4つの切り口を上手く活用した、西友「#料理を手間抜きに」の裏側
ではこの4つの切り口は、実際にどのように企画に活かされているのでしょうか。
これらの切り口は明確に区別されているものではなく、強弱はあれど複合的に企画に組み込まれているものです。
たとえば、先ほど紹介したバーガーキングの事例では、競合他社をメディアにする(MEDIA)視点が核になっていますが、同時にSNSを起点に人々を巻き込み拡散を仕掛け(SOCIAL INFLUENCE)、現実世界で店舗を回遊させる(DIRECT)、という要素も色濃く含まれています。
異なる角度からより効果的なアイディアを生み出すためのフレームワークとして、この4つの切り口を理解するとわかりやすいかと思います。ここからは実際に私が手掛けた事例「食卓の誤解/#料理を手間抜きに/西友」をご紹介します。
食卓の誤解/#料理を手間抜きに/西友
この取り組みの起点になっているのは、料理をめぐる“手抜き論争”という社会問題(SOCIAL ISSUE)です。スーパーでポテトサラダを買おうとしている親子の目の前で、見知らぬ男性が「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と言う姿を目撃した、といったTwitter投稿をきっかけに「ポテサラ論争」が巻き起こりました。瞬く間にこの投稿は拡散され、多数のテレビ番組にも取りあげられました。
スーパーマーケットは、ポテトサラダなどの惣菜を提供している当事者です。この問題は非常に多くの人の感情を強く刺激するテーマなので、企業として軽々しく扱うにはリスクが高いトピックです。同時に、毎日料理をしている人の手間や負担は料理をしていない人には理解しづらく、そこに大きな誤解が生じているのも実情です。料理をする人の負担を減らし、この状況を変えるためのアクションを誰かが起こす必要がある――。そんな企業としての使命感と哲学がこの取り組みの背景となっています。
そこでまず制作したのが、料理をする人としない人の間に横たわる「食卓の誤解」を明らかにするためのドキュメンタリー動画です。
普段料理をしない52%の人が、手料理が正解で、スーパーで惣菜を買うことは料理の手抜きだと考えているということ。それが理由で毎日家族のために料理を作っている人の66.1%が料理から逃げたくなったことがあり、64.4%が家族からの「感謝」が足りていないと感じていること――。事前に3,500人以上を対象に行った全国調査の結果、そんな実態が見えてきました。
そのうえで普段料理をしない人に、レシピの考案、買い物、料理、片付けまでを2日間体験してもらったことで、本当の料理の手間を可視化し、どんな料理であっても手抜きなどない、というメッセージを実証する動画を公開しました。
このメッセージをSNSでも広く知ってもらうために11人の料理家に賛同をいただき、個人的な見解とともにこの動画をTwitterで発信してもらいました。このSOCIAL INFLUENCE視点での発信によってさまざまな意見がSNS上で飛び交い、拡散される起点となりました。
同時に、具体的な行動喚起(DIRECT)を促す仕掛けとして、代表的な惣菜ともいえるポテトサラダ、唐揚げ、ロースカツの「リアルレシピ動画」も公開。これは、買い物、料理、片付けまでそのすべてに要する時間と手順が可視化されていて、本当の料理の手間を家庭で再現できるようになっています。
ポテトサラダのリアルレシピ 【所要時間60分以上】
さらに、全国のSEIYUの売り場をMEDIAとして捉え、惣菜をより日常的に親しんでもらうためのアレンジレシピを展開。販売されている惣菜に10分程度のアレンジを加えると、まるで手料理のようにおいしく変化するレシピも提案しています。
今回はいくつかの事例とともに解説しましたが、ひとつの企画にこの4つの切り口すべてが必須ということではありません。また、それぞれの切り口を並列に考えるのではなく、アイディアの突破口をひとつ定め、それを軸にアイディアを膨らませていくのが最適なのではないかと思っています。