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Developers Summit 2024 セッションレポート

新人研修は「教える」だけでは不十分? アジャイルPBLで「エンジニア人生のはじまり」を作る

【16-C-9】エンジニア人生のはじまりをつくるアジャイル開発時代の新人研修~教えるからの脱却~

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研修の中で起こるトラブルにはどう対処する?

 講演の後半は、いくつかのテーマに各スピーカーが答えるセッション形式で進んだ。

 まず「新人研修の中で起こる”変化”にどのように対応するか」。この質問に対し風間氏は、「問題が発生するよりも前に、観察を通じて兆候をつかむことが大事」とする。たとえばうまくコミュニケーションを取れない受講生がいる場合など、何かしらのトラブルが発生しそうな兆候があれば、タイミングを見て全体に周知してみる。そこで個々人の行動が変わるかどうかを見極め、必要があれば次なる対処を考えるという要領だ。

 一方で安井氏は、講師のSlackチャンネルなどに各グループの詳細を書いてストックしておくという。研修現場は想定外のことばかりで、発展的な内容を苦もなくこなす人がいる一方、事前に受けたJava研修の内容すら定着しておらず、まったくコードが書けない人もいるという状況もざらだ。このような事態に対し、「細かく準備しすぎないほうが、むしろ状況に応じて柔軟に対応できる気がする」というのが安井氏の体験だ。

 この話題を受けて及部氏は、「ドロップアウトする人」にフォーカスする。「チームなのに全然発言がないとか、ずっとカメラオフのまま黙っているといった”声を上げない”参加者をどれだけ拾えるかにプライオリティを置くべきだ。抱える人数が多いと目が行き届きにくくなるので、人事の方にフォローしてもらうのも有効だろう。ただしその人が悪目立ちしないよう、さりげなくフォローするのも重要」と、経験を基にアドバイスを送った。

ドロップアウトしそうな人は研修の中で拾うのか、チームマネジメントとして会社の問題にするのかを明確に
ドロップアウトしそうな人は研修の中で拾うのか、チームマネジメントとして会社の問題にするのかを明確に

 加えて、3人の共通認識として「自分たちでどうにかしない」こともポイントとして挙げられた。困難に直面している社員へのフォローはピープルマネジメントの問題でもある。研修の問題として矮小化せず、組織として対応すべき場面もあるというのだ。

 こうした重要度の切り分けは、マネジメント経験のない講師にとっては非常に難しい。ときには上層部や人事なども巻き込み、会社としての判断をしてもらう必要がある。

 「研修の中では個別にケアできても、配属先でも苦労が続いたとなれば本人にとっても不幸だ」と及部氏。エンジニアだけが会社に必要な人材ではないとしたうえで、「その人にとってヒットする場所がそこではなかっただけの話。ドロップアウトした人材に『ダメな人』とレッテルを貼ってしまうのは避けるべきだ」と強く主張した。

 つぎに飛んだのは「参加者との距離感」についての質問だ。安井氏は同時期に1人で十数人の生徒を抱えるPBLと、複数の講師で20人程度の人数を受け持つPBLの両方を講師として経験したことを振り返り、「前者では間に入る人間がいなかったので、『偉い人』という位置付けになってしまい、参加者との距離が開いてしまった。そのため後者では『なんかウロウロしている人』程度を目指した」と回顧した。

 具体的な工夫としては、「みんながやっていることに興味がありますよ、と示したうえで、いわゆる”なぜなぜ分析”にならない程度に何が起こったのかを聞くようにしていた。ときにはチームに入るくらいの距離感でやっていた覚えもある」とテクニックも紹介。受講生にプレッシャーをかけないようにしながら事態を把握していたという。

講師ごとのキャラクターを生かした距離感を形成することがポイント
講師ごとのキャラクターを生かした距離感を形成することがポイント

 安井氏が「存在を気に留めなくて良い人」を目指すのに対し、及部氏は「身近で相談できる先輩」のような距離感を意識しているという。たとえば業務終了後にDiscordのチャンネルを開いておき、雑談をしたり相談に乗ったりといったコミュニケーションを通じて、そうした関係性を作ることに取り組んでいる。

 風間氏は「雰囲気作りは苦手」としつつも、「受講者にとって相談しやすい人は1人1人違うので、何人かいる講師がそれぞれのキャラを持ち、チームとして関わることが必要。アジャイルを教える側がチームでなければ、説得力がない」と語り、両者のノウハウに感心した様子を示した。

新人研修と現場とのギャップをどう埋める?

 続いて、会場からは「新人研修と現場とのギャップ」についての疑問が提示された。アジャイル開発やモブプロなどを研修で学んだものの、実際の現場では実践できずにギャップが生まれ、受け入れ先が困ったり、エンジニアが辞めたりといったケースにどう対処するかというものだ。

 風間氏は「研修をどう捉えるかが問題」だとしたうえで、「その開発環境をそのまま残したいならその環境を前提とした研修を行うべき。逆に、これから会社を変えていきたいときは、理想のイメージに沿った内容の研修をすべき」と述べた。研修を受けたのが全体の10%程度の人員であったとしても、アジャイル開発など「これから推進したいものをやる」ことは強力な推進材となるのだ。

 とくにテスト領域は先輩エンジニアでもよく理解していない人が多いため、「極端な言い方をすれば、新人研修で学んだ人が現場に行って”なんで先輩テストやれてないんですか”って言ってほしい。そうすると先輩が『焦る』状況が生まれる。その危機感が会社全体に広がれば体質や考え方も変わってくる」と語った。

新人研修は会社と社会を変革する可能性を秘めている
新人研修は会社と社会を変革する可能性を秘めている

 終わりに、風間氏はX(旧Twitter)に寄せられた「講師も研修を学びの場として使っているように見えて面白い」という投稿を引用し、「教える/教えられるという一方通行の関係ではなく、自分たちも新人の振る舞いから学ぶことがあるし、逆も然りという対等な関係性を作ることが大切だ」と総括した。

 風間氏の言葉を受け、及部氏は「新人研修はソーシャルチェンジだと思うぐらいに、いち企業にとっても大事な経営戦略だ。ぜひこの講演をきっかけに研修をやってもらい、会社が良くなるきっかけが生まれれば」と期待感を述べ、セッションは終了した。

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この記事の著者

中島 佑馬(ナカシマ ユウマ)

 立命館大学卒業後、日刊工業新聞社にて経済記者として勤務。その後テクニカルライターを経て、2021年にフリーランスライターとして独立。Webメディアを中心に活動しており、広くビジネス領域での取材記事やニュース記事、SEO記事の作成などを行う。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

丸毛 透(マルモ トオル)

インタビュー(人物)、ポートレート、商品撮影、料理写真をWeb雑誌中心に活動。

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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