開発ラインの組みなおし、評価制度の見直し、ガバナンスの整備
サイバーエージェント全体では、2023年からの一連の施策の結果として開発量は2倍、モック制作は3倍になった。新規事業を始める際の体制も変わり、これまで同じ人数で1ラインしか組めなかったところから、人員を3分の1に圧縮しながら新規に2ラインを立ち上げられるようになった。
評価制度も6年ぶりに見直され、ビジネスと技術の橋渡し役として課題解決と価値創出を主導する「ビジネスリードエンジニア」というキャリアパスが新設されたほか、専門領域を深化させる「エキスパートエンジニア」を強化し、技術的な意思決定を担う「テックリードエンジニア」も刷新された。AIが担える領域が広がるほど、エンジニアに求められる役割はアウトカムそのものへとシフトしている。
ビジネス側でも、ビジネス・エンジニア・デザイナーが一丸となってAI活用を専任で進める「ABEMA AI Center」が新設された。傘下にはAI Agent、AI Creative、AI Operation、AI Productという4つのチームがあり、既存施策のAI化と新たな価値創出を専任で担う。
代表例が「速報!ワンタッチくん」だ。速報性の高いニュースを素早く届けたいという課題に対し、プロダクト開発の経験がないメンバーが約1カ月で実装し現場に展開した。プレスリリースなどの一次情報からAIが構成と音声合成を行い、ニュース動画を即座に作成するツールで、動画の作成時間は2時間から15分に短縮された。このほかにもドラマ制作のスケジュール自動作成や、経理での不適切取引の検知など、事業部横断でAI活用が広がっている。
こうした展開を支えるのがガバナンスだ。ABEMAではガイドラインとルールの展開、承認済み生成AIサービスの整備によるシャドーAIの防止、経営最重要情報を原則AI取り扱いNGとする情報区分の定義、そしてSlackでの相談窓口の開設という4本柱でリスクに対応している。ガイドラインの中でも従業員に繰り返し伝えているのが「アウトプットに責任を持つ」「自分の頭で考える」「相手の気持ちを想像する」という3つの心得だ。「AIが作ったんで」とAIのせいにせず、「AIが言ってたんで」と思考を放棄しないという、生成AIと向き合う上での基本姿勢だ。
システムも組織も人も、AI時代においてはその役割を更新し続ける
山中氏は現場で得られた学びを3つにまとめた。1つ目は「鍵は経営のコミットメント」。AI番付で上位組織と下位組織を分けたのは、事業責任者がAI活用に責任を持つ構造の有無だった。2つ目は「成果は測定して初めて語れる」。個人のアンケートやGitHubのメトリクスといった定量指標があって初めて、現場や経営層との合意に説得力が生まれる。3つ目は「禁止ではなく、標準ルートを示す」。安全に早く使える手段を用意することが、結果的に組織全体のリスクを下げ、浸透を早くするという。
これからについて山中氏は、AIエージェントが賢くなるほどプロンプトエンジニアリングへの意識は薄れていくとした上で、だからこそAIがアクセスしやすいデータと環境を整えることが重要になると語った。そしてもう1つが、変化に適応し続けること。システムも組織も人も、AI時代においてはその役割を更新し続ける必要がある。2028年の完全自動化という目標に向けて、ABEMAはまず自分たちの現在地を正直に測ることから歩みを進めている。
