「言われた通りに作ったのに使われない」はなぜ起きる? WHIが機能ごとに「メリット」を考え抜く理由
【A-3】複雑な業務ドメインを紐解き、「本当に価値がある機能を生みだすプロセス」とは?~お客様のメリットから逆算する思考法~
「理想の業務」は、顧客の想像を超えていくべき カタログ思考の運用で分かったこと
当初のカタログは、概要(Outline)と機能リスト(Function List)の2部構成だった。世間一般の商品カタログに近い形である。だが、この形式で機能を検討するうちに大きな課題が見えてきた。
その課題とは、機能リスト・メリットからいきなり書き始めてしまう、つまり解決策から書いてしまうことだ。それによって何が起きるか。理想と現実の差が暗黙の前提に置かれたまま、メリットを考えることになる。
「業務やお客様への洞察が不明確なまま、理想と現実の差が捉えられてしまって、機能のメリットが浅くなってしまう」
そこで「COMPANY」の開発者は、メリットを掘り下げるための補助線として、業務調査(Business Investigation)とユーザー調査(User Investigation)という2つの欄を追加した。誰がどんな業務でこの機能を使うのかを先に書き出させる仕掛けである。顧客、ユーザー、そして業務が明確になり、理想と現実の差を深く捉えやすくなる。現実の業務像の解像度は確かに上がった。
さらに、もう1つ注意すべきポイントがあると平田氏は言う。既存の業務は顧客が知っているのだから、理想も顧客に聞けばいいのではないか、という考え方だ。ヒアリングで理想を教えてもらい、そこから差を見出すスタイルである。
しかし、顧客にヒアリングした理想を単純に目指すだけでは、本来的な理想に届かない可能性がある。WHIが追求するのは、顧客の想像を超える「本質的な理想」の体現だ。単に1社の要望をそのまま形にするのではなく、開発者が培ってきたノウハウをもとに「真に必要な業務像」を定義する。その結果として、約1200法人グループの皆様に真の価値をお届けできる機能が実現していく。
そこで同社が取るのは、開発者自身が業務の「理想」を設定するスタイルだ。顧客へのヒアリングはもちろん行う。そのうえで、ヒアリング結果を踏まえて開発者が自ら理想を描く。このプロセスによって、理想と現実の差をもれなく捉えられ、約1200法人グループに通用するメリットを見つけ出せるというわけだ。
本当に価値ある機能を生み出す秘訣は、カタログを書く過程で業務と顧客を深掘りし、理想を設定して現実との差を見出し、そこからメリットを掘り当てることにある。平田氏はこの一連の考え方が「カタログ思考」であると解説し、セッションの前半を締めくくった。ここからは実際の事例である。
推奨か、必須か 読みづらいニーズの隣に、明確なニーズがあった
紹介された2つの事例は、いずれも給与計算の法改正対応・法定業務における機能の企画だ。法改正対応はWHIが顧客から高い評価を得ている領域でもあり、顧客の声としては「定額減税、住民税額通知等の人事業務に必要不可欠な領域の最新情報をいち早くキャッチアップし、対応を示してもらえるのは、とてもありがたい」「他社事例があることでイメージを具体的に持てる」といった評価が寄せられているという。
1つ目の事例は、子ども・子育て支援金の法改正対応である。2026年4月分より給与・賞与から徴収され、健康保険料のカテゴリで個人と事業主が折半して負担する。2026年5月以降の給与明細で「子ども・子育て支援金」の項目を目にした読者もいるだろう。
この法改正を表層的に理解すれば、「子ども・子育て支援金」という項目を計算するという、決まった要件を実現する対応に見える。だが平田氏の理解は違った。「子ども・子育て支援金を計算する新しい業務の誕生であった」。法改正対応の本質は新しい業務の誕生であり、法を読み解いて見出した新しい業務に対してメリットのある機能を考える。決まった要件への対応になぜ企画が要るのか、という疑問への答えがここにある。
構造的に見ていくと、まず全法人向けのニーズが浮かぶ。給与明細で子ども・子育て支援金を表示したい、というものだ。ただしこれは「推奨」の扱いで、対応するかどうかは企業に委ねられる。つまり、ニーズが事前に読みづらい。
深掘りを進めると、もう1つのニーズが見つかった。公共団体向けの会計費目のニーズである。共済組合(保険者)に納付する際、健康保険でいう保険料にあたる「短期負担金」と子ども・子育て支援金とで、会計費目を分けたい。こちらは「必須」であり、ニーズは明確だった。
全法人向けニーズだけを見ていては気づけなかったニーズである。平田氏はより明確なニーズを持つ公共団体をメインターゲットに据え、2025年春、法施行の1年前より開発活動に早期着手することを決めた。「使われるかもしれないけれども、使われないかもしれない」という状態では、なかなか開発活動に踏み切れない。明確なニーズがあると分かったからこそ踏み込めた判断だった。
実のところ、公共団体向けに必要な対応と、全法人向けに必要な対応はその大部分が重複していた。そのため、公務員向けニーズに応えるべく早期に着手したことで、全法人向けのニーズにも副次的な早期着手もできていた。
結果として、法施行9カ月前にリリースを実現した。全法人向けのニーズだけを把握していた場合、ニーズが読めず開発着手ができないまま法改正直前あるいは法改正後のリリースとなり、慌てて準備をしたり、間に合わなければ紙での暫定運用を用意したりするといった事態を回避した。業務の深掘りが、余裕を持った法改正対応の準備を可能にした。顧客に不要な手間をかけることなく、効率的に新たな業務運用を提供することができた。
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DeveloperZine編集部(デベロッパージン編集部)
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