対象読者
- C++の最新バージョンの機能を把握したい方
- C++の経験者で、C++に改めて入門したい方
- プログラミング言語の最新パラダイムに関心のある方
必要な環境
本記事のサンプルコードは、以下の環境で動作を確認しています。なお、一部のサンプルは以下の環境では動作しないか、あるいは実験的実装(Experimental)なので動作が不安定になる可能性があります。
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macOS Sequoia / Windows 11
- Xcode Command Line Tools 16.0(Clang 16.0.0)
- w64devkit 2.4.0(GCC 15.2.0)
主要コンパイラのC++対応状況およびC++プログラムのコンパイルについての説明は、第1回を参照してください。
rangesライブラリとは[C++ 20]
C++ 23では、std::rangesライブラリが強化され、より便利な関数が使えるようになりました。ここではC++ 20の時点で実装された機能を紹介し、rangesライブラリの基本的な使い方を紹介します。
C++ 20で導入されたrangesライブラリは、Range(範囲)に基づく新しいデータ処理の仕組みです。以下の特徴を持ちます。
- パイプライン記法:「|」演算子を用いることで、データ処理を流れ作業のように記述できます。例えば「v → filter → transform」と順序立てて処理を連結する表現が可能です。
- 遅延評価:結果が必要になったタイミングで初めて処理を実行します。これによって、無駄な計算を省き、複雑なアルゴリズムも簡潔に表現できます。
Rangeとビュー
rangesライブラリの利用においては、Rangeとビュー(view)が重要な役割を果たします。
- Range:反復可能なデータの集合。コンテナや配列などが該当します。
- ビュー(Rangeビュー):Rangeを基に、フィルタリングや変換といった操作を遅延実行する仕組み。ビューは元データを直接変更せず、効率的なデータ操作を可能にします。
具体的な例も見てみましょう。以下は、ベクターをRangeとして、rangesライブラリの関数でフィルタリング・加工し、新しいビューを作成する例です。
#include <ranges> // rangesライブラリの利用に必要
#include <vector>
#include <iostream>
vector<int> v = {1, 2, 3, 4, 5};
auto result = v | views::filter([](int x) { return x % 2 == 0; }) (1)
| views::transform([](int x) { return x * 2; }); (2)
for (const auto& value : result) { (3)
cout << value << " ";
}
cout << endl; // 4 8
結果は、「1, 2, 3, 4, 5」からなるベクターが偶数値にフィルタリングされて、さらに2倍の加工を施されて、結果として「4, 8」となります。(1)で使われているfilterはRangeアダプターの関数で、入力のビューをラムダ式でフィルタリングし、filter_view型のビューを生成します。(2)で使われているtransform関数は、入力のビューをラムダ式で加工し、transform_view型のビューを生成するRangeアダプターです。これらの操作は遅延実行され、for文で要素を取り出す際に初めて評価されます((3))。
[NOTE]Rangeアダプター
Rangeアダプターとは、既存のRangeからビューを生成する関数です。ここで紹介したfilter、transform以外にも、たくさんのRangeアダプターがあります。以下は一例です。
- views::all:Rangeへの参照として振る舞う(全要素)
- views::drop:先頭から指定した個数の要素を除外する
- views::join:入れ子のRangeをフラットにする
- views::take:先頭から指定した個数の要素を取り出す
パイプライン記法
上記のリストは「|」(パイプ演算子)を使わずに、直接関数で表すこともできます。
auto result2 = views::transform(
views::filter(v,
[](int x) { return x % 2 == 0; }
),
[](int x) { return x * 2; }
);
ここでは分かりやすくするために改行とインデントを入れましたが、どちらが分かりやすいかは一目瞭然です。特に理由のない限りは、書きやすさと可読性の両面からパイプライン演算子を使う方が良いでしょう。
C++ 20の時点で、rangesライブラリにはfilterやtransformをはじめとしてたくさんの関数が実装されていましたが、C++ 23ではrangesライブラリをさらに便利にする関数が拡張されました。以降は、これらについてピックアップして紹介します。
