Zoomのエコシステムとは
まず登壇したのは、Zoomのシステムやアプリを開発しているZVC JAPANの佐野氏だ。佐野氏いわく、「Zoom MeetingsはZoomの一つのコンポーネントにすぎなくなっている」と言う。現在ではビデオだけではなく、AIファーストのコミュニケーションプラットフォームとして成長している。

Zoom MeetingsやZoom Phoneの情報をもとに、さまざまなAIの機能が活用できるようになってきていると佐野氏は語る。
以下スライドのAI Companionの下にあるエコシステム機能にAIを活用して、APIやSDKを通じて、さまざまなビジネスを展開できるように公開していくと述べた。

「Zoom SDK 組み込みライセンス体系」という課題
ただZoom SDKにもわかりにくいという点がある。それが、ライセンス体系だ。大きく「Zoom ISVパートナープログラム」「Zoom Video SDK」という2つのプログラムがある。
「Zoom ISVパートナープログラム」は、Zoom MeetingsやZoom Webinarsをそのまま組み込んで利用するためのプログラム。そのため、UI/UXをカスタマイズできるという話とは一線を画する。このプログラムでないとプラットフォームとして利用すること、すなわち、第三者利用ができないので、通常のZoomではできないのが一つの大きな特徴としてある。
「さらに我々の米国本社と個別の契約が必要なので、少し特殊なパートナープログラムになります。また決済は米国ドルになります。」(佐野氏)

上記スライドの右側が「Zoom Video SDK」。こちらはいろいろカスタマイズができるが、Zoom MeetingsやZoom Webinarsとの互換性はなくなってしまう。その分、独自のUI/UXが自由に使えることが特徴だ。
ZoomがなぜAPIやSDKを活用しているのか?
佐野氏は、ZoomがなぜAPIやSDKを活用しているのかをわかりやすく説明するために、ある例え話をした。
「例えば、Zoomを高品質な自家用車みたいなものだと考えてください。そのエンジン部分をZoomのSDKという形で提供して、何か他の用途にも使えるのではないか。そのエンジンを使って船を作るといったことがもしかしたらできるかもしれないということです」(佐野氏)
Zoomでは、SDKのコアテクノロジーの部分を、サードパーティに使ってもらうことができる。これがこのSDKの大きな特徴だ。ツールが後ろで動くため、独自のUI/UXを実現することが可能で、高品質なビデオ通話を実現しつつ、いわゆるUXの部分はZoomとかけ離れたものを作ることができる。
「我々は全世界で25以上のデータセンターを持っていて、多くの企業ですでにご利用いただいています。Zoomが使える社内環境が整っているということもそうですし、認証・認定が条件になるケースもあります」(佐野氏)
例えば日本では、Zoom MeetingsやZoom PhoneがISMAP認定を受けているため、ZoomのSDKを利用するサービスやアプリケーションも、その認定を同様に受けられるメリットがある。
「また、Zoom Meetingsでは文字起こしやミーティングの要約といった機能がすでに提供開始されていますが、SDKのほうでも今後展開予定です。さらに、35カ国語に対するテキスト翻訳も提供していますが、こちらはすでにSDKでもご利用いただけます」(佐野氏)

Zoom SDKの概要と特徴とは?
次に登壇したのは、mentoのCTOである松山氏。「mento」は、法人の管理職向けにコーチングプロダクトを提供する会社だ。そのため、プロダクトの中でコーチングを行う際は、オンラインでのビデオ通話は欠かせない。そこから得た経験・知見について、語られた。

松山氏はまず、mentoがこれまでどのようにコーチングのサポート事業を行ってきたか紹介した。

2019年にサービスをローンチし、最初は対面とオンライン双方を実施していたが、コロナ禍でオンラインのみに切り替えた。その後、Zoom ISVを使ったZoom MeetingsやZoom Video SDKによるオンラインコーチング機能の提供を開始。
Zoom ISVパートナープログラムやVideo SDKを使うまでは個別のZoomなどのビデオ通話サービスで対応していたが、サービス体験が統一されないという問題があり、中央集権化を進める意思決定をおこなった。
また、エンタープライズの顧客利用を増やすためのガバナンス強化や、録画データを活用したプロダクト開発に活かしたいといった点も、背景としてあったという。
なぜ、Zoom ISVパートナープログラムを使うのか
中央集権化を目指す際に、なぜZoom ISVを選択したのか。大きく分けると以下の3つが挙げられる。
- フレキシブルかつスケーラブルな運用が可能
- コストメリットが高い
- 使い慣れたUXで提供できる
一言で言えば、Zoom ISV パートナープログラムは「好きなときにZoomアカウントを発行して、ログインレスで利用できる仕組み」。そして利用した分だけ支払えばいいなど、ISVパートナープログラムとZoomがmentoのプラットフォームビジネスと相性が良かったことなどが大きな理由だ。
Zoom ISV パートナープログラムの成果
こうした体験からZoom ISV パートナープログラムで、どのような成果が得られたのか。
まず、2023年に移行の意思決定をし、それを1年くらいで全コーチングをmento管理下にシームレスに移行完了できたことが挙げられる。次に、コーチングのデータ(コーチングのデータはシステムのみが参照可能)を活用した機能開発の促進ができたことだ。顧客からの評判も良く、「AIサマリー」でHRテクノロジー対象部門賞を受賞することもできた。
Zoom Video SDKの導入について
続いて、「なぜさらにZoom Video SDKを使ってアップデートしたか」が語られた。
課題としては、どうしてもコーチングの際にZoomのアプリケーションに移動するため、プロダクト体験として分断してしまうことだ。例えば、コーチング後にアンケートを書いてもらう、といったコーチング後の体験を作り込むのが難しい。もう一つは、今後の取り組みとしてビデオ通話中に、リアルタイム×マルチモーダルでデータを扱いたいため、自前のプロダクトの上でコーチングを実施している状態を作りたかった。
その上で、ビデオ通話の実装自体はできるだけライブラリに任せ、自分たちはコーチングのコアドメインの実装に集中したい。また、ミッションクリティカルな機能なため信頼性が重要になるため、Zoom Video SDKを使って"巨人の肩にちゃんと乗る"ことが大事と判断した。

Zoom Video SDK導入の成果や学びについて
昨年末リリースのため、まだ明確な成果が出ているわけではないと前置きしながらも、コーチング専用のビデオ通話機能をリリースしたことや、やってみてよかったことも共有された。

学びとしては、以下の3つが挙げられた。
- チャットや背景画像など、ビデオ通話の周辺機能の支援が大きい
- ユーザーはZoomやGoogle Meetと比較してくる
- ブラウザやハードウェア起因のトラブルに悩まされる
「学びで言うと、やっているとチャットや背景画像をぼかして、ビデオ通話であるような機能を作りたくなるんですよ。SDKがサポートしているので、周辺のエコシステムが強い。基本的にはそれに乗っかるだけで、Zoom相当のものが作れるところが良かったです」(松山氏)
改善点でいうと、ユーザーはZoomやGoogle Meetを使い慣れているため、基本的にそこと比較してくることだ。例えば、「美肌機能が欲しい」「Picture_in_Picture(PiP)機能がないとコーチングできません」といった要望が寄せられるそうだ。
さらに、ブラウザやハードウェア起因のトラブルが多く、シューティングが難しいのだという。これらは佐野氏に相談して、「Zoom Probe SDK」で解決の兆しが見えている、と松山氏は感謝を述べた。
セッションの終わりでは、佐野氏がZoom Developer Platformの最新情報をいくつか紹介した。数行のコードで手軽にVideo SDK を実装可能な「Zoom Video SDK UI Toolkit」、さまざまなデバイスで最適なパフォーマンスを実現できる「Video SDK 2.1.0 with WebRTC」、通信接続やデバイスの状態を検査する「Zoom Probe SDK」などである。

最後に佐野氏が、「ぜひ、mento様のように社内リソースは自社のコア機能にフォーカスいただき、コミュニケーションに関することはZoomのプラットフォームを活用していただきたい」と強調し、セッションを締めくくった。日本語でのZoomのAPIやSDKの最新情報はZoom Developers Communityでも提供しているため、無料メンバーに登録しておくことをおすすめする。