拡大、加速
2つのコミュニティは統合され、ダイキンのあらゆる開発者を対象とした「Daikin Developers' Lounge(D2 Lounge)」となった。D2 Loungeは参加者約400名のコミュニティとなり、週間アクティブユーザーも200名近い。AWSの協力を得て実践型ワークショップ「GameDay」も開催し、60名を超える参加者が集まった。また、D2 Loungeで特に盛り上がっているのが「AIコーディング」チャンネルだ。ランチ会も開かれており、生成AIを使った開発への関心の高さがうかがえる。
生成AIへの対応として、まずRAGテンプレートを整備した。社内文書などを検索し、その結果を生成AIの回答に反映するRAGシステムへのニーズが、社内で急速に高まっていたためだ。前川氏らは、リファレンスアーキテクチャの延長としてテンプレートを用意し、すでに10以上の組織がPoCに活用しているという。DevOps Ready(Lint整備・CI/CD基盤込み)の構成とし、モデルや実装技術を差し替えやすいよう、RAGの基本フローをインターフェースとして定義した。
「AIツールの爆発的な変化を鑑み、RAGの基本フローをインターフェースとして定義することで、実装技術が陳腐化しても載せ替えられるように」という設計判断によるものだ。
組み込みシステム向けのAIコードレビューシステム「D-Arc」も試作した。
D-Arcでは、GitLabからコード差分を取得し、構文解析ツールで差分中の変数や定義を抽出する。そのうえで、変数の意味推論や参照状況の分析を行い、ゼロ除算、オーバーフロー/アンダーフロー、変数名の妥当性といった観点からAIによるレビューにつなげる。
前川氏はこの仕組みについて、生成AIに丸投げするのではなく、構文解析などの決定論的な手法と組み合わせている点を強調した。結果的に、近年注目されている「AIエージェント」的な考え方を先取りする形になったという。CLIだけでは使われにくいという現実を踏まえ、VSCode拡張機能も内作してフィードバックを得やすい環境を整えた。
QA領域でも生成AIの活用を進めている。1つは、Spec駆動開発、つまりビヘイビア駆動開発(BDD)に近い考え方で、「どうあるべきか」を外側から押さえる取り組みだ。現在はAutify Genesis 2.0を使い、要求分析から受け入れテストまでをつなぐPoCを進めている。
もう1つは、既存コードが「どうなっているか」を内側から押さえる取り組みである。ここでは仕様化テスト(Characterization Test)を軸に、コードメトリクス分析、Property Based Testing、Mutation Testingといったテスト技法を活用している。
技術とともに歩み続けるために
前川氏は、これまでの活動を振り返り、「技術とともに歩む」ことを2つの観点から整理した。
1つ目は、技術を獲得しながら、それに合わせて戦略を取っていくことだ。一足飛びに拡大するのではなく、個人とチームの成長に合わせて、AWS設計指針やアジャイルチーム支援を少しずつ広げてきた。そこに、コミュニティによる横のつながりも加わっていった。
2つ目は、最新技術を見極めながら、適切に適用していくことだ。RAGテンプレートでは、技術の流行り廃りを見越して差し替え可能な構成にした。D-Arcでは、生成AIだけに頼らず、構文解析などの手法と組み合わせた。こうした取り組みを、前川氏は「理想と現実のギャップを埋める旅」と表現した。
前川氏は最後に、技術とともに歩み続けるためのキーワードとして「協創」を挙げた。AIと人間については、「驚き屋さんたちの狂騒」を超え、本当の価値を手を動かして確かめる。社内では、組織間をつなげ、社内の力を最大化する。社外とは、会社間の競争だけでなく、共通の課題を持ち寄り、ともに解決していく。前川氏は、この3つの協創を示して講演を締めくくった。
