「デベロッパーにオープンなLINE」へ、キッカケはMessaging API
砂金信一郎(以下、砂金) 戸倉さんと僕というと、マイクロソフト時代の1 on 1を思い出しますね。
職業「戸倉彩」(以下、戸倉) そうですね。もともと私はマイクロソフトに営業で入ったのですが、砂金さんと案件をやろうという形で仕事が始まったものの、一方で、「クラウディア・窓辺」をトリガーに「開発者向けにいろいろ祭りをやろう」という流れがあって。
砂金 いい意味で私物化していただいて。楽しかった、あの頃。
戸倉 楽しかったですね。その頃のLINEはどうだったのでしょうか? デベロッパーとのリレーションシップとして何かやっていたのですか?
砂金 そのあたりの経緯をお話しておくと、LINEがいわゆる外向けのDevRelみたいなものを意識してやり始めたのは、ちょうど僕が入る若干手前くらいのタイミングです。LINEはいま決済などいろいろなサービスを世の中に出しています。開発者向けにもAPIやSDKの形で提供していますが、一番のキッカケとなったのが「Messaging API」です。LINEのトーク画面の中でメッセージを送ったり、ボットを実現するためのAPIをデベロッパートライアルという形で始めました。2016年4月頃です。僕が入ったのはそのタイミングです。
それまでは、必然性がなかったというのも理由の1つですが、どちらかというとLINEが外向けに何かを積極的に技術広報することは少なかった。もちろん、オープンソースのコミュニティなどでがんばっている人たちはたくさんいましたが、LINEに所属していることはあまり言わずに、いわゆるハンドル名などで活動するというのが基本でした。
それが、Messaging APIを出すという時点で「すごくいいものだからみんなに使ってもらいたい」と、対エンドユーザーでも、対広告主のお客さんでもなく、対デベロッパーに対して、どうやってリーチをしたらいいんだろうというのを考え始めた。まさにその頃でした。また、現在サービスの幅が急激に広がっていて、自社のエンジニアを3000人くらいまで増やそうと考えているのですが、そうなると「何をやっているかよくわからない、秘密結社のLINEさん」というイメージでは、デベロッパーのみなさんに興味を持ってもらえないわけですよ。技術スタック的にはこういうミドルウェアを使って、開発言語的にはこんなものを使って、こんな有名な開発者のみなさんと一緒に仕事をしませんか、というような、いわゆるテクニカルブランディングみたいなことをやっていかないと、いまは採用もままならない。
我々がいろいろ内部でやっている活動を外に出すというのはよいことも悪いことあるのですが、社内外かかわらず、よりよいサービスや機能を生み出すためにオープンにしようと、2016〜17年くらいで、一気にギアが変わった感じです。
戸倉 最初から、DevRelのチームをリードされるという形で入ったのですか?
砂金 当時はDeveloper Relationsというチームがあったわけではなくて、目的はMessaging APIを広く世の中に提供し、そのエコシステムを盛り上げていくことでした。開発会社向けのコミュニケーションも、個人デベロッパー向けのコミュニケーションもそれに含まれるわけですが、基本的には使ってくれるお客さんを増やそうと、最初に行った施策がLINE BOT AWARDです。
戸倉 賞金1000万円の、ですね。
砂金 はい、これはもう完全にデベロッパー向けのもの。一部、パートナー企業さんもおもしろがって参加してくれましたが、基本的には個人の開発者の方々向けです。僕がLINEに入る、入らないみたいな最後の話をしていたのがちょうどベースのプランニングを始める時期で、入ってみたら、いわゆるデベロッパー向けのアワードを展開していく上で決めておかなければいけないこと、準備していかなければいけないことが何もできていなくて。そこから、僕が入っていろいろ整備し始めた。イベント自体はすごくよい盛り上がりで、成功裡に終わりました。
そうこうしているうちにLINEをAPI経由で使うことが一般的なことになり、プラットフォームを盛り上げていく特殊部隊は一度解散しよう、と。そこで、こういう活動をどうしていくのかという話になりました。ビジネス側に行って技術的なサポートをするというのも1つの選択肢でしたが、僕らが当時からやっていたのも、そもそも特定のMessaging APIだけを扱うものではなくて、ハードウェアとの連携であったり、ソーシャルログインやいろいろなものを組み合わせた価値提案だったりするわけで、そういう話でいくとプロダクト横断的に見渡せるところがいい。それなら、CTO直下がいいだろうということで、開発側に、Developer Relationsチームを作りました。最初は二人しかいなかったのが、そこからだんだんと人数を拡大していって、今ではDeveloper Relations室となるまで大きくなりました。
開発側にいるので、いわゆるエバンジェリスト的な技術啓蒙活動と外部の開発者からの声を集めるアドボケイト的な活動、両方一緒にやっているチームです。日々、デベロッパー向けのミートアップ、ハンズオン、ハッカソンなどをやっていますが、そこでの要望を必要に応じて開発側に反映する。僕らの直の上司はCTOなので、いろいろな開発チームに協力要請もしやすいという立ち位置です。
外資系企業のDevRelチームの場合、開発の本丸は米国などの本社で、日本からはすごく長い経路を伝っていかないとプロダクト開発にフィードバックができない。その点LINEは日本が本社で、かつCTO直轄のところにDevRelチームがあることで、機能開発をしているメンバーへのフィードバックはしやすいですね。
戸倉 そこでお聞きしたいのですが、LINEはアジア圏に拠点が複数あると思いますが、他のリージョンにも、同じように、部署あるいはチームという形でDevRelチームがあって、そこから要望を吸い上げて、本社でそれらをマージするという流れなのですか?
砂金 チームというか、担当はいます。たとえば、この間タイで1000人規模の大きな開発者向けイベントをやり、日本から私も含め支援に行きましたが、現地のチームがイベントを取り仕切っています。タイだけではなく、台湾、インドネシア、韓国と、いろいろな仕事をやりながらDevRelをやっているチームがあって、彼らとつながりながら進めています。といっても、日々細かなレポートをあげてくれ、とかそういう形ではなく、ゆるいつながりです。
基本的にはそれぞれの地域でデベロッパーのコミュニティのあり方も全然違います。たとえば、台湾はIoT的なハードウェア分野の人たちが多いし、タイは、Google Developer Group(GDG)との連携がうまくいっています。タイでDevRel担当として活躍してくれている人がもともとGoogle Developer Expert(GDE)だったこともあり、Androidアプリを作っていたGoogle系のエンジニアの人たちから割と距離が近くて、僕らが何かイベントをするとだいたいGDGに来ている人たちが来る。ただ、日本のLINE Developer Communityの場合はもうちょっとサーバー寄りな人たちが多い。それぞれ色合いが違うかなと思います。
LINEの場合、本社一括集約でいろいろなことを標準化するというのではないですね。DevRel活動に限らず。やはり、エンドユーザー目線ですよね。自分たちにとってのエンドユーザーは、それがアプリなら日々使ってくれる人だし、いろいろな観点のお客さんがいます。DevRelの活動で言うと、僕らのAPIやSDKを組み込んでアプリやサービスを作ってくれる人がお客さんで、彼らが本当に必要としているものが何かをきちんと考えて活動することが大事なのだというのが、LINEの考え方です。