CodeZineにて「世界ハッカースペース・ガイド」を連載中の、高須正和さんらによる新刊『メイカーズのエコシステム ~新しいモノづくりがとまらない。~』が1月29日より発売されます。
仕様
- 書名:『メイカーズのエコシステム ~新しいモノづくりがとまらない。~』(電子版/印刷版)
- 著者:高須正和+ニコニコ技術部深圳観察会
- 出版:インプレスR&D
- 頁数:396ページ
- 定価:電子版1800円+税 印刷版2800円+税
- ISBN:978-4802090650
- 発売日:2016年1月29日
- その他情報:書籍:メイカーズのエコシステム ~新しいモノづくりがとまらない~(ニコ技深圳観察会)
著者からのコメント
iPhoneが製造されている中国の工業地帯、深圳。そして最も偽物のiPhoneが「発明」されているのも、深圳です。様々な計画と、そして計画の失敗によって製造業に関する投資が世界中から集まり、「製造業のハリウッド」と呼ばれるようになった深圳では、シリコンバレー出身のベンチャーたちが泊まり込み、日夜Kickstarterに出すためのハードウェアを発明しようと手を動かしています。
中国人たちも各種の真似っこドローン、偽物ホバーボードなどを作り上げ、あるものは小型化し、あるモノは無線で動かし、、としているなか、本家セグウェイと特許で争っていたXiaomiグループは、なんと発明はしたものの一向にヒット商品が出ないセグウェイを買収してしまいました。
Linuxの黎明期であれ、Webアプリがこの世に出たときであれ「カオスで怪しいがアツいもの」が世の中に現れることはあります。
本書は、日本を含む世界のメイカーがどうやって国境をまたいだ生態系を作っているのかをレポートしたものです。深圳の良くも悪くも即決で手を動かす姿勢が、日本の大企業に新しいプロジェクトを生んだ様子や、深圳の人たちが日本のクリエイティブを尊敬していることなど、お互いに影響を与え合っていることが書いてあります。
解説:「深圳をめぐる個人史・都市発展とイノベーション」(山形浩生)から抜粋
本書は、いわゆるメイカーズ運動の最近の動向の一部を紹介するものだ。筆頭著者である高須正和氏の旗振りで深圳を訪れた日本の多くのメイカーズたちは、その地で展開されている各種のメイカーズ的な活動にかなりの衝撃を受けた。
もちろん、秋葉原の30倍と呼ばれる深圳華強北の巨大な電気街は、メイカーズを興奮させずにはおかない。でもそれにとどまらず、ただの面白半分の工作からプロトタイプ製作、果ては起業までを技術的にも製造プロセス的にも、さらには資金的にもサポートできる環境を目の当たりにしたことは、多くの人々にとって、自分たちのやっている活動が、実はもっと大きな流れの中に位置づけられるということを改めて気がつかせてくれる、希有な機会ではあった。(略)
いまの深圳の状況は、ひょっとしたら過渡的なもので時代のあだ花なのかもしれない。いまのおもしろい状況は、たまたま中国が低賃金量産拠点を卒業して中進国の罠にはまりつつある中で、これまでの量産サポート産業が遊休化し、そうした中小企業が必死で活路を探しているために生まれただけという可能性はある。経済産業の環境が少し変わるだけで、それらの条件は一掃されてしまうかもしれない。(略)
しかしそれでも、いまの深圳が非常に希有な環境を作り出していることは否定できない。そしてそれがシリコンバレーの資金や起業育成の仕組みと組み合わさることで、他のところには見られない広がりが生まれつつある。しばらくはーたぶん最低でもあと五年はーこのおもしろい環境は続くはずだ。
そしてその環境は、逆に他の地域のメイカーたちにも刺激を与えているのが本書からはうかがえる。それは別に、深圳と同じことをやろうとするという意味ではない。たとえばシンガポールには、シンガポールなりの焦点がある。でも一方で、他の国、たとえば日本のメイカーが深圳の仕組みを活用するのも、現在では決して難しいことではない。そうした環境があると知るだけで、メイカーとしての活動の可能性は大きく広がる。たぶん本書の最大のメッセージは、その可能性の広がりなのだ。
目次
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まえがき
第一章 メイカームーブメントってなんなのか
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ムーブメントの全体像、メイカーの経済、技術、社会規範
- なぜメイカームーブメントが注目されているんだろう?
- ソフトウェアにおけるオープンソース、スタートアップ企業という存在
- 情報革命の波がハードウェアに到達した
- メイカームーブメントが政府や教育に与えている影響
- Makeの原点は「科学する心」
- 売り手や買い手の関係が曖昧になる同人的な世界
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メイカービジネスのレイヤー
- メイカービジネスを実現した要素
- ドリーマーはどうやってメイカーになるのか?
- メイカーはどうやってベテランメイカーになるのか?
- ベテランメイカーはどうやってハードウェア・スタートアップになるのか?
- ハードウェア・スタートアップからメーカー企業へ
第二章 メイカーズで世界はどう変わるのか インディーデザイン(同人ハードウェア)の誕生
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世界のメイカーを支援する企業Seeed
- 下請けからアイデアのハブに
- 同人ハードウェアと呼べる市場を作ったSeeed のビジネス
- Seeed 代表、エリック・パンのバックグラウンド 起業家としてまた同人ファンとして
- Seeed のアジャイル・マニュファクチュア・センター(敏捷製造中心)
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Seeed を生んだ街 深圳の発展史
- あらゆる部品が並ぶ華強北
- 深圳を仮想化したサービスとして提供するSeeed
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インディー・デザイン(同人デザイン)ハードウェアの誕生
- メイカー= Prototype, Produce, Promotion
第三章 同人ハードウェアからメーカー企業へのハードな道
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同人ハードウェアからメーカー企業へ加速させるHAX
- ホビイストでありスタートアップでもあるメイカーを支援
- HAXのプログラム
- メイカーからメーカーへ「HAXブースト」
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Hardware is hard(ハードウェアは物理的で大変)
- MITの「深圳の男」、バニーの見る深圳のサプライチェーン
- GIFカメラ「OTTO」のチャレンジ
- 深圳で日本向けのハードウェアの小ロット生産をする
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深圳の可能性とハードウェアを量産する現実 寄稿:藤岡淳一
- 深圳に自社工場を持つ「ジェネシス」
- ファブレスから非ファブレスへの転換
- 深圳でハードウェア開発を行うためのアドバイス
- ジェネシスと仕事をしたい日本のメイカーへのメッセージ
第四章 政府とメイカームーブメント
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深圳政府とメイカームーブメント
- 首相がメイカースペースにコミット
- 準備だけで数週間かかる、街を挙げた一大イベント、メイカーフェア
- 人人都是創客(We are makers)
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世界でいちばん小さい国のメイカームーブメント シンガポール
- 技術者を育てる、教育国家シンガポール
- シンガポールのスタートアップ、ドローンがビールを運ぶレストラン
- シンガポールのIT投資の蓄積、社会規範のアップデート
- 数学の達人の首相、ギークの大臣を持つシンガポール
- 世界で最初のスマート国家を目指す
第五章 日本からコミットする 日本のメイカーの生態系
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日本の大企業に作った、深圳みたいなスペース 寄稿:井内育生
- イメージを形にする楽しさを実感する
- ファブラボメンバーになった
- ハードウェアベンチャーはどうなっていたか?
- 業務として進めるために
- 刺激的だった深圳ツアーとその後の急展開
- 深圳での経験から「つくる~む新横」がスタート
- どんな場所にするか?
- 何かが始まる兆し
- 「つくる~む」は「出島のような場所」を目指す
- 深圳ツアー体験記 寄稿:江渡浩一郎
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ロボティクスファッションクリエイター、アキバ発・深圳行き 寄稿:きゅんくん
- はじめての深圳は
- Makeに出会うまで
- メイカーフェアで火が付いた
- アキバ発イベント、世界のメイカーフェアに飛び出す
- AKIBAからのハードウェア・スタートアップ 寄稿:小笠原治
- あとがき
- 参考文献一覧
- 解説 深圳をめぐる個人史・都市発展とイノベーション 山形浩生
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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)
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