パブリッククラウドとプライベートクラウドのすみわけ
――IBMでのパブリッククラウドとプライベートクラウド事業における、戦略の違いなどはありますか。
米持氏:IBMのクラウド戦略は、大きく3つの階層を持っています。Lotus Liveに代表されるようなインターネット上にサービスを展開するパブリッククラウド、クラウド環境を構築するというプライベートクラウド、そして、これらを実際に構成するサーバー群などのクラウド部品の3つです。
パブリッククラウドでは、インターネット上のサービスを提供することが基本になりますが、シンクライアント環境を提供するデスクトップクラウドや、Rationalの開発環境を提供するDevelopersクラウド、サイトのポリシーテストをオンデマンドで行うPolicy Tester on Demandなどといったサービスがあります。担当する事業部もサーバー事業部とソフトウェア事業部が中心であり、ソフトウェアビジネスの新しいモデルを構築、拡大していく戦略を担っています。
プライベートクラウドは、企業などに専用のクラウド環境を提供、構築するということで、インフラ系の事業部が、ディザスタリカバリなどのためのストレージクラウドを提供したりしています。IBMでは、2000年ごろから、セキュリティ強化の目的もあって、マシンルームや部署ごとのサーバーなどを順次廃止していこうという動きがありました。5年ほど前からマシンルームを実際に減らし、以前なら社員(とくに研究所など)の机の上や下に散乱していたサーバーなどはほとんど姿を消しています。それでも業務に影響がないほど、IBMにはプライベートクラウド環境構築のノウハウの蓄積があるので、これを外に提供しようというのがプライベートクラウドビジネスの基本です。
手元にサーバーがないと、パフォーマンスなどが懸念されがちですが、実際は、ネットワーク環境の整備が進み、サーバー自体が高性能なため、むしろローカルの環境より速いくらいです。また、インストール・アンインストールやアップデートなど細かい運用業務から解放されるため、現場の評価も高いです。
最後のクラウド部品ですが、クラウドのハードウェアアプライアンスというようなイメージのラックやサーバーを想像していただければよいと思います。ブレードサーバーやミドルウェアが構築された「箱」です。
――パブリックとプライベートの棲み分けはビジネスの規模の違いと考えればよいですか。
米持氏:自社専用のクラウド環境を構築できるかどうかという意味では、そのとおりですが、IBMでは企業規模の大小というより、ニーズの大小という点を重視しています。大企業でも、オンデマンドでCPUやサービスを利用したいシチュエーションは存在するはずなので、パブリックだからベンチャーだけのサービスとは考えていません。
その背景には、企業のシステム構築のシナリオの変化の影響があると思っています。クラウドのような選択肢が広がることで、これまでプロジェクトごとにマシンやソフトウェアを用意していたという発想は減ってくるかもしれません。クラウド環境では、システム開発における7工程、要件定義・計画・外部設計・内部設計・開発・テスト・運用、といったフェーズを根本から見直す必要があります。
そういったシナリオの変化に対応するため、柔軟なクラウドサービスを目指しています。