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新卒でもアジャイルを実践! オンライン学習とディスカッションを組み合わせた「チーム型・実践型研修」【デブサミ2019夏】

【A-3】新卒社員研修からはじめるアジャイルソフトウェア開発チームのつくり方

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2019/07/24 12:00

 ソフトウェア開発者の人材不足が深刻化する中、優れた人材をいかに社内で育成していくか。手法の確立が、企業の重要な課題となっている。ギブリーでは2019年春、大手システム開発企業の新卒社員研修を「新卒社員研修からはじめるアジャイルソフトウェア開発チームのつくり方」というテーマで実施。オンラインプログラミングやアジャイルプロセスの実践研修で、次世代の開発組織を作る試みに挑戦して大きな成果を挙げる。その過程をギブリーの取締役である新田章太氏が振り返った。

株式会社ギブリー 取締役 新田章太氏
株式会社ギブリー 取締役 新田章太氏

「モード2人材」を育成し、アジャイルな組織文化を目指す研修を

 HR Tech分野でさまざまなサービスを展開し、高い評価を獲得している株式会社ギブリー。同社では2019年4月~6月末までの3カ月間、株式会社セゾン情報システムズの新卒社員25名を対象にした新人エンジニア研修を実施した。

 「セゾン情報システムズは、ガートナーの提唱したITマネジメントモデル『バイモーダルIT』の考え方をもとに、従来のSIerにおける開発技術や開発プロセスからの脱却と刷新を図ってきました。近年は、バイモーダルIT(注:主に従来型の業務システムを中心とする考え方を『モード1』、新しいテクノロジーを中心とした考え方を『モード2』という“2つの視点”を使い分ける手法のこと)で言われる『攻めのITと守りのIT』を意識的に分けた組織作りを進めています。今回の新人研修も、そうした改革の延長線上に位置付けられます」

【1】バイモーダルによる「守りのIT」と「攻めのIT」

 2つの視点でそれぞれ未来を担う人材を育てる研修を実現する。

【2】ビジネス要素×技術要素のバランス

 両者の視点でバランスのとれた研修内容を設計する。

【3】スキル・指向性の差への対応

 技術レベルや指向性がバラバラでも、一人ひとりの成長・効果を最大化できるようにする。

 「特に3つ目は、研修開始前に受講者全員にアンケート調査を実施したところ、各人の差異が大きいことに気づきました。そうした条件下でも、研修効果を最大化できる方法を探ることが重要だと考えたのです」

攻守の両面からITへの理解を深め、学び続けることで組織文化を変える研修を目指した
攻守の両面からITへの理解を深め、学び続けることで組織文化を変える研修を目指した

オンライン学習とディスカッションの「チーム型・実践型研修」

 研修カリキュラムは、プログラミングの基礎から始めて、全員がビジネス基礎研修を受講した後、徐々にビジネスと開発に分かれていく。これを3カ月かけて学習し、最終的に新規事業を立案してプレゼンテーションを行う「成果発表会」をゴールに据えた。チームで取り組むとはいうものの、実際のビジネス企画から開発までを実践することは、就業経験のない学生にとって少々ハードルが高い。技術以外の面、例えば財務なども視野に入れなければならないからだ。

 「そこでカリキュラムを、『デザインシンキング』『リーンスタートアップ』『アジャイル(スクラム)』の3つをベースに構築することに決めました。さらに実施にあたっては、各人のスキルや指向性の格差を埋めるためにオンライン学習を導入。各人のペースで学習できる体制を整え、習熟度の差をカバーするようにしました」

 この結果、個人の能力差はオンライン学習できるだけ平準化し、一方のオフラインの場では、新規事業のプロジェクトを全員でディスカッションしながら進める「チーム型・実践型研修」のスタイルを確立した。さらに各人に対しては、オンラインメンタリングによるフォローを行う仕組みだ。

 「オンライン学習には、『Udemy』というサービスを利用しました。またメンタリングには、当社のプログラミングスキルチェックツール『track(トラック)』を使って各人の学習進捗を『可視化』し、個人やチームの状況を詳細に把握しながらサポートしていきました」

カリキュラムは、モード1への理解と基礎から始めて、徐々にモード2へと実践化
カリキュラムは、モード1への理解と基礎から始めて、徐々にモード2へと実践化

基本的な考え方の理解に重点を置き、各人のメンタリングにも注力

 今回は単なる基礎技術研修ではなく、アジャイル開発の考え方をビジネスの視点も含めて育成するという新しいコンセプトだ。それだけにカリキュラムの設計にも新しい発想で臨んだと語る新田氏は、もっとも重要視したポイントとして以下の3つを挙げる。

【1】“アダプティブ×アクティブ”学習の実践

 研修でよくある課題として、難易度設計の難しさが挙げられる。経験者に合わせると初心者がまったくついて行けない。逆に初心者に合わせて集合研修的に行うと、経験者が手持ち無沙汰になり、最悪の場合は失望して研修後に辞めてしまった例もあるという。そこで今回、新田氏が導入したのが「アクティブラーニング」という手法だった。

 「単に自分ができるようになるだけでなく、自ら体験したことを他の人に教えられるレベルまで習熟度を上げていく考え方です。特に経験者には、自分ができるだけでは不十分で、それを他の人に教えられるまでがんばろうと話して意識付けをしました」

 クラス内で習熟度別に「教える」「教わる」立場を設け、経験者と初学者双方に学びを得られるようにした。一方、メンター側はオンラインで各人の学習の進捗を見て、遅れている人にはSlackを使って声をかけるなど、疑問があればいつでもこちらに質問できる態勢を整えた。

【2】「How」ではなく「Why」と「What」

 研修では3カ月間合計で30以上のワークを実践したが、初心者にフレームワークを実践させるだけでは、「なぜこれが必要なのか」「なぜこうなるのか」という肝心の内容や目的、共通点などの理解にはつながらない。

 「そこで、例えばアジャイル開発にしても『そもそもなぜアジャイルなのか』といった基本コンセプトの説明に大半の時間を割き、それ以外の『How=やり方』の講義はほとんど行わないようにしました」

【3】ファシリテートとメンタリング

 研修前のアンケートによると、会社の方向性や価値観に「共感を持っている」と答えたのはわずか2%程度だったという。いくらスキルを身に付けても、これでは意味がない。そこで研修では、全体のファシリテートやチームのメンタリングに力を注ぐことにした。さらに定期的な1on1や毎日のKPT(振り返り)で、モチベーションや研修姿勢を確認しながら、つまずいた人のフォローアップなどを徹底的に行ったと新田氏は明かす。

“アダプティブ×アクティブ”学習によって、チームでスキル格差を克服
“アダプティブ×アクティブ”学習によって、チームでスキル格差を克服

経営層や開発現場を巻き込んだ「最終成果発表会」に大きな手応え

 研修の総仕上げとなる「最終成果発表会」では、セゾン情報システムズの技術担当役員や事業責任者を招き、3カ月間の取り組みの内容を紹介しながら、チームでアジャイル開発を進めて作成したプロダクトの成果を発表した。

 「開発の現場からも30~40名の方が来てくださり、技術やビジネスの観点からいろいろな質問が寄せられました。わずか3カ月でしたが、この成果発表でいろいろな人を巻き込んで、研修生の努力の成果を見せる場を作れたことが、全員にとって良い刺激になりました」

 新田氏は今回の研修を振り返り、「やってみて良かったこと」として、「【1】高いプログラミング習熟度の実現」「【2】エンゲージ・モチベーションの向上」「【3】リアリティの体験」の3項目を挙げる。

 「研修中に各人のスキルを可視化して、それをもとに学習設計をすることで、高いプログラミング習熟度を実現できました。またエンゲージへモチベーションの向上には、こちらが一方的に『伝える』のではなく、明確なミッションを設けた上で、取り組むにあたってのメンタリングや人事担当者を交えたフォローが大事だと感じました」

 ちなみに「リアリティの体験」とは、「アジャイルの現実を知ること。もし自社の研修にアジャイルを導入しようと思う企業があれば、よく言われるようにアジャイルは楽しいなどという幻想を抱かず、相当大変なことを肝に銘じるのをお勧めします」と新田氏はクギを刺す。

 まとめとして新田氏は、今回の研修で新人研修からも本格的にアジャイル開発を導入できるという確信を得たと語り、「既存のビジネスや技術をきちんと理解しながら、バイモーダル型の研修を、現場を巻き込んで継続していくことで、新しい組織文化を構築していけると考えています」と力強く展望を述べてセッションを終えた。

1カ月のプログラミング研修で、全体の習熟度向上を実現できたのは大きな成果
1カ月のプログラミング研修で、全体の習熟度向上を実現できたのは大きな成果

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  • CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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