していっている印象はあります。本を書く社員もいますし、登壇する人間も、カンファレンス運営に関わっていくような人材などさまざま。普通に外に出て発表したりする先輩を見て、若い人にもそれが当たり前になってきている。社内のカルチャーとして根付いている手応えはありますね。
もちろんその結果、他社から声がかかるエンジニアも当たり前にいますが、外に出るなといって抱え込むより、他社のエンジニアと切磋琢磨する機会があるほうがエンジニアとして伸びると思うので。その上で、技術者にとって常に魅力的な環境や機会を提供して、フラットにサイバーエージェントで働くことを選択し続けてもらえるような企業努力を、僕らはしなければいけないと思っています。
戸倉 たとえばサイバーエージェントで生まれたテクノロジーやテクノロジー文化について、エバンジェリストのような、外に広める役割の人はいますか?
長瀬 そのような取り組みとして1つ挙げられるのは、2019年に立ち上げた「OpenSaaS Studio」です。ソフトウェア開発における基盤プロダクトを作っていて、まずは社内で普及させているのですが、2020年にはOSSとして世の中に出していく計画があります。
もう1つは、会社としてのOSSのポリシーの策定です。うちの会社でよく起こる事象としては、会社のサービスを作っている延長で生まれたライブラリやソースコードを抽象化・汎用化してオープンソースとして世の中に出しているという事実が多くあります。そして、そのほとんどが個人のGitHub上にあるんですけど、それらをもっとうまく加速させたり、会社の取り組み自体をもっと世の中に還元する仕組みを整備したりする意味で、知財、法務の人間とエンジニアが一緒になって、そのポリシーを作っています。
戸倉 技術系のスキルアップのための社内のプロジェクトや、横断的に知見を共有する場はありますか?
長瀬 社内勉強会はサービスごと、管轄ごと、テーマごと、いろんな切り口で週に2〜3回は、どこかしらで開催されていますね。このような日常的な勉強会も盛んですが、一番大きなものとしては、年に一度全エンジニア・クリエイターが集まり、1日中お互いの知見や取り組みを共有する社内限カンファレンス「CA BASE CAMP」があります。1日で50以上のセッションが行われるほか、ブースが出たりお祭りのような感じです。
戸倉 アンケートであったり、スピーカーになった人へのフィードバックであったり、そういったセッションの評価やそのあとのコネクションづくりというところでは、何かツールを使われていますか?
長瀬 フィードバックとしては、満足度調査をして、ベストセッションを表彰していますね。やはり登壇したことで、いままで社内で話したことがなかった人が話しかけてくるとか、そこから新しい相談や機会につながっているみたいです。
外から見ると一見大きいグループ会社のように見えると思いますが、うちの会社は技術的な統制だったり、トップダウンで技術者に何かやるということを原則一切やっていなくて、さまざまな事業体の集合体として構成されている感じです。技術に関するポリシーだったり、考え方や価値観みたいなもの全部の裁量権が現場に与えられている。もっと言うと、ものすごくレガシーな技術でカチッと組み上げているシステムもあれば、新しいものばかりを取り入れているみたいな仕組みもある。
戸倉 2006年に「技術のサイバーエージェントになる」と掲げましたが、そのきっかけは何だったのでしょうか?
長瀬 それはもう非常にシンプルで、インターネットサービス自体内製化しないとやはりいいものができないし、開発スピードも上がらない。エンジニアがやはり情熱を持って自分のプロダクトに向き合ってくれることが大事なので。2006年に掲げて、そこからとにかくエンジニアを採用してカルチャーを変えて、という感じですね。
大きかったのは代表の藤田がスーツを着なくなり、エンジニアと顔を突きあわせて一緒にサービス開発や企画をずっとやり続けたことです。夜も一緒にご飯を食べ、トップが技術者の理解を深めようと歩み寄ったことがサイバーエージェントの転機になったともいえるでしょう。
戸倉 内製化に鍵を切ったタイミングと合致しているんですね。
長瀬 2006年に約30名のエンジニアを採用して、新卒のエンジニア採用を始めたのは2008年。第1期生として約20名のエンジニアを採用しました。新卒エンジニアの採用は年々増えていますね。