アリババグループのグローバル研究機関であるアリババDAMOアカデミーは、今後のテクノロジー業界にもたらされる変化を予測した「DAMOアカデミー テクノロジートレンド予測 2023」を1月11日に発表した。
DAMOアカデミーは、過去3年間に発表された論文や特許出願の分析、科学者や起業家、エンジニア約100人に実施したインタビューをもとに、今後主要な産業で経済的・社会的に影響を与えると予想されるテクノロジートレンド・トップ10を紹介。
「アリババDAMOアカデミー テクノロジートレンド予測2023」の詳細は以下の通り。
トレンド1:ジェネレーティブAI(生成人工知能)
ジェネレーティブAIは、既存のテキストや画像、音声ファイルなどを学習し、新しいコンテンツを生み出す技術。この技術は現在、主にプロトタイプの段階で使用されており、ゲーム、広告、グラフィックデザインなどの場面で適用されている。今後3年間で、ジェネレーティブAIが広く市場化されることで、新たなビジネスモデルが生まれ、エコシステムが成熟していく。ジェネレーティブAIモデルは、よりインタラクティブで安全、かつインテリジェントなものとなり、人間がさまざまな創造的作業を遂行することを支援する考えられる。
トレンド2:デュアルエンジン ディシジョンインテリジェンス
これまでの意思決定手法はオペレーションズ・リサーチに基づいているが、不確実性の高い課題への対応には限界があり、大規模な課題への対応で時間を要するなどといった欠点があった。それを解決するために、学術界や産業界では意思決定の最適化に機械学習を取り入れつつある。従来の意思決定手法に機会学習の技術を加える「デュアルエンジン」は互いに完全に補完し合い、併用することで意思決定のスピードと質を向上することができる。
トレンド3:クラウドネイティブなセキュリティ技術
セキュリティ技術とクラウドコンピューティングは、応用技術がコンテナ型デプロイメントからマイクロサービス、そしてサーバーレスモデルへと進化し、かつてないほど統合されつつある。この流れを受けて、セキュリティサービスにおけるクラウドネイティブ性、きめ細かさ、プラットフォーム指向性、そしてインテリジェント性が高まっていくと考えられる。
トレンド4:事前学習によるマルチモーダル基盤モデル
事前学習で構築したマルチモーダルな基盤モデルは、人工知能(AI)システムの新しいインフラストラクチャになりつつある。これらの事前学習モデルは、異なるモダリティからナレッジを習得し、統一された表現学習フレームワークに基づいて知識を提示することができる。将来的に、基盤モデルは画像、テキスト、音声の処理を網羅するAIシステムのインフラとして機能し、推論、質問への回答、要約、生成などの認知知能機能を実現すると考えられる。
トレンド5:ハードウェアとソフトウェア統合したクラウドコンピューティングアーキテクチャ
クラウドコンピューティングは、クラウド・インフラストラクチャ・プロセッサ(CIPU)を中心とした新しいアーキテクチャへと進化している。このソフトウェア定義型ハードウェア アクセラレーション アーキテクチャは、クラウドアプリケーション開発のための高い弾力性と俊敏性を維持しながら、クラウドアプリケーションの加速を支援する。CIPUは、次世代クラウドコンピューティングのデファクトスタンダードとなり、コアソフトウェアの研究開発と専用チップ設計に新たな開発機会を創出する。
トレンド6:エッジとクラウドのシナジーに基づく予測可能なファブリック
「プレディクティブル ファブリック(Predictable Fabric)」は、クラウドコンピューティングの進歩によって促進されたホストとネットワークの協調設計によるネットワークシステムであり、高性能なネットワークサービスを提供することを目的としている。プレディクテイブル ファブリックは、クラウドプロトコル、ソフトウェア、チップ、ハードウェア、アーキテクチャ、プラットフォームにおけるフルスタックイノベーションを通じて、従来のTCPベースのネットワーク・アーキテクチャを置き換え、次世代データセンター・ネットワークの一部となることが期待されている。この分野の進歩は、データセンター・ネットワークから広域クラウドバックボーンネットワークへのプレディクティブル ファブリックの採用を促進する。
トレンド7:コンピュテーショナル イメージング
新たな学際的技術であるコンピュテーショナル イメージングは、従来のイメージング技術とは異なり、数学的モデルと信号処理能力を活用するため、光電場情報に対してこれまでにない詳細な解析を行うことが可能。同技術は、すでに携帯電話の撮影機能やヘルスケア分野、自律走行などのシーンで広く利用されている。将来的にコンピュテーショナル イメージングは、従来の画像処理技術に変革をもたらし、レンズレス画像処理やノンラインオブサイト(NLOS)画像処理など、革新的で想像力に富んだアプリケーションを生み出し続けると考えられる。
トレンド8:チップレット(Chiplet)
チップレット(Chiplet)技術による設計では、メーカーがSoC(System on a Chip)を複数のチップレットに分解し、異なるプロセスを用いてチップレットを別々に製造し、最終的に相互接続とパッケージを通じてSoCに統合することが可能。チップレットの相互接続規格は統一されつつあり、チプレットの工業化プロセスを加速している。先進的なパッケージング技術により、チプレットは集積回路(IC)の研究開発プロセスに新たな変化をもたらし、チップ産業の構造を再構築する可能性がある。
トレンド9:インメモリ・コンピューティング(Processing in Memory)
インメモリ・コンピューティング(Processing in Memory、以下「PIM」)技術は、CPUとメモリを統合し、データをメモリ上で直接処理することを可能にする。今後、PIMはクラウドベースの推論などといったより強力なアプリケーションで使用され、従来のコンピューティング中心のアーキテクチャがデータ中心のアーキテクチャに移行し、クラウドコンピューティング、AI、IoTなどの分野に好影響を与えることが期待されている。
トレンド10:大規模な都市型デジタルツインズ
都市型デジタルツインのコンセプトは、洗練された都市ガバナンスへの新しいアプローチとなっている。これまで、大規模な都市型デジタルツインは、交通ガバナンス、自然災害の予防と対応、二酸化炭素排出量の管理などの場面で大きな進歩を遂げてきた。今後、大規模な都市型デジタルツインは、より次元が高く、自律的で、多次元的なものとなっていくと考えられる。
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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)
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