基本的な考え方の理解に重点を置き、各人のメンタリングにも注力
今回は単なる基礎技術研修ではなく、アジャイル開発の考え方をビジネスの視点も含めて育成するという新しいコンセプトだ。それだけにカリキュラムの設計にも新しい発想で臨んだと語る新田氏は、もっとも重要視したポイントとして以下の3つを挙げる。
【1】“アダプティブ×アクティブ”学習の実践
研修でよくある課題として、難易度設計の難しさが挙げられる。経験者に合わせると初心者がまったくついて行けない。逆に初心者に合わせて集合研修的に行うと、経験者が手持ち無沙汰になり、最悪の場合は失望して研修後に辞めてしまった例もあるという。そこで今回、新田氏が導入したのが「アクティブラーニング」という手法だった。
「単に自分ができるようになるだけでなく、自ら体験したことを他の人に教えられるレベルまで習熟度を上げていく考え方です。特に経験者には、自分ができるだけでは不十分で、それを他の人に教えられるまでがんばろうと話して意識付けをしました」
クラス内で習熟度別に「教える」「教わる」立場を設け、経験者と初学者双方に学びを得られるようにした。一方、メンター側はオンラインで各人の学習の進捗を見て、遅れている人にはSlackを使って声をかけるなど、疑問があればいつでもこちらに質問できる態勢を整えた。
【2】「How」ではなく「Why」と「What」
研修では3カ月間合計で30以上のワークを実践したが、初心者にフレームワークを実践させるだけでは、「なぜこれが必要なのか」「なぜこうなるのか」という肝心の内容や目的、共通点などの理解にはつながらない。
「そこで、例えばアジャイル開発にしても『そもそもなぜアジャイルなのか』といった基本コンセプトの説明に大半の時間を割き、それ以外の『How=やり方』の講義はほとんど行わないようにしました」
【3】ファシリテートとメンタリング
研修前のアンケートによると、会社の方向性や価値観に「共感を持っている」と答えたのはわずか2%程度だったという。いくらスキルを身に付けても、これでは意味がない。そこで研修では、全体のファシリテートやチームのメンタリングに力を注ぐことにした。さらに定期的な1on1や毎日のKPT(振り返り)で、モチベーションや研修姿勢を確認しながら、つまずいた人のフォローアップなどを徹底的に行ったと新田氏は明かす。
経営層や開発現場を巻き込んだ「最終成果発表会」に大きな手応え
研修の総仕上げとなる「最終成果発表会」では、セゾン情報システムズの技術担当役員や事業責任者を招き、3カ月間の取り組みの内容を紹介しながら、チームでアジャイル開発を進めて作成したプロダクトの成果を発表した。
「開発の現場からも30~40名の方が来てくださり、技術やビジネスの観点からいろいろな質問が寄せられました。わずか3カ月でしたが、この成果発表でいろいろな人を巻き込んで、研修生の努力の成果を見せる場を作れたことが、全員にとって良い刺激になりました」
新田氏は今回の研修を振り返り、「やってみて良かったこと」として、「【1】高いプログラミング習熟度の実現」「【2】エンゲージ・モチベーションの向上」「【3】リアリティの体験」の3項目を挙げる。
「研修中に各人のスキルを可視化して、それをもとに学習設計をすることで、高いプログラミング習熟度を実現できました。またエンゲージへモチベーションの向上には、こちらが一方的に『伝える』のではなく、明確なミッションを設けた上で、取り組むにあたってのメンタリングや人事担当者を交えたフォローが大事だと感じました」
ちなみに「リアリティの体験」とは、「アジャイルの現実を知ること。もし自社の研修にアジャイルを導入しようと思う企業があれば、よく言われるようにアジャイルは楽しいなどという幻想を抱かず、相当大変なことを肝に銘じるのをお勧めします」と新田氏はクギを刺す。
まとめとして新田氏は、今回の研修で新人研修からも本格的にアジャイル開発を導入できるという確信を得たと語り、「既存のビジネスや技術をきちんと理解しながら、バイモーダル型の研修を、現場を巻き込んで継続していくことで、新しい組織文化を構築していけると考えています」と力強く展望を述べてセッションを終えた。
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