地域の軸と、プロダクトの軸が交差するLINEの開発組織
――自己紹介と、今回の体制変更の概要について教えてください。
私は以前、ライブドアでCTOを務め、NHN JapanがM&Aしたタイミングで入社しました。LINEの在籍は10年以上となり、現在は執行役員をしています。10年の間、エンジニアのメンバーや組織の数も増え、今ではエンジニアの社員数はグローバルで3,300人を超える規模になっています。
当初はプロダクトもコミュニケーションアプリの「LINE」が中心でしたが、最近ではECや金融、メディアなどさまざまなドメインで展開しています。組織としては、地域としての日本の開発組織という軸と、事業ドメインごとの軸があり、非常に大きく複雑になってきました。そこで、連携を強化していくなかで、技術的な標準化や開発のガバナンスを整えていく必要がありました
各事業はいろいろな開発組織をまたがっていて、日本のエンジニアも韓国など海外拠点のエンジニアと一緒に開発しています。しかしながら、日本と日本以外では開発組織のカルチャーやガバナンス、採用、教育などが異なりますので、私は日本のエンジニア組織を見るEntity CTOとして、最終の意思決定を担います。今回の組織改革では、プロダクトや技術ドメインごとに、CTOと協業しながら全社的な技術戦略をすすめるDomain Technical Directorという役割も新設しました。Entity CTOは組織の内的課題に向きやすくなり、Domain Technical Directorはプロダクト開発に集中できるようにしていくのが狙いです。
全社的に大きな意思決定が必要な場面については、GCTOの朴や私などの技術組織の主要役員と、アジェンダに応じて各地のEntity CTOや担当役員などが参加する「CTOスクラム」という会議体を作っています。最終的には、GCTOの朴がLINEグループ全体の技術に関する意思決定の議長のポジションになっています。
――前CTOの朴イビンさんがこれまで見られてきた役割を分散されたということですね。池邉さんはEntity CTOになって何か変化を感じていますか?
朴は意思決定により集中し、全社的に権限委譲と責任者の明確化が進んでいます。私の役割は、事業よりも組織や文化、採用など人事的な仕事が増えつつあります。どんな環境をつくってどんな教育をしていけばよい開発組織になるかなど、見る範囲がより広くなりました。
――今回の組織改革はなぜこのような形になったのでしょうか。参考にした組織などありますか?
LINEは、日本を本社にする企業としては特殊な組織で、どこか参考にした企業があるというわけではないです。海外の関連会社や海外のエンジニアも非常に多く、グローバルでの協業が実現できているのはとてもいいので、これを維持したままEntity(地域)ごとの文化を作っていく方針を定めています。
Entity単位での意思決定を素早くする部分と、グローバルでの技術の方向性をそろえることのバランスをとっています。私は採用や人事などを担当するだけでなく、決めた方針をEntityの開発組織に浸透して実現できるところも含めて見ていきます。文化のレベルにまで持っていく責任を負っているイメージです。
――今度の組織づくりについてどのような戦略があり、実行されていくのでしょうか。
なかなか難しいなと思っています。エンジニアの自主性も大事ですが、全体的な統制をしたほうが成果を出せそうな部分は結構あります。最近はメンバーに対して意思決定プロセスを見せていくほうがいいと思っています。そのため、CTOスクラムの議事録はほぼ社内に公開しています。決定事項の経緯を共有することで、現場が腹落ちしていくのではないかと思います。そこで異議を唱える人がいても悪くないと思っています。
――CTOスクラムではどのようなことが話されているのでしょうか?
週2回は話し合っていて、最近の課題や障害などの深刻度によって判断しています。会議のテーマによってインフラ寄りの話をすることもあれば、予算の話をすることもあり、経営会議に近い場合や、グローバルの会では各国の状況報告や、Entity間での協力要請の調整などもあります。