ONE TEAM(ワンチーム)になるための3つのポイント
今回はスペシャルゲストとして、英ustwoのLars Rosengren氏、Davide Petrillo氏、中村麻由氏が招待された。ustwoは英国ロンドンにあるグローバルデジタルデザインスタジオで、「Monument Vally」というアプリで2014年にアップルデザイン賞を受賞している。
ustwoが行う業務の80%がクライアントワーク(請負のデザイン案件)であるという。同じ社内でさえ意思疎通が上手くいかない会社もある中で、ustwoではどのようにして社外のクライアントと仕事を進めているのだろうか? その秘訣を、登壇したLars Rosengren氏が明かしてくれた。
クライアントを「チーム化」するオフィスツアーとワークショップ
Lars Rosengren氏によれば、ustwoが最も重要視しているのは、価値観やプロジェクトの目的をクライアントと共有することであるという。そのための作業は、クライアントワークのキックオフから始まっている。
ustwoではほとんどのキックオフを、ustwoのオフィスにクライアントを招いて行う。そこで時間をかけてビジョンを作成し、どういうものを作りたいのかをクライアントとすり合わせている。プロダクトが生まれるプロセスを共有するため、実際の開発ワークフローをワークショップで体験してもらうこともあるという。
さらにキックオフの後も、プロジェクトが始まって最初の1週間は、クライアントのオフィスに通うこともあるそうだ。
ustwo側からクライアントに理解を働きかけ、また自身もクライアントの元に出向いてクライアントのことを理解しようと努める。なぜなら、「クライアントもチームの一員」(Rosengren氏)だからだ。チームとは、価値観やプロジェクトの目的を共有し、互いが信頼できる者同士の集まりであり、それを実現した会社として「FAMPANY」(Fan+Company。同社の造語)を目指しているという。こうしたコラボレーションに対する積極的な姿勢が、同社がクライアントワークでのプロジェクトで成功を収めている鍵であるようだ。
環境も情報も透明性が大事
ustwoの特徴の2つ目はその「透明性」だ。彼らのオフィスは堅苦しい場所とは懸け離れた、にぎやかでパワフルな場所になっている。
彼らのオフィスは「見た目のかっこよさ」ではなく、「自分らしさを発揮できる場所」というコンセプトでつくられたそうだ。オフィスはいつもにぎやかで、訪問したクライアントもその熱気に驚くのだという。キックオフをustwoのオフィスで行う理由もこれだ。
さらにustwoでは、各プロジェクトの売上を社内で公開しているそうだ。環境や情報に対して一貫して「透明性」を大事にする彼らの姿勢が、ONE TEAMを作る重要な要素になっていることは間違いなさそうだ。
「プロトタイプで周りを巻き込みコラボレーションする!」
次に登壇したのは、UIデザインを専門に手がけるGoodpatchでチーフUXデザイナーを務める藤井幹大氏である。いかにして社内にコラボレーションの文化を作り出していくのかという今回のテーマに、藤井氏は「プロトタイプ」という解を示してくれた。
Goodpatchも、ustwoと同じく自社の業務のほとんどをクライアントワークが占めている。そんなGoodpachも「クライアントとチームになること=クライアントのチームに入り込んでいくこと」を重要視している。
そのために藤井氏は「プロトタイプが参加の余地をつくる」ことを提唱する。完成品であればフィードバックをもらってもその意見を反映できないことはよくある。だがプロトタイプというのはあくまで未完成品。これから様々な機能を加えていくことが可能だ。
だから、フィードバックをくれた人の意見を反映して取り入れていける。ここにチームやチーム外のメンバーを強力に巻き込んでいける秘密がある。何より、意見を求められる側も、完成品にフィードバックするよりプロトタイプの方が意見を言いやすい。
完成度が60%程度の未完成状態でステークホルダーを巻き込み、多くの意見を集めながらプロダクトを開発していく。これが藤井氏が提唱する、プロトタイプをキーとしたコラボレーション文化の作り方だ。
そして幸いなことに、この方法を取り入れるのために高額なツールを購入したり、膨大なマニュアルを読むといった必要はない。すぐにでも始めることができる上に、しっかりとワークすれば非常に有効な方法といえるだろう。
たった10人のところから数百人のクリエイティブ組織をつくる
最後のセッションには、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)の坪田 朋氏が登壇した。坪田氏は2011年にDeNAに入社し、現在はデザイン戦略室という部署で室長兼UIデザイナーとして活動している。
デザイン戦略室を大まかに説明すると「DeNAのアウトプットで人の目に触れる全領域」を担当するクリエイティブの部署とのこと。坪田氏自身が作り上げた組織だ。
今でこそ数百名のクリエイターを擁するDeNAだが、実は坪田氏が入社した当時、デザイナーと呼ばれる職種が同社にはなかったという。デザイナーとしての業務を行う職種は「編集」と呼ばれていたそうだ。
坪田氏は入社後しばらくして、独立したデザイナー組織の必要を訴え、坪田氏の組織作りを始めた。10名からのスモールスタートだった。
「ここで不満を言っていても変わらない。ユーザに価値を届けるために環境を変える必要があった」(坪田氏)
坪田氏は様々な取り組みを実行していく。ビジョンを掲げ、作り手がリードする現場をつくった。積極的に人材の採用も行った。
「スキルも大事だが、意志がとても重要だ。自分たちと想いを同じにでき、同じ船に乗せたいと思える「仲間」を採用していった」(坪田氏)
組織や採用というと何か大きな話のようで、モノ作りとかけ離れた印象があるかもしれないが、坪田氏が様々な取り組みをしていった原動力になったのは意外にも、次のスライドで示したあるシンプルな想いだ。
様々なコラボレーションをしてプロジェクトを進めていくには、根っことなる不安定な組織では難しい。その前提を改めて考えさせられる内容となった。
本稿ではコラボレーションに関する3社の実践を紹介してきた。コラボレーションできる文化やチームをつくるというテーマは、新たなツールの発明や時代の変化によっても手法が変わっていく。だが、今回の3社の発表は共通する部分が多く、我々がコラボレーションするためのヒントが垣間見れたのではないかと思う。みなさんもぜひ「コラボレーションの文化作り」にチャレンジしてみてはいかがだろう。