知識を与えることだけが新人研修ではない
講演は、「新人向けに1か月間の開発研修を行うとしたら、みなさんは何を考えますか?」という及部氏の問いかけからスタートした。こうした研修では技術領域の紹介や解説に寄りがちだが、及部氏をはじめとする3人の登壇者は以下の4点を重要視するという。
- 新人研修の充実よりもエンジニア人生の充実
- 包括的なカリキュラムよりも学び方を学ぶこと
- 教えるよりも一緒に学ぶ関係性
- 計画に従うことよりもリアルな現場体験を重視
そのうえで、研修全体としては「プロのエンジニアの働き方や最先端のプロダクト開発を体験させながら、研修の中でプロダクト開発のフィードバックサイクルも回す」ことに重点を置くケースが多いとした。
そうした研修には、実際にプロジェクトを行ってその中でさまざまな学びを得るという、PBL(プロジェクトベースラーニング)形式が適している。及部氏はPBLの意義について、「リアルなプロダクト開発を感じてもらい、チーム開発を理解・上達させるためには、実際にそれをやるのが一番」と述べる。
PBLの実践にあたっては、開発に先んじて座学で必要な情報をインプットすることが不可欠だ。加えてPBLの最中にも、テストが終わったあとにTDDの機会を設けてインプットを進めるといった「必要なときに必要な情報を渡す」ことが求められると及部氏は語る。
なお、PBLのテーマとしては「オンボーディング」が鉄板だという。オンボーディングはまさに新入社員自身が直面しているトピックであり、リアルな関心を引きやすい。課題設定から企画・開発・検証を体験してもらうにあたり、これほど適したテーマもないというわけだ。
研修内に実際のユーザー(他の新入社員)がいて、直接フィードバックをもらえる点も重要だ。及部氏によれば、実際の研修では1dayスプリントを行いつつ、1週間に1度はイベントデーとして社内のいろいろな立場の人からのフィードバックを受けるサイクルで実施することが多いという。
このような進め方について、及部氏は「他のチームも同席するなかで、成果も課題も包み隠さずレトロスペクティブ(振り返り)することで、お互いにノウハウを共有しながら効率よく学んでいくことができる」と意義を述べた。
及部氏によれば、このように研修の枠組みを固定する一方で、それ以外の部分は流動的なままにしているそうだ。「たとえば使用する技術やツールの選定は、リアルの開発でもさまざまな制約の中で判断することになる。そのため研修でも、臨機応変に技術選定を行う体験をしてもらうことが大切だ」というのが、登壇者3名の共通見解だ。
さらには、運営側も「アジャイルに進める」ことを意識しなければならないのも大きなポイントだ。生身の人間を相手にするイベントゆえに、計画通りに事が運ぶとは限らない。「新人研修はマネジメントの実践の場でもある。研修の様子をつぶさに観察・分析することで、運営側も学びを得られる」(及部氏)のだ。