シリコンバレーの発想と日本的手法の融合
小野氏は1999年にサン・マイクロシステムズ株式会社に入社し、米国Sun Microsystems, Incでの開発を経験した後、2000年に株式会社アプレッソを起業。データ連携ミドルウェア「DataSpider」を開発し、SOFTICの年間最優秀ソフトウェア賞を受賞した。2013年にDataSpiderの代理店だったセゾンテクノロジー(旧・セゾン情報システムズ)に事業を売却し、同社のファイル転送ミドルウェアであるHULFT事業のCTOに就任する。
小野氏のキャリアの基盤にはシリコンバレーのテック企業文化があったが、セゾン情報システムズに入社後、日本的なウォーターフォール型開発や伝統的な意思決定に触れ、当初は戸惑いを感じた。しかし、HULFTの開発に携わり、その高品質とバグの少なさへのこだわりに触れる中で、この手法の合理性や安定性の重要性を実感するようになった。そして、スタートアップ的な柔軟性と伝統的な確実性を状況に応じて使い分けるアプローチを模索していった。
2014年にはガートナーが2つのモードを共存させる「バイモーダル」という概念を提唱していることを知り、自身も社内でこの考え方に共感し推進する。その後HULFTをクラウド時代に対応させるなどの成果を上げた。そして2019年、クレディセゾンから金融分野のDX推進を託されグループ内異動でCTOに着任。以来、内製開発チームをゼロから立ち上げ、全セクションのデジタル化を推進している。
「バイモーダルのアプローチでは、従来の情シス部門のやり方の良さを認めながら、新しい手法も適宜取り入れています。誰かを否定せずに改革を進める姿勢は10年以上一貫して続けてきたものです」(小野氏 以下略)

クレディセゾンはクレジットカード会社として知られるが、事業ポートフォリオを多角化している。クレジットカードに加え、住宅ローンや家賃保証、資産形成ローンなど不動産関連の金融事業を展開し、これらの利益はカード事業を上回ることもある。グローバル展開にも注力し、インドでは10年足らずで社員数1000人を超える規模に成長した。
デジタル化を推進する中で内製開発を活用し、2023年と2024年に「DX銘柄」に選定、日本DX大賞ではビジネストランスフォーメーション部門優秀賞を受賞。小野氏個人も2021年にForbes CIO Award準グランプリ、2024年には日経クロステック主催のCIO/CDOオブ・ザ・イヤー特別賞を受けている。
この成果の裏には、多くの挑戦があった。小野氏は5年間の取り組みを3つのフェーズに分けて説明した。