PoCで重要なのは、システムでなく「人」の選抜
杉谷氏はPoCに対する発想の転換として3つのポイントを挙げた。一つ目は、目指すのはあくまで開発プロセス自体を人とAIの協働型に変えることであり、生産性向上そのものは手段にすぎないという点。二つ目は、PoCで見極めるべきは生産性向上効果の可視化ではなく、AIを利用できない要因、いわゆる「ノックアウトファクター」の有無だという点だ。GitHub CopilotのPoCを最初にやった際は、当初期待したほどの効果は出なかった。しかし実務で使い込まれるにつれて、現在はPoC時点より高い効果が出ている。ツールは使いこなしてこそ効果が表れるものであり、外部コンサルタントに委託して3カ月から半年かけて効果を評価するくらいなら、そのコストでコーディングAIを1年使った方が得だと杉谷氏は言い切る。
三つ目は、PoCを領域やシステムではなく「人」で選抜して進めたことだ。きちんと評価できるであろう人を選んでPoCを行い、実務利用の段階でも周囲の感度の高い人から順に使ってもらうことで、スムーズに普及していったという。
このプロセス構築の前提には、2023年度から4年がかりで積み上げてきた生産性向上の取り組みがあった。RanorexによるUIテスト自動化、アーキテクチャ標準・開発標準の策定、コンテナやAWSクラウドの活用促進、オンプレのSubversionからGitHubクラウドへのリポジトリ移行、GitHub ActionsによるCI/CDパイプラインの構築。とりわけGitHubのようなSaaS型ソリューションを安全に使うためのセキュリティ対策に時間をかけたことが、後のDevin導入をスムーズにする下地になったと杉谷氏は振り返る。
専任10名と兼務30人、フィジカルとバーチャルの二人三脚
これらを推進する上で重要なポイントとして杉谷氏が挙げたのが、コアとなる人材とチームづくりだ。みずほ証券は専任チームとして「CoEチーム」を組成しており、約10名の専任フィジカルメンバーと、各現場を主務としながらこのチームを兼務する約30人のバーチャルメンバーとのハイブリッドで運営している。全体統括を担う杉谷氏がビジョン・戦略・ロードマップを描き、CoEチームがDevinやKiroといった製品選定を含む具体的な取り組みを推進し、現場への伴走支援を担う。このトップダウンとボトムアップをつなぐ二人三脚の構造が、変革へのアジリティとケイパビリティを大きく高めた結果、Devinの導入からわずか1年でここまでの成果につながったと杉谷氏は語る。
今後については、リソースの内製化の推進、人材育成とIT部門の組織開発、AI駆動型ITガバナンスの構築、AI駆動開発とサイバーセキュリティ対策への取り組みを挙げた。みずほ証券のコーポレートスローガンである「ともに挑む。ともに実る。」という言葉を引きながら、杉谷氏は事業会社にもテクノロジー企業にも情報交換を呼びかけ、講演を締めくくった。
