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Developers Summit 2026 Summer セッションレポート

AIで実装は速くなったのに、なぜアウトカムは増えないのか? ボトルネックが移った先にあるエンジニアの仕事

【16-C-5】AI時代こそ、スケールしないことをしよう-「作る人」から「なぜ作るか」を考える人へ

森山 咲(編集部)[著] / 井原 淳一[写]

検証サイクルに開発を従属させる

 顧客理解のボトルネックを解消すると、次は顧客検証がボトルネックになった。顧客は日々の現場業務で忙しい。訪問でやることは「現場を見せてもらう」「製品を触ってもらう」「今後の進め方を話す」などやることが非常に多く、検証に使えるのは、「製品を触ってもらう」限られた時間だけだ。そのため、開発がAIで機能をたくさん作ったとしても、全てを検証することはできない。「ボトルネックが顧客理解から顧客検証に移動しました」と同氏は語る。そこでチームは、開発を顧客検証に従属させることにした。

作るものを絞り、検証のサイクルに合わせる
作るものを絞り、検証のサイクルに合わせる

 具体的には、作るものを絞ること、作るタイミングを検証のサイクルに合わせることの2つに取り組んだ。まず作るものは「正解がわからず、お客さまに聞かないと判断できないもの」に絞った。設定画面のようにある程度のプラクティスがあり、リリースした後でも直せる部分はヒアリングの対象から外し、開発優先順位も劣後させた。本来では設定画面で入力するはずのデータは、エンジニアが裏で手作業でデータ投入して対応した。一度出したら後戻りできない部分や、顧客に直接聞かないとわからない部分に時間や関心を集中するためだ。

 次に、作るタイミングを検証に合わせた。「こういう検証をしたい、こういう仮説がある、だからこの機能を作る」というスケジュールを立てて検証の手前までに作る。すぐに作れるからと言って不必要に作らない。作らないものが生まれたことで空いた時間は、ヒアリングや現場訪問に充てた。

 「AIは機能を無尽蔵に作る道具ではなく、試行の回数とその確度、質を上げる道具として使うべきです」と同氏は語る。例えば本実装の前にモックだけを作って顧客の反応を確かめる、設計を議論する前に実際に動くものを作り、それを見ながら話すなど、目に見える形にすることで試行の回数を増やし、何を作るべきかの判断の確からしさを上げているという。

 展示会のブースにも立った。商談を獲得するために清水氏自身が顧客にサービスについて提案することで顧客がどこに興味を持つのか、普段の開発においてセールスがどんな背景で要望を出すのかも理解しやすくなった。一方で、カミナシはマルチプロダクトを提供していることもあり来場者の関心は別サービスに向いていることも多く、プロダクトへのフィードバック量は顧客訪問ほどではなかったという。「訪問商談や展示会は、技術でスケールさせる要素がかなり厳しかったです」と、うまくいかなかった点も率直に振り返った。

コードの外に踏み出すことが、今のエンジニアの価値

ボトルネックはコードの外へ移動した
ボトルネックはコードの外へ移動した

 一連の取り組みを経て、清水氏は「なぜ作るか」から考えられるようになったという。一次情報を基に自分たちでドメインを理解しているため、機能をソリューションベースではなく、顧客の課題ベース、つまりWhyから議論できるようになったのだ。なぜその機能が必要なのかをエンジニアやデザイナー、PMと話せるようになり、「別のソリューションで解決すべきでは」「これは作らなくてもいいんじゃないか」といった議論もチームから出るようになった。

 ドメイン理解の深まりは、マルチプロダクト間の議論にも生きた。カミナシは複数のサービスを持つので、新規プロダクトを開発する時には、そのプロダクトのコアドメインを慎重に考える必要がある。なぜなら他のサービスの概念との関わりや、今後の成長や複雑化を加味した上で他サービスと適切に領域を切り分ける必要があるからだ。

 新規プロダクトのコアドメインについてCTOやVPoE、既存サービスのPMも交えて議論が行われたが、ここにおいてエンジニアである清水氏が議論をリードし、新規サービスのコアドメインが全体の合意のもとに定義された。これがなぜ可能だったのだろうか。同氏は「数多くの顧客理解や顧客検証を経たことで個々の顧客の業務を理解しただけでなく、共通のSaaSとして捉えた時にどのように解決すべきかまで理解できるようになりました」と伝えた。

 AIが誰でも使えるようになったことで、膨大な資料を集めることや、内容をまとめさせることも、今や誰にでもできる。エンジニアリングの知識を持ったうえで顧客の一次情報を理解し、なぜその業務があるのか、何をすれば本当に顧客の課題を解決できるのかを考えることが大事なのだという。

 講演の最後に、清水氏は「皆さんのチームの最大のボトルネックは何でしょうか。そこにちゃんとコミットできていますか」と問いかけた。そして「AI時代こそ、スケールしないことをする。これが解決のための鍵になるのではないでしょうか」と述べ、講演を締めくくった。

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この記事の著者

森山 咲(編集部)(モリヤマ サキ)

CodeZine編集部所属。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

井原 淳一(イハラ ジュンイチ)

 雑誌やフリーペーパー(紙媒体)Webなどで、料理、人物(インタビューやポートレート)、商品撮影をしています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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