2月13日、デベロッパー向けの総合ITカンファレンス「Developer Summit 2008」が開催した。今年は「越境しよう! コードで世界を変えよう」をテーマに掲げ、14日までの2日間にかけて様々なセッションが提供される。その中から一部、Joel Spolsky氏のセッションの模様を一部紹介する。同氏はWebサイト「Joel on Software」や、ソフトウェア開発プロセスのエキスパート、Excel VBAの設計者として知られる。
2月13日、デベロッパー向けの総合ITカンファレンス「Developer Summit 2008」(通称、デブサミ)が開催した。今年は「越境しよう! コードで世界を変えよう」をテーマに掲げ、14日までの2日間にかけて様々なセッションが提供される。
その中から、Joel Spolsky氏のセッションの模様を一部紹介する。同氏はWebサイト「Joel on Software」や、ソフトウェア開発プロセスのエキスパート、Excel VBAの設計者として知られる。
素晴らしいソフトウェアを作るということ
現在、多くのソフトウェア開発チームが非常に優れた製品を作っているにもかかわらず、一般受けせず、ユーザは機能に劣る高価な見かけ倒しの製品を選ぶという傾向が多々見受けられる。なぜ、このようなことが起こるのか、皆が愛する一級品をデザインするためにはどうしたらよいか、について語った。
Joelは、ソフトウェアが一級品になるための要素として、次の3つを挙げた。
- Make People Happy(人を幸せにする)
- Think About Emotions(感情を考慮する)
- Obsess over Aesthetics(美学にこだわる)
人は、心理的に自分の影響力が周囲に行使できていないことに対して無力感を覚える。そのため、「主導権をユーザに提供する(Put the User in Control)」ことを意識するのが、ユーザを幸せにするのに重要なポイントだ。たとえば、ショッピングサイトで自由な手順(商品の選択・配送先の指定など)を提供することもそうだし、Ajaxですばやく選択した商品画像を切り替えるといった、積極的なフィードバック(Positive Feedback)も効果的だ。
また、理屈だけでなく感情の考慮もかかせない。車の安全性をアピールするのに、丸みのあるデザインが有効であることを挙げ、冗談まじりに、Windows XPで角が丸くなったウィンドウは、デザイン上、安全性を訴えかけていると語った。
美的な感性も重要で、開発者の多くはスキンよりも内部構造に極力注力したいと考えるのが普通だが、たとえば同じプレゼンテーションのグラフでもデザインを調整しただけで、受け手の反応はかなり異なったものになるのが通例だ。モダンな建築デザインでは、無駄な装飾を排除するといったものがあり、ソフトウェアでも同じような発想でCUIベースになっていた時期がある。しかし、人間はMac OS X、iPhoneのように、多くの無駄があったり性能的なビハインドがありつつも、ここちよい体験を与えてくれるものを好むものだ。ソフトウェアの世界は建築と違い、まだ無駄なものに飽きていない。Blue chipな製品を作りだすには、まだまだ美学にこだわる必要がある。
その他、最も意識すべき点として、心理学用語の「Misattribution(誤帰)」を挙げた。これは、「自分の中である感情が湧いてきた際に、原因はここに有るんじゃないかと理解するが、本当の原因は違うところにあった」というものだ。つまり、大きな勘違い。有名な例として、吊橋でドキドキした感覚を恋愛の感覚として錯覚するような話がある。
最後に、ソフトウェア開発では人々の「幸せ」「感情」「美学」を考慮する必要があり、これはプレゼンテーションにも当てはまる。美女の写真やジョーク、好きな音楽を挟もう。運がよければ、何のプレゼンか分からなかったが、ハッピーな気分になれると、終始和やかなムードのセッションを締めくくった。
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斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)
株式会社翔泳社 ProductZine編集長。1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。ソフトウェア開発専門のオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」の企画・運営を2005年6月の正式オープン以来担当し、2011年4月から2020年5月までCodeZine編集長を務めた。教育関係メディアの「EdTechZine(エドテックジン)」...
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