SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

DeveloperZine(デベロッパージン)- エンジニアの意思決定を支える技術情報メディア ProductZine

CodeZine編集部では、現場で活躍するデベロッパーをスターにするためのカンファレンス「Developers Summit」や、エンジニアの生きざまをブーストするためのイベント「Developers Boost」など、さまざまなカンファレンスを企画・運営しています。

開発生産性の多角的視点 〜開発チームから事業経営に開発生産性を波及させるには?〜

開発生産性と技術負債の関係性は?──技術負債の「抑制」「予兆検知」「解消」に着目する

開発生産性の多角的視点 〜開発チームから事業経営に開発生産性を波及させるには?〜 第9回 

9.3 技術負債を解消する組織のあり方

 技術負債の解消は単なる技術的な課題ではなく、組織全体の意思決定と調整が不可欠な経営課題でもあります。リファクタリングには一定のコストとリスクが伴うため、予算権限をもつ経営層や事業責任者の理解と協力を得ることが不可欠です。また、負債解消のためのチーム編成や進め方によって、成功の可否が大きく左右されます。

 ここでは技術負債を効果的に脱却するための説明の仕方と、負債解消のチーム編成戦略について述べていきます。

9.3.1 技術負債の解消に説明が必要な理由

 技術負債の解消には、短期的なコスト(人員・時間・リスク)が伴うため、開発チーム単独では決定できないケースが多くなります。特に、事業部門から見ると「機能開発ではなくリファクタリングに時間を使う」ことに対して疑問を持たれやすく、「その時間があるなら新機能開発を進めてほしい」といった反発を受けることも少なくありません。

 このような状況を防ぐためには、事業責任者や経営層に対して技術負債の解消が事業の成長にとって不可欠であることを、定量データと事業インパクトを用いて説明することが重要です。

定量データを活用した説明

 技術負債の影響を明確に伝えるためには、感覚的な話ではなく、具体的な数値データを示すことが効果的です。以下のようなKPIを活用すると、技術負債の影響とその解消の必要性を論理的に説明できます。

  • 開発スピードの指標の例
    • リードタイム(要件決定からデプロイまでの時間)
    • デプロイ頻度
    • 変更リクエストに対する対応時間(コード変更にかかる日数)
  • 品質の指標
    • バグ発生率
    • 障害件数と影響範囲
    • リリース後のホットフィックス発生率
  • エンジニアの負担と組織の健全性
    • Pull Request の平均レビュー時間
    • 「変更したくないコード」に関するエンジニアアンケート結果
  • エンジニアのエンゲージメントスコア
  • エンジニアの退職率(技術負債による離職の影響)
ROI(投資対効果)を明示する

 技術負債の解消に投資するべき理由を経営層に理解してもらうためには、「リファクタリングが事業成長にどう寄与するのか?」 を明確に伝える必要があります。具体的には、以下のようなROIの観点で説明すると説得力が増します。

  • 短期的な効果
    • 〇カ月間のリファクタリングで、開発スピードが〇%向上し、新機能リリースまでの時間が短縮される 変更容易性の向上により、今後の機能追加のリードタイムが〇%短縮される
  • 中長期的な効果
    • バグ修正コストの削減(障害発生率〇%低下、ホットフィックスの削減)
    • 採用力の向上(モダンな技術環境により優秀なエンジニアを惹きつけやすくなる)
    • 退職率の低下(技術負債のストレスによる離職を防ぎ、組織の安定化を図る)

 大事なのは仮説でも良いので、説明責任を果たすことです。これらのデータはトレンドであり、正確な結びつきが強いとは限りません。しかしエンジニアリングのような不確実性が高い領域において、少しでも情報があると技術負債の解消が「コスト」ではなく「将来の投資」であることを伝えることで、事業責任者の理解を得やすくなります。

9.3.2 負債解消のチーム編成

 技術負債の解消を進める際には、「どのチームが負債解消を担当するのか?」というチーム編成の戦略が重要になります。負債解消の方法には、「既存チームでの負債解消」 と 「専門チームの立ち上げ」 の2つのアプローチがあり、それぞれメリットとデメリットがあります。

既存チームでの負債解消

 既存のプロダクト開発チームが、通常の機能開発と並行して技術負債の解消を進める方法です。

  • メリット
    • 既存のシステムに精通しているため、負債の影響を正しく把握できる
    • 機能開発と並行して改善を進めることで、業務への影響を最小限に抑えられる
    • チーム内のナレッジを継続的に蓄積できる
  • デメリット
    • 機能開発のプレッシャーが強いと、リファクタリングの優先度が下がりがち
    • 「今すぐに成果が求められる開発」と「長期的な技術的改善」のバランスが難しい
専門チームを立ち上げて負債解消を進める

 技術負債の解消を専門に担当するチームを設置し、リファクタリングやシステム改善に集中するアプローチです。

  • メリット
    • 負債解消に専念できるため、リファクタリングの進捗が早い
    • 他チームの負担を増やさず、技術的な改善を推進できる
    • 大規模なアーキテクチャ刷新など、長期的な改善にも取り組みやすい
  • デメリット
    • プロダクト開発チームとの連携が必要(分断されると新たな負債が発生する可能性がある)
    • 技術的な改善とビジネス要求の優先順位を調整する必要がある
    • 対象プロダクトへの予算やヘッドカウントの確保が追加で必要

 負債解消は単発の取り組みではなく、継続的なプロセスとして組み込む必要があります。 以下のようなステップを含むロードマップを作成し、段階的に進めることがおすすめできます。

  • 技術負債の影響を定量的に可視化し、優先順位を決定する
  • 小規模なリファクタリングを実施し、影響と効果を分析する
  • 段階的に負債解消を進めながら、新たな負債が増えないような仕組みを構築する

 以上、技術負債と開発生産性について、技術負債とは何か、進行を遅らせる考え方と予兆検知、負債解消をする際の勘所について述べさせていただきました。

この記事は参考になりましたか?

連載通知を行うには会員登録(無料)が必要です。
既に会員の方はを行ってください。
開発生産性の多角的視点 〜開発チームから事業経営に開発生産性を波及させるには?〜連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

石垣 雅人(合同会社DMM.com)(イシガキ マサト)

 DMM .comにエンジニア職で新卒入社し、翌年からプロジェクトマネージャーを務める。 いくつかのプロダクトマネージャーを経て2020年、DMM.comの入り口である総合トップなどを管轄する総合トップ開発部の立ち上げを行い、部長を従事。 現在はプラットフォーム事業本部 第1開発部 部長 / VPo...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

CodeZine(コードジン)
https://codezine.jp/article/detail/21058 2025/03/31 11:00

イベント

CodeZine編集部では、現場で活躍するデベロッパーをスターにするためのカンファレンス「Developers Summit」や、エンジニアの生きざまをブーストするためのイベント「Developers Boost」など、さまざまなカンファレンスを企画・運営しています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー