Claude CodeもCopilotもある今、IBM Bobは何が違うのか。TechXchange 2026で見えた「捨てられないコード」と「選ばせないモデル」
「IBM TechXchange 2026」レポート
どこで動かすかは人が決める
では、そのモデルをどこで動かすのか。スンダレサン氏は、BobをSaaSとして出した当初から、大半の顧客は自社の環境で使いたがっていたと明かした。自社や顧客の固有のデータ、PythonでもJavaでもない社内独自の言語やフレームワークを扱い、プロンプトさえ社外に出せない企業がある。
「AIのほうが皆さんの環境に合わせるべきです。クラウドか、オンプレミスか、ハイブリッドか、どこで動かすかを決めるのは皆さんです」
同氏が「今日発表した」と紹介したのが、オンプレミス版の「Bob on-prem」だ。同氏によれば、Bobの中核はIDEでもシェルでもなく「エージェント型のハーネス」で、どこへでも持っていける。ただしオンプレミスではフロンティアモデルを使えないことがあり、オープンウェイトのモデルも検討が要る。
Q&Aで同氏は、日本の顧客について「データを国外に出せない」という要件を挙げた。一方、日本語をうまく扱えるローカルモデルを取り込むところまでは「まだ来ていない」とも述べている。コンテナ型データセンターを運営するゲットワークスの境川章一郎氏は、インターネットにデータを送ることをためらう閉域網の顧客にも、ベンダーが企業向けに作った生成AIを提供できる点に関心を寄せていた。
守る側の仕組みとしては、前日に発表された「IBM Bob Premium Package for DevSecOps」が改めて紹介された。Q&Aでの説明では、生成したコードやプロンプトがガバナンスの要件に沿っているかを確かめ、企業が使っているルールエンジンや脆弱性ツールをBobの文脈で動かして誤検知を減らす。開発環境だけでなくCI/CDでも動く。スンダレサン氏は、AIの時代の成果物はコードだけでなく、プロンプト、ハーネス、ツール、スキルまでを含むと述べ、目標を「AIが生み出すコードだけでなく、AIがソフトウェアを作るやり方を安全にすること」と表現した。
講演後半のパネルでは、Red HatのCTO、Chris Wright(クリス・ライト)氏が、AIによって見つかるオープンソースの脆弱性が月に約1万件のペースに達していると指摘した。そのうえで、ガバナンスはむしろ開発を速めると語った。
「ガバナンスは官僚主義だと思われがちです。でも、ポリシーを理解して、エージェントの文脈でそれを実装する方法を持つことは、実は活動を速める方法なのです」
どんな現場に向くか
Claude CodeもCopilotもある今、Bobは何が違うのか。この日の基調講演と取材から見えた答えは、モデルの賢さではなかった。捨てられない資産を前に進める仕事に重心を置き、モデルの選択はIBMが引き受け、その代わりに費用対効果を測る仕組みを用意し、動かす場所を顧客に選ばせる。
もっとも、BobとClaude Codeは単純な対立関係ではない。IBMは2025年にAnthropicとの提携を発表しており、Bobが振り分けるモデルにはClaudeも含まれる。違いはモデルそのものより、モデルを誰が選び、コストに誰が責任を持ち、どこで動かすかという設計にある。比べる相手によって、向き不向きははっきり分かれる。
| 判断軸 | IBM Bob | Claude Code・Copilot・Cursorなど | 自社で確かめる問い |
|---|---|---|---|
| 得意な仕事 | 既存資産の刷新(Java、IBM i、Z)、分析から計画・実装・検証までの工程 | 新規開発や日常のコーディングから幅広く | 刷新したい資産は、どの言語・どの基盤にあるか |
| モデル | IBMが評価して振り分け、利用者は選ばない | 提供元のモデルを使う、または利用者が選ぶ | モデルの選択をベンダーに任せてよいか |
| コスト | Bobcoin(クレジット)。Bobalytics(Enterpriseプラン)でチームの使い方と費用対効果を見る | 定額や従量など製品ごとに異なる | AIのコストに誰が責任を持つか |
| 動かす場所 | SaaSとオンプレミス版 | SaaSが中心 | データやプロンプトを社外に出せるか |
| 使う人 | 開発者に加え、ビジネス職(Bob Desktop) | 主に開発者 | 開発者以外にも広げたいか |
ここまで見てきたBobの特徴を、企業全体でのAI活用にどうつなげるか。日本からの参加者向けに開かれたQ&Aで、日本IBM 理事 フィールドCTOの野村幸平氏は、私見と断ったうえで、個々の仕事を支援するエージェントと、組織を横断して業務を進めるエージェントを組み合わせる視点を示した。
「Bobのように、一人ひとりの仕事を支援して生産性を高めるエージェントは重要です。さらに、企業全体の業務変革につなげるには、社内のデータやシステムと連携し、複数の人や部門にまたがる業務を進めるエージェントも必要になります。私は、それぞれの役割に応じてエージェントを組み合わせ、企業全体の成果につなげていくことが重要だと考えています」
野村氏は、そうした業務を担うエージェントを構築・管理する基盤として、watsonx Orchestrateを挙げた。個々の仕事でエージェントを活用することに加え、企業としてそれらをどう連携させ、管理・運用していくか。Day 2で紹介されたBobの活用は、Day 1の基調講演が扱った「増えたエージェントをどう動かし続けるか」という論点にもつながっている。
人の役割はどうなるのか。クレスコの江澤美保氏は、何かあったときにデバッグやアーキテクチャーの誤りを指摘できる「少数精鋭のベテラン」が必要になると話した。AIに任せる比率を尋ねると、藤沼氏は「人が7、AIが3」、沖中氏は会社の方針として「AIが8、人が2」と、同じ日本の利用者の間でも大きく分かれた。どこまで任せるかを決めるのは人。この点は、基調講演の主題とも重なる。
試してみるなら、IBMのコミュニティサイトに、初級から中級までのハンズオン教材の案内がある(トライアルは30日間無料)。筆者が試した範囲では、3つのLabを終えるのに使ったのはトライアル予算の約1割だった。刷新を考えているコードがあるなら、まずはその一部を渡して、分析と計画づくりまでを任せてみると、Bobの得意な仕事が見えやすい。
スンダレサン氏は最後にBobalyticsを改めて挙げ、基調講演をこう締めくくった。
「アナリティクス(利用状況の分析)なくして、AIは成り立ちません。トークンを数え、コストを数え、能力を数えてください」
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斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)
株式会社翔泳社 ProductZine編集長。1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。ソフトウェア開発専門のオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」の企画・運営を2005年6月の正式オープン以来担当し、2011年4月から2020年5月までCodeZine編集長を務めた。教育関係メディアの「EdTechZine(エドテックジン)」...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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