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規模の大小よりもニーズの大小に対応する
――IBMのパブリッククラウド戦略

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Amazon EC2での利用シーン

――EC2でIBMのミドルウェアを利用しているユーザー層というのはどのあたりになるのでしょうか。

 米持氏:日本での主なユーザー層は、ベンチャー系企業やSMBと呼ばれる中小規模の企業が多いようです。米国ではコーポレートカードが浸透しているからか、EC2のサービス自体が、クレジットカードによる決済にしか対応していません。このため、日本の企業では若干使い勝手が悪い面があるのかもしれません。

 日本でどのような応用があるかといえば、まずエンジニアが開発中にテスト環境が欲しいとき、使えそうなマシンを探してきたり、面倒な購入手続きをとらずにテスト環境を構築するというものがあります。EC2ならミドルウェアまでのセットアップを含めて10分くらいで使えるようになる、しかも終わったらマシンを片づけたりせずに「捨てられる」というメリットもあります。新規のインストールや環境設定の時間が短縮できます。

 また、企業の規模やセキュリティの関係でその拠点にマシンルームがないが、各種のソフトウェアサービスを利用したいといった目的でEC2を使う企業も存在します。

 その他の用途としては、セミナーやイベントの受付サイト、レガシーデータのマイグレーション、季節性の高い処理への応用も進んでいます。大学の受験申込、イベントなどの受付サイトは、参加登録が集中しているときは、サーバーパワーも最大のものが要求されることがありますが、EC2によってCPUパワーをスポットで利用できます。レガシーデータの現状システムへの変換作業は、大量なデータ処理が発生し、それなりに負荷がかかる作業ですが、変換が終わってしまえばおそらくそのソフトウェアはほとんど使われなくなります。

 これらの用途はEC2に限ったことではなく、クラウドサービスにおいて共通の特徴といえばそのとおりですが、IBMのエンタープライズソフトウェアがCPUパワーとともに時間単位で利用できることの意味はあると思います。少し前なら購入するか、ホスティングサービスという選択肢しかなかったわけですが、現在は、処理負荷や期間によって時間単位でのレンタルのような選択肢も増えたということです。

「クラウドサービスによって、従来のホスティングサービス以外の選択肢が増えてきた」と米持氏。
「クラウドサービスによって、従来のホスティングサービス以外の選択肢が増えてきた」と米持氏。

 EC2のようなパブリッククラウドではありませんが、IBMのクラウドコンピューティングセンターでは、映画制作会社にオンデマンドでCPUリソースを提供するという事例があります。CGを使った映画制作の場合、従来なら、グラフィックワークステーションやスーパーコンピュータなどを自前で持っていましたが、現在では、依頼ごとの規模や期間に合わせたクラウド利用が増えていると聞きます。

サポートの状況

――EC2はアマゾンジャパンではなく、米国Amazonのサービスですが、IBMとしてEC2ユーザー向けのサポートなどはどうでしょうか。

 米持氏:EC2のサイトはすべて英語なので、IBMの製品に関する使い方の資料は日本語で用意するように準備しております。日本語のマニュアル類は、developerWorksのページに随時追加されていく予定です。カスタマーサポートも対応はしておりますが、サービスが米国のものなので、米国Amazonのコールセンター経由となってしまいます。このあたりはEC2のプラットフォームを利用している限り、IBMだけの問題ではないので悩ましいですが、そもそもクラウドという考え方は、国や言語を意識しない利便性という側面もあるので、提供者、利用者双方のマッチングの問題ではないでしょうか。

――米国Amzonのサービスということはあまり障害にならない?

 米持氏:現状では、ドキュメントやサポートは障害になっていないと思います。コアユーザーはベンチャー系企業だったり、ITエンジニアだったりとドキュメントやサポートに対する考え方が、一般の大企業などとは違うのかもしれません。また、日本にはSIerが多いので、これらの企業が、EC2の契約や運用を大企業や専門知識のない企業に代行してサービスを提供している事例もあります。これを発展させて、自社が請け負うシステム構築に、EC2のサービスを取り入れるSIerも存在します。

 先ほど事例で紹介したイベント関係では、大規模なものの運営やシステム構築を請け負ったとき、ホスティングやシステム購入ではなく、EC2のオンデマンド運用でコストダウンを図るというソリューションです。

 既存システムをコストダウンしたいという目的だけで、クラウドやSaaS導入を考えると、セキュリティやSLAの問題により思ったより削減効果がでなかったというようなこともあります。EC2でのサービスは、そのような包括的なクラウドソリューションとしてではなく、いままでシステム導入がしにくかった分野や規模のニーズに対してのソリューション提供、選択肢の拡大という視点で捉えています。IBMのような大企業でも、ベンチャーやSIerなどの「小さいチャレンジ」をちゃんとフォローできます、というのがパブリッククラウドでのビジネスではないかと思っています。

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パブリッククラウドとプライベートクラウドのすみわけ

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この記事の著者

中尾 真二(ナカオ シンジ)

フリーランスのライター、エディター。アスキーの書籍編集から始まり、翻訳や執筆、取材などを紙、ウェブを問わずこなす。IT系が多いが、たまに自動車関連の媒体で執筆することもある。インターネット(とは当時は言わなかったが)はUUCPの頃から使っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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