「AIと協働する力」で伸び悩んだのは、「共同推論」と「出力の品質保証」
広木氏はまず、シニアの価値は「問題解決の細部をすべて知っていること」ではないと釘を刺す。重要なのは、今動いているものがどんな環境・背景で動いているかを理解し、AIに「ここは止まりそうだから、このようにしておいて」と的確な方向づけができるメンタルモデルだ。
そのうえで広木氏が提示するのが、著書でも触れている「3つのC」である。まずは「Craft(クラフト)」、実際に手を動かして技術の限界と可能性を身をもって把握する手触り感。次に「Concept(コンセプト)」、本質的な問いを立て新たな価値の枠組みをゼロから設計する力。そして「Communication(コミュニケーション)」、対話によって人とAI、人と人の視点をつなぎ合意を形成する力だ。
興味深いことに、海外でも似た指標が独自に生まれている。葛岡氏が紹介したのは、Anthropicが提唱する「AI Fluency Index」の「4つのD」だ。AIと人間の役割分担を決める「Delegation(委任)」、目的を言語化しAIの有用な振る舞いを引き出す「Description(説明)」、AIの出力の妥当性を見抜く「Discernment(識別)」、そして利用と結果に責任を持つ「Diligence(勤勉・配慮)」。CoderPad社が掲げる「Strategic Use of AI」「Problem Framing」「Explanation and Architecture」など5つの指標も含め、AI時代に求められるスキルの輪郭は、複数のベンダー・専門家の間で驚くほど収束しつつある。
こうした指標を踏まえ、ハイヤールーが独自に定義したのが「AI協働力」だ。300社・100万件の評価データを分析した結果、とりわけスコアが伸び悩んでいたのが「共同推論」と「出力の品質保証」だったという。AIだけに推論させ、出てきた結果を鵜呑みにする状態こそ、AIに使われる側に回ってしまう典型だと葛岡氏は指摘する。
「共同推論」の欠如がもたらす現実を、広木氏は生々しいエピソードで語った。「若手が『資料をAIで作ってきました』と話しているものの、資料は綺麗だが、話を聞くと中身がないことがある」。具体的にある箇所を指して「これは一体何を実現しているのか」と尋ねると、「そこまでは考えていなくて」といった答えが返ってくるという。
広木氏はこれを「認知的盲従」と呼ぶ。AIが出してくる提案に対して「分かった、それでいいよ」と何も検証せずに通し続けると、後になって何が行われていたのか誰も説明できなくなる。コーディングの現場でも同じ構造の「認知負債」「意図負債」が生まれ、ソフトウェアの中身がブラックボックス化していく。
「膨大な思考をAIと伴走して行い、その結果として小さなアウトプットを作る分には、すごく有用な知識になる」と広木氏は補足する。一方で、何も考えずにAIへ丸投げすれば、それらしいだけで意味のないアウトプットに回帰してしまう。共同推論が抜け落ちたとき、そこにいる人間は「人間でなくてもよいのではないか」という状態に近づいてしまうというのが、広木氏の警鐘だ。

