Lynch氏は「クラウド、タッチ、ソーシャルはソフトウェアに革命を起こし、クリエイティブ制作のあり方に大きな転身が起きている」と口火を切り、クリエイターが今後どのようにコンテンツを制作し、届けていくかについてビジョンを語った。
Adobeが次世代の制作環境として着手しているのが「Adobe Creative Cloud」だ。大きく分けて、製作物の制作・配布を補佐するホストサービス「Creative Service」、世界中のクリエイターと情報共有する「Creative Community」、どこでもモバイルデバイスを通して作業できる「Creative Apps」の3つで構成されるとし、順を追って説明した。
クラウド環境下でクリエイティブの制作から配布まで
~「Creative Service」
まず「Creative Service」。クリエイティブの制作・配布をクラウドで手助けするサービスだが、こちらの要素技術として「Business Catalyst」「Font」「デジタル出版」の3点を挙げた。
「Business Catalyst」はバックエンドのコーディングなしに、オンラインビジネス用のサイト構築や管理を行える統合プラットフォーム。顧客管理機能やメールマーケティング、各種分析機能も組み込まれているワンストップなサービスだ。
「Font」については、従来ウェブページでタイポグラフィを行う場合、画像にすると検索エンジン対策やテキスト選択の面で不都合があったり、テキスト埋め込みにすると著作権の問題が発生したりなど、多くの課題があった。この解決策として今回発表されたのが、Typekit Inc.の買収だ。「Typekit」は、数百のフォントをサブスクリプション形式で提供するクラウドサービスで、ウェブサイトでの利用許諾を前提としているため、著作権的な心配がない。CSS3のWebフォントとして使用すればデバイスに依存せずに紙媒体のような表現力を手にできる。
「デジタル出版」では、紙媒体の制作スキルでデジタル版も制作可能にする「Digital Publishing Suite」を紹介。Vanity Fairという雑誌のデジタルデザインエディター、Hamish Robertson氏は「デザイナーがUI的なインタラクション部分だけでなく、ストーリーテリングの部分までかかわれるようになるので非常に面白い」と、このサービスの魅力を語った。
一方、最低でも年間数十万からの利用料と、なかなか手を出しづらい現状があったのも事実。そこで今回、大手出版社だけでなく、個人レベルでもデジタル出版を利用可能にする新サービスプラン「Digital Publishing Suite Single Edition」が発表された。Single Editionでは、アプリケーションあたり395ドルという低価格を実現。デザイナーが既存のスキルを利用し、ノンコーディングで、インタラクションつきのiPadアプリを作成、配信することを可能にする。北米では11月末からの発売が予定されている。
世界のクリエイターとの交流を
~「Creative Community」
2つ目の要素としてLynch氏が取り上げたのが「Creative Community」。作品やアイデアを共有する一般的なコミュニティ機能のほか、たとえばPhotoshopのファイルをブラウザ上でレイヤーの表示・非表示を切り替えたり、配色サンプルをダウンロードしたりといった、同社ならではの機能も拡充されている。