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ProductZine Dayの第2回開催です。

ProductZine Day 2024 Winter

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プロダクトマネジメントの基本を学ぼう

プロダクトグロースのいろは――PMが押さえておくべき成長戦略

プロダクトマネジメントの基本を学ぼう 第9回


 前回、プロダクトの強い軸で「Cooperation」、チームを率い社内外の関係者と協力関係を構築していく部分について解説した。プロダクトマネージャーがチームを率いる際に必要となるスキルや進め方、組織の動かし方について理解が得られたところで、今度はプロダクトを成長させる部分に焦点をあててみよう。プロダクトが成長し多くのユーザーに使ってもらえることでプロダクトチームが勢いづく。どのように成長させるのか、グロース戦略のとり方とプロダクトマネジメントの交差点について考察する。

前回記事

第8回「優れたプロダクトチームの共通点とは? チーム構築のためにPMがすべきこと

グロースプロダクトマネジメント(Growth Product Management)

 0→1を超え無事PMF(Product-Market Fit)を達成できたとなれば、次はグロースステージだ。このステージにくると0→1のように何もないところから作るのではなく、すでにある程度ユーザーに受け入れられているプロダクトを進化させて、ユーザー数やビジネス規模とも大きくしていくことが求められる。

 これまでグロースハッカーと呼ばれる人たちがこのあたりを担当していたが、これはどちらかというとマーケティング的なアプローチが多くプロダクトマネジメントの領域にまでは踏み込んでいなかった。しかし現在では、グロースプロダクトマネージャー(Growth Product Manager)と呼ばれるプロダクトマネージャーとグロースハックが結びついた役職が、グロースステージにおいて見られるようになっている。プロダクトマネージャーとしてとるべき代表的なグロース戦略にはいくつかタイプがあるので、ここで紹介したい。

AARRRモデル

 このモデルはユーザーがプロダクトに気づくところからインストールし使い始めて有料ユーザーとなっていく様子を階層化したものである。定義としては以下になる。

  • Acquisition: 獲得ユーザー数
  • Activation: アカウントを作ってくれたユーザー数
  • Retention: FTUX(※)を終えてプロダクトに定着しているユーザー数
  • Referral: 他のユーザーを紹介してくれたユーザー数
  • Revenue: 有料ユーザー数
    ※FTUX: First Time User Experienceの略。ユーザーが初めてそのプロダクトに触れた時のユーザー体験

 上から下へ行くに従い通常はユーザー数が減っていくので、この形をファネル(ろう斗)と呼ぶことが多い。AcquisitionやActivationの部分をTop of Funnel(トップオブファネル)、RevenueやReferral部分をBottom of Funnel(ボトムオブファネル)と呼び、プロダクトマネージャーとしてどこに集中するかを分けて考えていく。

 ポイントは「ステージ間のユーザーの落ちがひどいところはどこか」ということだ。例えばFacebookを利用したキャンペーンや広告等でAcquisitionがうまくいき、この部分のユーザー数が増えたとしても、Activationへ移るユーザー数の落ち込みが激しければプロダクトとしては成功と言えない。なぜActivationに失敗しているのか、プロダクトのメッセージの出し方から始まってアカウント開設完了に至るまでのフローにおいてどこで一番ユーザーが離脱しているのかを分析する必要がある。その過程で「なぜユーザーが離脱するのか」に対する仮説を立てていくことになる。

ネットワーク効果

 ネットワーク効果とは、プロダクトを使うユーザーが増えれば増えるほど、プロダクトの価値が増大すること言う。

 代表的な例が、Facebook、Instagram、Pinterestだ。これらのプロダクトはユーザーがコンテンツ(テキスト、写真、動画)を載せていくことで「プロダクトを使いたいと思うユーザーが増える」→「コンテンツの投稿が増える」→「ユーザーが増える」というサイクルを生み出し、指数関数的な増大をもたらす。無論これらのプロダクトは最初から指数関数的にユーザーが増えていたわけではない。アプローチの型としていくつか挙げられる。

  1. まずは特定のセグメントでしっかりとネットワーク効果がでることを確認してからプロダクトを外へと広げていく
    Facebookは最初ハーバード大学の学生ネットワークから始まった。またアメリカで人気のソーシャルニュースサービスであるRedditは社内ユーザーによって多くのコミュニティーを作り会話のきっかけを多く作った。
  2. 次に単機能をフリーで提供しユーザーの裾野を増やす
    AdobeはAcrobat Readerを無償で配布することでAdobeユーザーの礎を築いた。
  3. そしてプラットフォームとしてサービス参加者とサービス提供者のマッチングを加速する仕組みを作る
    Airbnbはフォトグラファーを短期集中で大量投入し、宿泊場所の写真をより魅力的に一変させた。

フリーミアムとフリートライアル

 スタートアップの場合プロダクトが初期のころはまだユーザー数も少なくマーケティング予算も限られる。しかしユーザーの心理的抵抗をできるだけ少なくしてプロダクトに触ってもらわないことにはプロダクトの価値はなかなか伝わらない。

 そこでよくとられる戦略がフリーミアムやフリートライアルといった方法だ。フリーミアムとは、プロダクトの価値の一部を無償提供し、満足いったら有償ユーザーになってもらう。わかりやすい例はDropboxであろう。IPO前に提供していた無料ストレージ容量は2GBと少ないものの、モバイル向けアプリでOfficeドキュメントファイルをDropbox上で編集できる機能と、アプリから2タップでファイルを保存できる機能を他社に先駆けてリリース。こうした素早い機能改善でGoogle DriveやMicrosoft OneDriveといった大手と渡り合い、一時期はAppleがDropboxを買収しようとしたほどだった。最終的には2018年にIPOをなしとげている。

 似たような手法にフリートライアルがある。これは一定期間プロダクトのフル機能を使ってもらい、期間終了後は有償ユーザーになることで継続利用できるようにする。もちろんフリートライアルの時点で機能をしぼって提供し、トライアル終了後にフル機能を解放する場合もある。どちらの方法をとるにせよ、プロダクトマネージャーとして考えなければならないのは、フリー部分の機能は何か、という部分だ。プロダクトは最終的に収益をあげなければならない以上、フリーミアムの場合はフリー部分が広すぎてもいけないし、狭すぎても価値が伝わらない。そこで次のクロスセル・アップセルという考え方が重要になる。

クロスセルとアップセル

 プロダクトの基本的価値を気に入ってくれたユーザーがプロダクトに定着してくれたら、プロダクトは終わり、ではない。プロダクトマネージャーである以上プロダクトビジョンの実現へ向けて継続的に改善や新規機能を投入していく。ただ収益面を考えた時にただ投入すればよいというものでもない。

 例えばその新規機能を使うのには追加費用を求めることもよくある方法だ。そこにはクロスセルとアップセルという2種類のアプローチ方法がある。

 クロスセルとはそのプロダクトの別の機能を有償で提供することだ。例えばオンライン保険のサービスの場合、自動車保険をすでに加入しているユーザーに生命保険を勧めるような場合がこれにあたる。アップセルとはプロダクトの機能そのものは変わらないものの、有償でプロダクトの容量や能力を大きくする方法だ。オンラインストレージで容量が足りなくなったら有償で容量を追加するという例によく見るであろう。

 アップセルと同様の考え方としてシートエクスパンション(Seat Expansion)というのもある。これはG Suiteのように従業員の数に応じて課金額を変え、メールやビデオ会議機能など機能そのものは大きな違いはないという方法である。プロダクトマネージャーとしてはその価値の分解点をどこにどのように置くかが、プロダクトの収益性を左右する点は常に意識しておきたい。

次のページ
グロース戦略の類型

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この記事の著者

及川 卓也(オイカワ タクヤ)

 早稲田大学理工学部を卒業後、外資系コンピューターメーカーに就職。営業サポート、ソフトウエア開発、研究開発に従事し、その後、別の外資系企業にてOSの開発に携わる。その後、3社目となる外資系企業にてプロダクトマネージャーとエンジニアリングマネージャーとして勤務後、スタートアップを経て、独立。2019年...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

曽根原 春樹(ソネハラ ハルキ)

 Fortune500系外資企業に入社後、SE、カスタマーサポート、マーケティングなど様々な役職を日米で従事。その後シリコンバレーでプロダクトマネージャーに転身。B2B、B2C領域で米系大企業・スタートアップの双方でプロダクトの世界展開に携わる。現在はSmartNews社米国法人にて日本のスタートア...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

小城 久美子(コシロ クミコ)

 toC向けサービスを提供するWeb系企業に入社し、その後いくつかの企業で新規事業の立ち上げなどにエンジニア、スクラムマスターとして携わる。どう作るかより何を作るかに興味関心が移り、プロダクトオーナー/プロダクトマネージャーに転身。プロダクトマネジメントについてより深めるために、2019年よりTab...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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