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Developers Summit 2026 セッションレポート(AD)

エンジニアだからといって生成AIですぐに成果を出せるわけではない──AI時代に必要な“肌感覚”とは?

【20-D-5】「触らないとわからない」を武器にする──AI時代のエンジニアが獲得すべき肌感覚と、没頭できる時間の確保

 生成AIは便利だ。誰でも簡単に使い始められる一方で、この新しい技術が「何をどこまでできるのか」は、使う人の能力によって大きく左右される。しかも、それは触りながら“肌感覚”で覚えていくしかないものだ。この感覚を身につけるには時間がかかるが、時間をかける価値は十二分にあるという。エンジニアはいかにこの感覚をつかみ、組織はいかにサポートすべきなのか。車両データを活用したコネクティッドサービスやモビリティ向けソフトウェアを開発するトヨタグループのIT企業、トヨタコネクティッド株式会社 先行企画部 檀野隆一氏が語った。

4つのタイプで見る、生成AIとの相性とは?

 トヨタコネクティッドでは、生成AIが登場する以前から、車載ボイスエージェントの開発を通じて、音声認識や形態素解析、意図理解といった技術に取り組んできた。だが、初めてChatGPTを試した檀野氏は、「これまで自分たちが書いてきたプログラムコードや自然言語処理のロジックの多くは、もはや書く必要がなくなるのではないか」と感じたという。

トヨタコネクティッド株式会社 先行企画部 檀野 隆一氏
トヨタコネクティッド株式会社 先行企画部 檀野 隆一氏

 そこで2023年からR&Dを開始。1年目、まずはアンケート結果の分類作業を自動化できないかと試した。2年目にはコードの生成能力が高まってきたことから、仕様書からAPIを生成してみた。そして3年目となる去年は、フィジカルAIの可能性を探るために、ロボットアームと生成AIを掛け合わせてみるなど、さまざまな試行錯誤を重ねてきた。

 その中で檀野氏は、生成AIの進化の速さを痛感した。「『今のモデルでは難しい』と感じた課題の多くは、半年~1年後には解決している。進化のスピードがあまりにも速すぎて、作ったものを捨てる覚悟を持っておかないと、古いモデルに固執して取り残されてしまう。次のモデルを評価しやすくするために、現時点での限界を“実感として”知っておくことが大切だ」。

 また、組織にAIを導入する際には、押し付けは禁物だ。やらされ感が出ると逆効果になる。生成AIに慣れるスピードには個人差があるし、自分ができるからといって、相手も当たり前のようにできるわけではない。本人が便利さに気づいて自然と使い始めるまで、気長に待つ必要があるのだ。

 檀野氏は「物事の捉え方」と「行動様式の掛け合わせ」で、生成AIとの相性を4象限のマトリクスに分類した。中でも右上の「ポジティブな側面を見て活用方法を考える」×「まず手を動かしてみるタイプ」の人は、推進力があって、一見、良さそうに思える。だが、このような人は「セキュリティリスクが十分に検証されていないAIエージェントを安易に導入し、セキュリティインシデントを引き起こしてしまうタイプでもあるため、注意が必要だ」と檀野氏は警鐘を鳴らす。

 これ以外のタイプは、どれも何かしらの理由で生成AI活用に踏み出すまでに時間がかかる傾向にある。その人の特性によって、どこで躓きやすいかを見抜ければ、生成AI活用の定着までに、どのくらいの時間がかかりそうなのか、予測も立てやすくなるだろう。

生成AIとの相性を4つのパターンで分類
生成AIとの相性を4つのパターンで分類

「エンジニアだから生成AIですぐに成果を出せる」は大間違い

 檀野氏が自身のチームに生成AIを導入した手順は、次の3ステップだったという。

STEP1:慣らし運転

 たとえば、ExcelのデータをCSVやJSON形式に変換する処理を依頼するなど、“業務に直結するタスク”を生成AIにやらせるように指示を出し、1日に1回は生成AIに質問する習慣をつけさせる。そこで「これは便利だ」と気づくなどポジティブな体験を積み上げるうちに、「これもできるのではないか」と、だんだん思考が切り替わっていく。

STEP2:OJT&レビュー

 実際の仕事で生成AIを使いながら、何ができて何ができないのかを見極めていく。「生成AIに1日かけてやらせてみたけれど、中途半端なものしか出てこなかったので、結局、自分でやりました」と言われたときに、“1日無駄にしたから失敗”と捉えるのか、“生成AIの限界を知ることができたから投資”と捉えるのか。これによって、その後の生成AI活用の進み方が大きく変わってくる。

STEP3:ストレッチ

 生成AIで何ができるのかがわかるようになると、つい、できることだけをやらせようとしてしまう。けれども、生成AIの進化のスピードは速いので、実は知らぬ間にできるようになっているかもしれない。その境界線を知るためには、生成AIができなさそうに思えるタスクを無茶振りしてみるのがオススメだ。

組織に生成AI活用を浸透させるための3ステップ
組織に生成AI活用を浸透させるための3ステップ

 この流れを見て、「ずいぶんと丁寧だな」と感じた人もいるのではないか。「自分も周囲もソフトウェアエンジニアなのだから、生成AIの使い方なんて、触ればすぐにわかるのに」と。「だが、これは大きな誤解だ」と檀野氏は指摘する。

 そもそも、プログラミングと生成AIは、全然違う。生成AIへ適切な指示を出したり、出力の確認や修正をしたり、挙動を理解したり、エコシステムを理解したり、といった生成AI活用スキルは、コーディングの適性とは全く異なる能力だ。

 むしろ、部下のマネジメントやML系エンジニアの適性が必要だろう。おまけに生成AIは、誰でも使えるし、プロンプトを入力したら、すぐに返事をしてくれる。だからなんとなく「技術に強いソフトウェアエンジニアが生成AIを使えば、すぐに成果が出るはずだ」という誤解が生まれ、過度なプレッシャーが与えられるようになるのだ。

 組織が生成AIに適応するには、時間がかかる。当たり前だが、生成AIを使えばどれくらい開発が速くなるのか、やってみなければわからない。従来の経験が全く通用しない生成AIの“肌感覚”は、試行錯誤の中でしか身につかないのだ。

 「すぐに成果が出ないのは『失敗ではなく必要な投資だ』という認識がないまま生成AIプロジェクトを進めると、組織が疲弊してしまう。没頭して試行錯誤する時間を捻出するのが、シニアエンジニアの役割だ」と檀野氏は指摘する。

 そしてもうひとつ注意したい点として、「次の開発に生成AIを使うと決めても、開発期間を短くしないこと」を挙げた檀野氏。生成AIを使ってみて、これは難しいと思ったら、あとは人力でやれるだけの時間をバッファとして見積もっておくのである。「うまくいけばラッキー。うまくいかなければいつもの開発。こうしておけば『それならやってみようかな』という気にもなる」と語った。

生成AI活用の“肌感覚”を身につけよう

 檀野氏が必要だと説く、生成AI活用における“肌感覚”とは、「生成AIにどれくらい頼ると、自分の作業のどの部分が、どのくらい早く終わりそうかがわかる」「生成AIに何度聞いても、安定的に期待した出力が返ってくる」といったものであり、いわば“生成AIを制御できている感覚”のことだ。この肌感覚は人によって異なるため、他の人に聞いてもよくわからないし、結局は自分でやってみないとわからない。

 この肌感覚が身につくと、自分の入力に対して生成AIがどのような出力をするのか、把握ができるようになる。すると、従来は数日~数週間かけて作っている間に仕様が変わって作り直しをしていたものが、プロトタイプや検証目的の試作であれば、生成AIなら数分~数時間でできるようになる。さらに、最初の数分で生成AIが使えるか使えないかの判断ができるようになり、最悪でも従来と同程度、最高なら劇的な時間短縮ができるというわけだ。「最初はくじ引き感覚でも、次第にその確度を上げていけたら」と檀野氏は述べる。

生成AI活用の“肌感覚”が身につくと、こんなに差が出る
生成AI活用の“肌感覚”が身につくと、こんなに差が出る

 続いて檀野氏は、2026年の生成AIとエンジニアのこれからについて、次の3つの指針を示した。

1. 「動くものファースト」になる

 従来は、実装に時間がかかるので、一生懸命、その前段階で要件定義や設計をしていたが、プロトタイピングや検証できるものを10分で作れるなら先に動くものを作ってしまったほうがいい。見えない状態で資料を作り込むのではなく、動くものを見てから必要な資料を作るよう、順番が変わる。

2. ソフトウェアエンジニアリングの「拡張」

 従来は人間がやっていた工程に、生成AIが入ることを前提とした開発・運用プロセスに。最終的には人間が見るが、試行錯誤のプロセスに人間が入るとボトルネックが増えるので、品質基準が明確な定型処理に限れば、人間がレビューに介入する頻度を減らすことも可能だ。

3. チームで足並みを揃える

 チーム内で生成AIの知識や活用度に差がありすぎると、パフォーマンスにばらつきが出てスケジュールの見積りが困難になる。新メンバーのオンボーディングに「生成AIチュートリアル」を組み込み、2週間程度の適応期間を経てからチームに本格参入してもらうようにすることで、チーム全体のベースラインを揃えたほうが効率的だ。

 最後に檀野氏は「生成AIはエンジニアを置き換えるものではなく、エンジニアの能力を拡張するもの。生成AI活用の肌感覚を持ったエンジニアは、これからの開発現場でますます価値が高まる」と語り、セッションを締めくくった。

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提供:トヨタコネクティッド株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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