グロース戦略の類型
プロダクトを成長させるといっても、マーケットの中における会社の立ち位置や、攻めに使える資本構成などによってアプローチの方法は異なってくる。戦略とは今後、何をするのかを決めるだけでなく、何をしないかを決めることでもある。
グロース戦略の場合、すること、しないこととは企業体力の持続可能性を保った投資に対する効率性を優先したグロースなのか、多少非効率でも、一気呵成にマーケットシェアを押さえに走り、ユーザー獲得のスピードを優先したグロースなのかという軸がある。またマーケットに成長性があり、その中でプロダクトがシェアをとれる可能性がありそうか不透明か、これをプロダクトの市場ポテンシャルと呼ぶとすれば、この市場ポテンシャルの度合いと先の軸によって、グロース戦略は4つの戦略の類型に分けることができる。
| 投資効率性をスピードより優先 | スピードを投資効率性より優先 | |
|---|---|---|
| プロダクトの市場ポテンシャルが不透明 | (1)スタートアップ・グロース | (2)ブリッツスケーリング(Blitzscaling) |
| プロダクトの市場ポテンシャルが明らか | (3)スケールアップ・グロース | (4)ファストスケーリング(Fastscaling) |
(1)スタートアップ・グロース
スピードを優先したグロースはリソースを使い切ってしまう可能性がある。そのため、特にスタートアップでは、リソースを使い切る危険性のあるスピード重視のグロースよりも、生き残ることを優先し、その範囲内で施策とそこからの学びのサイクルを継続的に早く回していくような、投資効率性の高いグロース戦略が求められる。
(2)ブリッツスケーリング
ブリッツ(Blitz)とは「急襲する」という意味がある。そこにスケールという言葉をかけ合わせたものが、「ブリッツスケーリング」だ。これは、もともとLinkedInの創業者リード・ホフマン(Reid Hoffman)氏が提唱した考え方で、リード・ホフマン氏の著書『ブリッツスケーリング』でも述べられている。一言で言えば、効率よりもスピードを何よりも優先し、一気呵成にプロダクトの成長をなしとげ、市場のNo.1をとる戦略と言える。また、こうした姿勢は採用にも現れる。例えばUberはかつてリファラル採用に非常に高い報奨金を用意したり、高い年収をあらかじめ記載したオファーレターを候補者に送ったりと採用のスピードとスケールを実現しようとしていた。一見するとコストがかかる戦略であるが、うまくいけば“Winner takes all(勝者総取り)”を実現できる可能性がある。
ブリッツスケールを適合できる事業には、いくつかの要因がある。1つはTAM(Target Addressable Market:ターゲットが存在するマーケットサイズ総計)のサイズが大きいこと。
2つ目はプロダクトを知ってもらい、使ってもらうためのコミュニケーション拡散経路を活用できること。それは既存の顧客基盤もしくはコミュニティーを生かしたものかもしれないし、バイラルを起こすことによって広げるものかもしれない。
3つ目は高い粗利益率が維持できること。例えば、在庫を抱える必要があるビジネスと、ソフトウェアだけで完結するビジネスを比べると後者は圧倒的に粗利益率が高い。一度作れば繰り返しかつ人の手を借りずに動き続けるからだ。
4つ目はユーザーが増えれば増えるほどプロダクトの価値が増えるネットワーク効果だ。例えばInstagramはネットワーク効果が効いたプロダクトの典型である。ユーザーが増えれば増えるほど投稿が増え、他のユーザーが楽しめるコンテンツの種類が増える。この4つの要因が満たされる事業であれば、ブリッツスケーリングを適応した際に受け取るメリットが十分期待されると言えるだろう。
一方、プロダクトの成長を阻害してしまう要因として、強いPMFの欠如とオペレーションの拡張性への投資をしないことが挙げられる。この2つがぶれてしまうと、いくら上記4つがそろっていたとしても成長軌道に乗り切れなくなる(詳細を知りたい方はリード・ホフマン氏の著書『ブリッツスケーリング』を参照していただきたい)。
ブリッツスケーリングに成功した例としては、Facebookが挙げられる。Facebookが企業として活動し始めた最初の数年、成長率は2150%、433%、219%を記録し、2007年には収益ゼロの状態から153億円に達していたが、その後の数年は成長率が二桁に落ち、広告収益力も落ちていた。そこで2012年、ザッカーバーグは2つの大きな手を打った。モバイルファーストへのプロダクトやビジネスの移行を決断し、COOシェリル・サンドバーグ氏の採用によってその成長を支えるオペレーション機能を拡張したのだ。デスクトッププロダクト中心の開発からプライオリティーを大きく変更し、ニュースフィード、シェア・コメント機能、ビデオの自動再生などの機能のモバイル対応に社内のリソースを集中した。
なぜなら、当時、スマートフォンの出荷台数が2011年から1年で44%も増え、手軽にインターネットにつながるユーザーが爆発的に増えていること、そして、モバイルデータトラフィックが年率50%以上増えているのに比例してモバイル広告市場も成長していたのだ(TAMサイズが大きい)。Facebookのプロダクトは当時26~28%の高い粗利益率を実現しており、すでにデスクトップWebを通じてディストリビューションを確立していたこともあり、モバイル市場でのディストリビューションの確立はそこまで難しい話ではなかった。モバイルアプリでもFacebookプロダクトのネットワーク効果を発揮し、粗利益を高く保つことができれば、大きく成長できると踏んだのだ。
そのためFacebookは当時社内にいたWebエンジニアほぼ全員にiOSやAndroidの教育を敢行、モバイルエンジニアを増やすための追加投資や、モバイルトラフィック急増に対応するためのインフラやオペレーション拡張の投資を行い、さまざまなエンジニアリングチームがモバイルエンジニアと同席することになった。この短期間で行ったブリッツスケールは大きな成功となり、2013年にモバイル経由のMonthly Active User数が1年で2倍に、2015年には7倍を超えるようになり、以下の通りFacebookの収益を10倍以上に押し上げることになった。
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(3)スケールアップ・グロース
マーケットがある程度確立されており、見通しがある程度予測可能な場合にとる方式。グロースプロジェクトから得られるリターンが投資額よりも常に高いことを最優先にする戦略。
(4)ファストスケーリング
事業環境がある程度安定しており予見可能だが、スピードを優先する場合にとる戦略。一時的にコストが大きくあがるが投資額から大きなリターンが見込める確度が高い場合にとられる戦略。
どの戦略をとるべきか?
では、グロース時にどの戦略を選べばよいのであろうか。(1)~(4)の戦略から選ぶ時に着目すべきは、ユーザーが増えるスピードとそれにかかるコスト、また1ユーザーから得られる収益度合い(Unit Economicsと呼ばれるもの)だ。
プロダクトの市場ポテンシャルに対し、コストを大きくかけてもプロダクトの優位性を築けるかわからないのであれば、(2)よりも(1)の投資効率性の高い戦略をとるべきだろう。この戦略をとる場合、ユーザーが増えるスピードは爆発的ではないかもしれないが、Unit Economicsがポジティブに保たれていることは(2)のグロース戦略が健全に成長していることの現れだ。先述のブリッツスケーリングが成功する4つの要因と照らし合わせて、(2)のチャンスが生まれるまで持続可能なグロースを実現し続けよう。
次にプロダクトの市場ポテンシャルが見えている、またはすでに体現できている場合、(3)か(4)となる。(3)はROIを厳密に解釈し、常にリターンが投資を上回っていることを求める戦略であるため、最もリスクが少ない方法でグロースを求めるならこの方法が最適だ。ただし、その分成長度合いは緩やかかもしれない。(4)はスピード重視でプロダクトの優位性を築くべくコストをかけにいったとしても、市場ポテンシャルが予見できるため、どのくらいのリターンがあるかモデル化しやすい。その結果投資銀行等から出資を仰ぎやすいという利点がある。(3)よりもリスクは高いが高い成長性を実現できる可能性があり、その分プロダクトの優位性を築けるのなら価値がある。
(1)~(4)の発展型として、例えばスタートアップ企業がある程度開拓した市場に可能性を見いだし、大企業が資本を効かせて参入、もしくは買収することで市場にポジショニングを獲得することも方法も可能だ。こうした戦略は(3)と(4)を組み合わせた、効率とスピード両方を実現した戦略とも言える。スタートアップの場合、資金に限りがあるため、両者を両立させることは難しいが、大企業であればその投資規模や求めるスピードによって両立可能なことも十分にあるといった点は検討に値するだろう。
最終的にどの戦略が最もふさわしいかは全社的、もしくは事業部全体としての判断になる。プロダクトマネージャー一人の判断ではグロース戦略の決定は行えないかもしれない。しかし、どのグロース戦略が最も会社にとって挑む価値があるのかシナリオを描くことができれば、上層部の意思決定を効果的に助けることができる。また、プロダクトの進化の方向性としてどのようにグロース戦略を描いていくかは、プロダクトマネージャーとしての腕の見せどころだ。
次回は
今回はプロダクトの強い軸の「Core」領域から、プロダクトマネージャーがプロダクトを成長させるために必要な戦略のとり方について解説した。次回はプロダクトの強い軸の「Input」領域から、ユーザーインサイトを得る方法とプロダクトを実際に世に送り出す時に必要な考え方であるGo To Market(GTM)戦略について取り上げる。
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