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AIネイティブ時代にどう立ち向かう? レッドハットが示すエンジニアリングプラットフォームの「手の内化」

 レッドハットは7月1日、2026年度の事業戦略説明会を開催し、AIと人間が協働してシステムを開発・運用する「AIネイティブ時代」に向けたプラットフォーム戦略を発表した。同説明会では、急速に進化するAI環境に企業が適応するための具体的なアプローチとして「プラットフォームの手の内化」「AIと共創する開発体験」「信頼のあるAI実行基盤」という3つの方向性が示された。さらに、同社のプラットフォームを活用してIT変革に取り組むユーザー企業として、JALデジタルと三井住友カードの担当者が登壇し、それぞれの内製化やAI駆動開発の具体的な実践事例を共有した。

 レッドハットの代表取締役社長を務める三浦美穂氏は、まずグローバルにおける2025年度の業績ハイライトを説明し、売上高で前年比12.9%増(為替変動調整後11.7%増)という10%台の成長を継続していることを報告した。

レッドハット株式会社 代表取締役社長 三浦美穂氏
レッドハット株式会社 代表取締役社長 三浦美穂氏

 この成長の背景について三浦氏は、従来のLinuxオペレーティングシステム(OS)の順調な拡大に加え、近年のAIやハイブリッドクラウドの需要拡大が大きく貢献していると解説。特にコンテナ化や仮想化のための基盤である「Red Hat OpenShift」における仮想化機能(OpenShift Virtualization)の利用率が、世界中で前年比417%増と急成長を遂げていることを強調した。

ハイブリッドクラウドとAI領域において成長
ハイブリッドクラウドとAI領域において成長

 同社は昨年度の戦略発表会にて、コアビジネスからAIまでをひとつのプラットフォームで連続して届けるロードマップを提示していたが、この1年間でAIネイティブへの進化が予想を上回るスピードで進んだという。これを受けて、2026年度のスローガンとして「『AIネイティブ』な日本を共に創る」を掲げ、技術の提供にとどまらず、顧客やパートナーと一体となって組織やカルチャーの変革を伴走支援していく方針を打ち出した。

AIネイティブな組織改革をレッドハットが伴走
AIネイティブな組織改革をレッドハットが伴走

 さらに三浦氏は、AIネイティブ時代ではシステムを一度作って維持する構造から、技術革新やセキュリティの脅威に合わせて数カ月単位で切り替えるアーキテクチャへの変化が求められると指摘。その対応策として、まずは属人化を排除し自社でIT基盤をコントロールできる状態にする「プラットフォームの手の内化」の重要性を説明し、これを実現する開発ポータル製品「Red Hat Advanced Developer Suite」を紹介した。また、開発スピードを向上させるための準備のような位置づけとして、1時間でプロトタイプを構築する体験型サービス「The Next Generation Labs」を提供し、企業の開発体質そのものを柔軟に変えていく支援を行うとした。

 続いて、具体的な課題解決の事例として、ユーザー企業2社によるセッションが行われた。JALデジタルのデジタルデリバリー部 デリバリー戦略グループ 統括グループ長である磯崎洋幸氏は、2030年問題などの深刻な労働力不足への危機感から、経営ビジョンにおいてAIを前提とした変革を打ち出した背景を説明。しかし開発現場では、煩雑なインフラ環境設定や複雑な社内申請、セキュリティ審査といった本質的ではない作業の増加による、「付随的認知負荷」の肥大化が大きな課題となっていた。

JALデジタル株式会社 デジタルデリバリー部 デリバリー戦略グループ 統括グループ長 磯崎洋幸氏
JALデジタル株式会社 デジタルデリバリー部 デリバリー戦略グループ 統括グループ長 磯崎洋幸氏

 そこで磯崎氏らは現状を目に見える形で徹底的に数値化した。その結果、最低限のシステムをリリースするまでに165日のリードタイムと385時間のプロセスタイム、40種類以上の申請書が必要であることが判明したという。この課題を根本から打破するため、同社はレッドハット製品を中核とした「内部開発者ポータル(IDP)」を構築し、開発プラットフォームのエンジニアリング(Platform Engineering:PFE)に着手。社内文書のマークダウン化や、セキュリティガードレールが効いた環境をボタンひとつで自動払い出しする仕組みを整備した結果、環境整備のリードタイムは従来の165日から30分へと劇的に短縮された。

環境整備のリードタイムは165日から30分へと短縮
環境整備のリードタイムは165日から30分へと短縮

 磯崎氏は、探さない・待たない・迷わない環境ができたことで、開発者が本来のロジック実装に専念できるようになったと成果を語った。さらに、生成AIを用いた開発の高度化プロジェクトも立ち上げており、要件定義からコードの自動生成、テスト、自律的な運用監視に至るまでライフサイクル全体にAIを組み込む検証を進めている。

 次に登壇した三井住友カードの常務執行役員 CTO デジタルイノベーションオフィス本部長 兼 デジタルシステム開発部 共管である中川陽介氏は、同社が目指す「テックカンパニーになる」という道のりにおいて、技術や知識、コードのオーナーシップを自社に取り戻す「手の内化」の論理を解説した。

三井住友カード株式会社 常務執行役員 CTO デジタルイノベーションオフィス 本部長 兼 デジタルシステム開発部 共管 中川陽介氏
三井住友カード株式会社 常務執行役員 CTO デジタルイノベーションオフィス 本部長 兼 デジタルシステム開発部 共管 中川陽介氏

 中川氏はソフトウェアを早く安全に出し続ける力が企業の業績に直結するという研究を引用した上で、開発を外部に委ねていては社内に知識や責任が蓄積されにくいと指摘。同社は2025年9月にエンジニアの専門組織である「デジタルイノベーションオフィス(DIO)」を立ち上げ、まず共通のエンジニアリングプラットフォームを構築した。開発者が利用するセルフサービス型の共通基盤を構え、インフラやセキュリティの複雑さをプラットフォーム側が吸収することで、開発チームの認知負荷を下げる環境を整備。レッドハットのデベロッパー向けツール等を活用したこの取り組みにより、体感で開発効率は2倍に向上し、当初15名だった組織はオンボーディングの簡素化により、2026年内に約100名規模にまでスムーズに拡大できる見込みだという。

開発チームの認知負荷を下げたことで開発効率は体感2倍に
開発チームの認知負荷を下げたことで開発効率は体感2倍に

 さらに中川氏は特定のベンダーに依存しないオープンな技術スタックで構成することの重要性を強調。今後は「Red Hat OpenShift AI」などの導入も視野に入れ、どのモデルを使い、どう安全に統制するかというガバナンスとアジリティの両立に取り組むとした。安全を守る手すりやガードレールがあるからこそエンジニアがはみ出さずに自由なアイデアを発想できるとし、統制と速度を両立してこそ真のテックカンパニーになれると見解を述べた。

 ユーザー事例の紹介後、再び登壇したレッドハットの三浦氏は、AIが自律的に意思決定や動作を行う「AIエージェント」の時代を見据えた「守り」の戦略、すなわち信頼のあるAI実行基盤について詳細を語った。企業がAIを自発的に使うかどうかにかかわらず、周囲には脆弱性を突く攻撃者が常に存在するため、セキュリティ対応の体力を持つことは企業の生存戦略そのものであると三浦氏は指摘。具体的な支援策の1つ目として、同社は2026年5月のサミットで発表した、特定のメジャーバージョンの保守契約を無期限に提供する「Red Hat Enterprise Linux Long-Life Add-on」を紹介した。これは、古い環境を維持せざるを得ない事情を持つ日本の顧客から特に大きな反響を得ているという。

 そして、2つ目にはセキュリティパッチ適用の自動化を挙げた。日々発生する脆弱性に対して人の手でパッチを当て続けることは困難であるため、構成管理・自動化プラットフォームである「Red Hat Ansible Automation Platform」を活用し、自動的にリスクを検知して修正・適用するライフサイクルの確立を推奨した。

 3つ目には、NVIDIAとの協業による「Red Hat AI Factory with NVIDIA」を提示した。最先端のGPUアーキテクチャがリリースされた初日から検証済みのリファレンス環境を提供することで、企業が研究開発目的で作ったAIアプリケーションを、長期的な保守体制のもとで本番環境へと安全に移行・運用できる基盤が整ったとした。

 最後に三浦氏は、日本企業の多くが2030年に向けてたどるロードマップの予測を示した。2026年中にレガシーシステムの維持管理コストを削減して技術的負債を清算し、2028年までにAI前提の価値創出基盤や自律運用を社内に定着させ、2030年には人間の判断力とマルチエージェントAIが高度に統合されたエコシステムを確立していくという3段階の道筋である。

レッドハットが掲げるスローガン「『AIネイティブ』な日本を共に創る」
レッドハットが掲げるスローガン「『AIネイティブ』な日本を共に創る」

 この未来を見据え、三浦氏は「企業がAIと共に生きるこれからの時代において、そのお手伝いを『伴走』という形で、お客さまやパートナーの皆さまに向けて提供していく会社でありたい」と総括。企業が自社のIT基盤をコントロールし、AIと共生しながら素早く安全に新しいビジネスを創出できるよう、組織のカルチャーとインフラの双方から支援を続けていく展望を示し、説明会を締めくくった。

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この記事の著者

森山 咲(編集部)(モリヤマ サキ)

CodeZine編集部所属。

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https://codezine.jp/news/detail/24740 2026/07/01 21:14

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