AIサービスの効果を「対応完了件数」と「未然回避件数」で測る
AIサービスにおいていまだに難しい課題となっているのが費用対効果だ。特にカスタマーサポートにおいてKPIをどう設定するかは難しいところ。一般的には対応完了件数で測定しがちだが、レッドハットはユーザーの自己解決支援に着目して新たに未然回避件数でKPIを設けることにした。
きっかけとなったのはあるユーザーからのフィードバックだ。「もし5分で自己解決できるなら、例えば1時間後になるかもしれないサポートからの折り返し電話を待つより、自分で解決したい」。これこそユーザーが切実に願うニーズの1つだからだ。
とはいえ、どう計算するか。サポートケース化を未然に防ぐことで得られた「顧客の満足」と「サポート部門の工数削減」を財務的な「コスト回避」として定量化することにした。計算方法としては、自己解決に至った想定件数とサポートケース1件あたりの算出処理コストの積とする。
実績を見ると、2025年単年で約150万ドル(約2.2億円)。これだけのサポートコストを回避できたことになる。駒澤氏は「これで十分に投資額に見合うと評価されてAsk Red Hatのプロジェクトは継続しています」と話す。
現状では対話型アシスタントだが、今後は行動するAIエージェント(エージェンティックAI)として、統合オーケストレーションレイヤーへと進化する。バックグラウンドの業務システムとの連携、自律的な思考・計画・タスク完結、複雑なプロセスのオーケストレーションができるように開発を進めている。
フロントエンド部分は「Ask Red Hat」が担い、背後にいる3つのエージェントへとルーティングする。背後のエージェントは「Librarian Agent(図書館の司書のようにデータのありかを把握してデータを引き出す)」、「Investigator Agent(調査官のように問題を適切に解決に導く)」、「Generator Agent(YAMLやプログラムなどを生成する)」がある。
さらに今後はマルチベンダーでAIエージェントを連携しようとするPoCが進んでいる。対象となるのが基地局(RAN)の機能をクラウド上で動かす「Ericsson Cloud RAN」だ。ここで障害が起きると、ネットワーク(エリクソン)・ハードウェア(Intel)・Linux(レッドハット)で切り分けが必要になる。そこでアラームやチケットをトリガーにオーケストレーターが起動し、それぞれの会社のAIエージェントがMCPでつながることで、原因やエビデンスなどを提示して早期の問題解決を図る。
最後に、ある意味「AIの脳」といえるナレッジの保守について。駒澤氏は「エージェントが自律的に行動する手足であるためには、脳となるナレッジが常に最新でなくてはなりません。そのためにはデータの品質や鮮度が重要になります」と話す。そのためレッドハットではデータパイプラインを最適化することで、ドキュメントを管理するシステム(docs.redhat.com)に投入されたデータは4分以内にAsk Red Hatで使えるようにナレッジが同期されるようにしている。
いまAIとともに、従業員や顧客が役割を再定義しながら最適な仕事の進め方を模索する時代に来ている。最後に、駒澤氏は「レッドハットでは、属人的なサポートビジネスから、AI活用することで定型的な業務をなるべく人間から引き離して、より高度な問題解決に専念できるようにしています。AIで全てを解決するという発想ではなく、より人間にふさわしい働き方、スキルの生かし方に着目して開発しています」と話し、講演を結んだ。

