マネージャーを諦めたエンジニアが辿り着いた「AIマネジメント」という発想
不動産データベースを開発・運営する株式会社estieでスタッフエンジニアを務めるkenkoooo氏は、技術戦略と開発生産性を牽引する立場にある人物だ。大学卒業後の“自宅警備”を経て、複数社でエンジニアとして経験を積んできた。同氏が今回提示するのは、「マネージメントのアンチパターンがAI時代に活きることもある」という視点だ。
かつて外資企業で「待遇の良さ」に触れたkenkoooo氏は、マネージャー職を志望していた。外資と同じくらい良い環境を、自らの手で作りたい──そんな野望を抱き、スタートアップ企業に入社。マネージャーとしてチームの生産性を上げ、理想の待遇を用意することを目論んだ。
ところがいざ取り組んでみると、「根本的に向いていなかった」。ついつい前に出てしまい、他者に成長機会を与えられない。やり方を細かく指示し、マイクロマネジメントに陥ってしまう。双方向での話し合いでも、つい発言量が多くなる……「これではピープルマネジメントは成立しない」と判断し、マネージャー職は諦めることに。「個」として価値を発揮できるスタッフエンジニアの道へ進路を転換した。
ところが、kenkoooo氏に意外なチャンスが訪れた。AI時代の到来だ。estieではCursor・Devin・Claude Codeを全エンジニアに開放している。同氏も積極的に活用する中で、「マネージャーを目指そうとして踏み抜いてきたアンチパターンが、AIに対してはむしろ合理的に作用する」と気付いた。
まず「貸せ! 俺がやる!」という行動。人間相手なら「成長機会を奪う」として忌避されがちが、AIが相手ならコンテキストの指定としてプラスに働く。しかも、AIが常に100%の完成品を作るとは限らないので、「成果物を取り上げて、自分で仕上げる」手法はむしろ効率が良いのだ。
次に「マイクロマネジメント」。これも人間の部下にとっては危険な場面だが、AIにはむしろプラスに働く。「こういう順で実行せよ」と手順を具体的に指定する方が、AIは動きやすいからだ。しかも、実務のコンテキストはリポジトリ・Wiki・Slack・ドライブなど多地点に分散しており、どのみち人間の助けが要る。「指示しすぎ」「与えすぎ」くらいがちょうど良いのだ。
そして、「一方通行のコミュニケーション」。人間同士なら「押しつけ」と取られがちなコミュニケーションも、AI相手なら方向をストレートに伝えた方が手戻りが減る。「ただし、AIの提案のほうが優れているケースもあるため、必要に応じて調査は行うべき」とkenkoooo氏は冷静に付け加えた。
ここでkenkoooo氏は、意外な事実として、マネジメントにおける“任せる”姿勢がAI活用にも生きることを紹介した。AIが処理できるタスクは、モデル更新のたびに増えていく。だからこそ、「常に“任せる”姿勢を持ち、まずは振ってみる。ダメなら自分で」という付き合い方が最適解だと話す。マネージャーを諦めたエンジニアだからこそ語れる、AI時代の新しいマネジメント観が鮮やかに提示されたセッションだった。
