DevRelのベースはLINEのエンジニアカルチャー
戸倉 LINEらしさを生かしたDevRelの「?か条」とか、あったりしますか?
砂金 LINEのエンジニア全体でのカルチャーがあって、そこと乖離があるわけではないですね。二階層あって、CTOの朴イビンさんが「Take Ownership」「Be Open」「Trust and Respect」をエンジニアカルチャーとして定義しています。それを社内で広めるのも僕らDevRelチームの仕事の一部なので、もちろんそこからは外れない。加えて、LINEという会社全体で、先の「CLOSING THE DISTANCE」はトップレベルの標語ですが、その下にLINE STYLEという行動規範のようなものが11項目あります。エンジニアカルチャーの標語とLINE STYLEがあればDevRelとして決めなくてもいいかなというので放置されているのが、今。僕がいけないのですが(苦笑)。何かあったらいいな、とは思います。
戸倉 すると、部署として目指す方向性を共有するためにどういう工夫をされているのですか?
砂金 一応、それぞれの活動にKPIが設定されていて、それを評価の軸として置いてはいますが、その数字を達成するために何でもするというのはないです。目の前にいるお客さん、僕らの場合、開発者のみなさんの満足度がすべてなので。それを可視化するのに、それこそアンケートに基づく満足度がいいのか、コミュニティの参加人数のほうがいいのか、1つというよりは、複数設定したものを見ながら優先度を判断している感じです。そこはたぶん、みんな苦労しているところだと思います。
戸倉 DevRelも年によって、けっこうトレンドが違うと思います。たとえば、まだまだWebアプリ、モバイルアプリが中心だけれど、もしかしたら言語のトレンドかもしれないですが、変わっていくと思います。それにどう対応していこうとしているのかお聞きしたいです。一緒になって勉強して、なるべくトレンドに乗った形でやろうとしているのか、それともLINEはこうだ、という形で貫くのか。
砂金 それでいうと、圧倒的にユーザー目線で考えるという文化なので、自分たちの勝手な思い込みとか都合で突っ走るというのは、基本ないです。みんなに求められていそうなことを、適切なタイミングで提供していく。コンテンツだったり、コードだったり、コミュニティの活動だったりという形で。
戸倉 かなり大変なことですよね。
砂金 DevRelチームの人たちもアンテナ感度が高い人たちが多いし、あとは外部との接点で協力してくれそうな人たちがみんな協力してくれます。トレンドウォッチすることが彼らの仕事ではないけれど、これ最近どうですかと聞くと教えてくれる。個別センサーの集合体としてのLINEのデベロッパー組織は、わりと世の中の流行り廃りにすごく敏感に反応しやすいのではないかなと思います。
戸倉 櫛井さんを見ていると、すごく柔軟性が高いなと思います。彼の場合はLINEのカルチャーエバンジェリストということで、日本の中でも珍しい、ある意味テクノロジーを広めるというよりは、エンジニアの生き様を含めて、みんなで考えていこうというのが特徴的かなと思います。
砂金 彼は、社内で協力してくれそうな人たちを適切に見つけてきて、口説いて、仲間にするという能力がずば抜けて得意なので。社内のみんなとコネクションができている人はすごく大事だったりします。LINEにはいま日本だけではなく、いろいろな国からエンジニアとかが入ってきて、ものすごい勢いで多様性が広がっています。いろいろというのは国籍だけではなく技術的なバックグラウンドを含めて、ですが、それをキャッチアップできていなかったとすると、僕らのメッセージが硬直化してしまう。何がメインストリームなのか、どういう課題があるのか、常に社内外の状況を把握する立ち位置かなと思います。だいたい、そういう大きめの課題が一番集まってくるのはCTOのところですね。CTO的な人の情報の求心力はすごく大事だなとは思います。僕らは、彼女に集まったものをサポートするみたいな立ち位置に立っていれば、おおよそ自分たちで全部聞いて回らなくてもだいたいの状況を把握できると思っています。
ただ、LINEは手掛けている範囲が広いのとグローバルなので、たぶんLINEのCTOが抱える課題は多岐に渡っていて、それを丸投げされる僕らの苦しみも多岐に渡るという。けっこう難しいことをやっているなという気はしています。日本国内にしかマーケットがなくて、開発者が日本人しかいなくて、作っているプロダクトが1つという状況なら、別にそんなに悩む必要はないと思いますが、それよりはもうちょっと生態系が複雑かなと思います。
戸倉 DevRelを通した成功体験として印象深いものを教えてください。
砂金 LINEとしてこの活動をやっていてうれしいなと思うのは、比較的、若い世代の人たちがLINEのAPIをちゃんと使おうとしてくれていること。すごくありがたいですよね。LINE関連の技術を扱う開発コミュニティのコアメンバーの中に高校生プログラマーがいたりします。大学生はもちろん、高校生、中学生がいろいろやってくれるのがうれしい。いまの高校生や中学生にとって身近なものがマインクラフトだったりLINEだったりするわけですよ。LINEがAPIプロダクトを用意して、ボットが簡単に作れますということを言わなかったら、たぶんプログラミングに興味を持つきっかけに出会わず、そういう道を選択していなかったわけです。やはり、中学生、高校生がおもしろがって参加してくれるのは、LINEだからかなと思っています。
そういう状況であれば、本来はプログラミング教育をもっとがんばろうとか、DevRelというよりはCSR的なことをやるべきかもしれないですが、そちらはまた別の専門組織があります。「LINE entry」という無料のプログラミング学習プラットフォームをリリースし、10月から一般公開をスタートしています。
戸倉 最後に、すごく工夫されていること、課題になっていることはありますか?
砂金 スキルセットとしてはすごくすばらしいものを持っているけど、いわゆるデベロッパーコミュニティ的なところに全然出てこない人に対してどうやってリーチしたらいいんだろうというのは悩ましくあります。
僕らがハッカソンとかハンズオンで接している人たちが、僕らがリーチしなければいけない全体の何%くらいなのか。同じエンジニアというタイトルで仕事をしているかもしれないけど、価値観やいろいろなことが全く違う人たちなので。本当は、お仕事に集中したいエンジニアのみなさんもきちんとリーチしていかないといけないはずなのですが、それを課題として持ちつつ解決できていない。
それこそ、マイクロソフト、Amazon、Googleの規模感になってくると、資格試験をやり始めますよね。新しい技術が出たら関連する資格を取ってそのために勉強して、というのも、エンジニアの成長のスタンスですし、やり方として悪くない。けど、今はそれをやれるほどの体力もないので、どうするのがいいのかなというのが悩ましくあります。
そういうのを課題に持っているからこそ、1回目のLINE BOT AWARDのときに、優勝チーム「&HAND(アンドハンド)」に1000万円を出したのです。彼らはそれぞれ広告代理店系の開発会社にいて、普段お仕事している人たちが会社の枠を飛び出して作った連携チームです。僕らからすると、LINE BOT AWARDの位置付けはオープンなデベロッパー文脈にあります。でも、普段のビジネスにもうまく寄与していたみたいで、うれしくて。そういう発見を1つ1つ積み重ねていかなければいけないんだなと思いつつも、どうしたら本業フォーカスなエンジニアのみなさんがコミュニティの世界にもっと飛び出てくれるんだろうか、と。正解がある話ではないですが、考えていきたいと思っていることですね。
『DevRel エンジニアフレンドリーになるための3C』
著:職業「戸倉彩」、中津川篤司、小島英揮
編:大内孝子
価格:本体2,200円+税
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DevRel(Developer Relations:開発者向け共創マーケティング)とは、「自社製品・サービスと、外部開発者・ユーザーとのつながりを作り上げる活動」です。 具体的には、エヴァンジェリスト、アドボケイトと呼ばれる人を中心にコミュニティを形作り、コミュニケーションを取りながら、自社製品を良くしていく(そして宣伝する)活動が一般的です。
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