市場のレッドオーシャン化とコンテンツのリッチ化がもたらす課題
gumiがデータ分析に取り組むことになった背景として、昨今のソーシャルゲームを取り巻く環境の変化がある。その1つが「市場のレッドオーシャン化」だ。
市場に多くのゲームがあふれるとユーザーが分散し、新規ユーザーが増えづらい状況になる。新規ユーザー数の伸びが離脱ユーザー数を下回ればアクティブユーザー数が減り、売上が低下してしまう。こうした厳しい環境の中で新規ユーザー獲得や離脱防止のために、より魅力的な企画や機能の提供、さまざまな改善を行っていかなければならない。結果として、ディレクターやプランナーの仕事がどんどん増えていくことになる。
さらに、そこに拍車をかけるのが「コンテンツのリッチ化」だ。コンテンツの開発に時間がかかるようになったことで、ディレクターやプランナーが1つのプロジェクトに長期間拘束され、従来よりも各プロジェクトにアサインできるリソースが限られるようになってきた。
「こうした人的リソースの希薄化を補うための取り組みとして、データ分析に基づいた改善が必要と考えた」と今村氏は社内分析チーム発足の経緯を話す。
社内データ分析チームが生み出す3つの価値とは
では、なぜ外部のデータ分析会社に依頼するのではなく社内で取り組むことにしたのか。
分析技術だけを考えればデータ分析会社の方が知見を持っていると考えられるが、プロジェクトによって「現場の事情」は異なり、それらを踏まえたソリューションの提供が望まれる。しかし、外部のデータ分析会社が現場の事情を把握するのは難しい。また、データ分析は繰り返し継続的に取り組むことで価値が高まる。その点においても内製化が有効といえる。こうした議論を重ねたうえで、今村氏らは「社内にデータ分析チームを立ち上げた方がより効率的である」との結論に至ったのだという。今村氏は、この社内分析チームと社外のデータ分析会社の違いを、「かかりつけ医」と「大学病院」に例えて下図のように表した。
続けて、社内データ分析チームが生み出す価値として、今村氏は次の3つを挙げた。
- 現場に寄り添ったソリューション
- 標準化
- 現地化
1つめの価値について、今村氏は「どんなにすばらしい成果が期待できるソリューションであっても、現場でそれを扱えなければ意味がない。現場の意思を汲んだうえで、確実に実行できるものを提供することが重要」と説明。
2つめの「標準化」は、分析の結果得られた知見を別のプロジェクトに横展開するなど、データを相互比較すること。そして3つめの「現地化」とは、確立した分析を現場に落とし込むことだ。分析チームが試行錯誤して生み出したノウハウを各プロジェクトチームが直接活用できるように展開することで、より効率的なデータ分析が可能となる。この現地化が「最終的に分析チームが目指すゴール」だという。
データ分析業務の主なタスクとしては、ヒアリング、現状の診断と課題の抽出、施策の提案・実行、施策の評価とレポート提出などがある。今村氏はこれらを病院での治療に例えて説明した。
「例えば、現状の診断と課題の抽出は『健康診断』や『人間ドック』、施策の評価とレポート提出は『治療後の経過観察』のようなもの。医師と患者が二人三脚で治療を進めていくのに似ている。継続的に取り組む必要があるところも同様」
こうした取り組みをスタートして間もなく、gumiのデータ分析チームが直面したのが個別化と標準化の課題だ。あるプロジェクトに対して有効なソリューションを提供しようとすると個別最適化されていくが、そうなると会社全体での知見の横展開、標準化が進まない。そこで、データ分析チームではKPIを3種類にレベル分けして計測・管理する仕組みを取り入れている。
「ほぼすべてのゲームに共通する指標をL1、ある程度共通するが意味合いや計測方法がゲームごとに異なる指標をL2、各ゲームで完全に異なる指標をL3とした。L1とL2はどのゲームでも見られるようにして知見を横展開し、個別に見るべきポイントもL3でしっかり見ていく。こうして標準化と個別化の両方に対応できるようにしている」
なお、データ分析業務は継続して取り組むのが基本であるがゆえに、何も対策しなければ「いずれ業務があふれかえる」ことに注意が必要だと今村氏は指摘する。そうならないためには、確立した分析を現場に落とし込む現地化のほかに「やらないことを決める」ことも重要だという。
「売れているゲームは、データ分析で改善点を探すよりもイベントなどの施策をどんどん打つ方が効率的に売上が伸びる。その段階では、まだデータ分析を必要としていないということ。また、分析チームが単なる『データの取り出し屋さん』にならないように注意していただきたい。現場から要求されるままにデータの取得に忙殺されていると、肝心の『分析』が進まなくなってしまう」