- 講演資料(金子氏):普遍的に優秀な人材として成長し続けるための組織づくり
- 講演資料(梶原氏):エウレカ版 強いチーム作りで実践した学びについて
優秀な社員を育てていくことが組織の成長につながる
「エウレカを知っている人」───金子氏のセッションは、会場への呼びかけから始まった。エウレカは「Pairs」や「Couples」といったサービスを開発、運用しているITベンチャーだ。現在、2代目のCTOを務めている金子氏が同社に入社したのは2012年10月。当時はまだ同社が手がけるようなマッチングサービスは一般的ではなかったと振り返る。しかし、いまやオンラインで出会うのは、珍しいことではなく、当たり前の文化となりつつある。
エウレカとはどんな会社なのか。エウレカでは、これまで組織を形成してきた風土や文化を言語化している。ミッションは「すべての人が、人生の可能性を拓いていける世界をつくる。」こと。ビジョンは「かけがえのない人との出会いを生み出し、日本、アジアにデーティングサービス文化を定着させる。」ことだ。さらに、「普遍的に優秀な人材として成長し続けるという哲学がある」と金子氏は語る。エウレカが言う優秀な人材とは、「転職した先でも、第一人者として活躍できることだ」と説明する。つまり優秀な人材を育てていくことこそが、組織の成長につながるのである。
そして優秀な人材に欠かせないのが、社員一人ひとりが持つ向上心や責任感、仲間への愛情のマインドである。このマインドから、実際の行動に落とし込まれた行動規範が存在している。「例えば3カ月に1回行っている社員の評価面談はもちろん、採用面接でも行動規範をベースに評価をしている」と金子氏は語る。
行動規範をベースにした評価
では実際の行動規範とはどのようなものか。マインドの向上心を行動規範に落とし込むと、「顧客が真に求めているものを理解する」「大胆な目標設定」「目標からの逆算思考」「常に走りながら考える」「目標達成への圧倒的な執着」となる。責任感の行動規範には、「他人が見ているのは結果だけ」「変化に最も対応できる生き物が生き残る」「100-1=0(1=要所)」「社会の期待に応える」といった項目が、仲間への愛情の行動規範には、「時間の価値を知っている」「謙虚・尊敬・信頼」「自立・自律」「発言は責務である」の項目が挙げられている。「これらの行動規範を体現していくことがエウレカでの価値観になる」と金子氏は述べる。プロダクトオーナーが求めるビジネス価値を見極めるために、必須の行動だからだ。
「大胆な目標設定」とは、できそうなことと本当にできないことの違いを理解した上で、「できなさそうなこと」を目標として設定し、それに対して全力でコミットすること。「目標からの逆算思考」は、その目標に対して逆算思考を繰り返して、全力でコミットしていくことだ。「エウレカでは積み上げ目標より逆算思考を大事にしている。そうすることによって、成長するために自分に何が足らないかを把握し、自己成長につなげられるからだ」と金子氏は力強く語る。
なぜ、このような行動規範を言語化したのか。「Pairsをリリースしたとき、Pairsに関わっていた社員が4人ほどで、とにかくPairsを伸ばすことを第一優先にフルコミットをしていた。事業を考えるエンジニアとして動く。そういった文化がずっとある」と金子氏は明かす。エウレカが重視しているのはビジネスを考えられるエンジニア。そのため、エンジニアがその日のDAUをウォッチしたり、新規登録をウォッチしていくことが当たり前のように行われているという。2013年半ばごろから15年にかけて大幅に社員数が増え、エンジニアとデザイナーを合わせると、Pairsの事業部だけで約30人の体制になった。2016年にはグローバル事業部も新設され、Pairsに関わるエンジニアとデザイナーは約50人、Pairs全体では約90人の体制となった。「今後、韓国、香港、シンガポールなどでも展開を予定している。2018年12月には1000万人ユーザーを目指す」と金子氏の意気込みからもわかるように、サービスとしてはもちろん、組織としても急拡大していくことが予想されている。だからこそ、今年4月からチームビルディングをすることになったというわけだ。
「自立・自律した組織」を目指す
エウレカが目指すチームとは、「自立・自律した組織」である。そのチームビルディングを担当したのが、CTO室責任者の梶原氏だ。自立とは自らの足で立てること。そして自律とはその足で誰にも道を示されずとも正しい方向へ進めることだ。「自立・自律している人で構成されたチームではプロセス・ゲインが起こる。だから私たちは、すべてのチームが自立・自律したメンバーで自己組織化されることを目指す」と梶原氏は言う。
自己組織化された状態には、「チームにスキルがある。もしくはチーム自身でスキルを獲得する方法を知っている、リーダーは生産性に関与しない、自分たちで意思決定できる、衝突を内部で解決できる能力を持つ、といった特長がある。これは書籍『エラスティックリーダーシップ ―自己組織化チームの育て方』(Roy Osherove著)で述べられている」ことだと梶原氏は説明する。ではなぜ自己組織化されたチームが必要なのか。梶原氏は次の3つのメリットを述べる。第一に「現場で判断し、問題、課題を解決することによって、早いサイクルで改善できる」こと。第二が「チーム内で良い意味での厳しい指摘をフィードバックし合える関係によって視座が上がる」こと。第三は「エスカレーションすべきことを理解しているので、判断待ちを最小にすることができる」ことだ。
ではエウレカではどうやってチームビルディングを行ったのか。「人は集まっただけではチームにならない。まずはチームの状態を知るため、タックマンモデルに当てはめて考えていくことが必要だ」と梶原氏は説明する。タックマンモデルはメンバーが集められた状態の形成期から、チームの目的・目標に対する意見の食い違い、考え方や役割などで衝突が起きる混乱期、共通認識ができてチームが安定していく統一期、チームが一体化して目的・目標に向かっていく機能期へと進化していく。「なるべく早く成果がでるフェーズに進み、その後、自己組織化したチームになれるように戦略を描いた」と梶原氏は明かす。そのためにはメンバー間で共通的な理解を増やすこと、メンバーの価値観や相互理解を増やすことがポイントになる。
そこでエウレカでは、「ドラッカー風ワークショップとインセプション・デッキという2つのワークショップを実施した」そうだ。ドラッカー風ワークショップとは、メンバー間の期待のすりあわせを行うため、「自分は何が得意なのか?」「自分はどうやって貢献するつもりか」「自分が大切に思う価値は何か」「チームメンバーは自分にどんな成果を期待しているか」といった4つの質問を投げ、参加者がそれぞれ書き出して共有し、話し合うというものである。これによりメンバーのことや自分に期待されている成果をいち早く把握できるようになるわけだ。このワークショップで学べたのは「お互いの意思疎通が取りやすくなったことや、個人のモチベーションをチームにどう生かすかといった視座の向上、自分の振る舞いに自信を持つことができるようになったことだ」と梶原氏は語る。
もう一つのワークショップ、インセプション・デッキは、プロジェクトの進め方の共通認識、共通価値の把握のために実施した。インセプション・デッキによって得られた学びは、「目標や目的とチームの期待のすりあわせができたこと、チームとして判断に迷った際の判断基準を合わせることができたこと、メンバー間のプロジェクトに対する認識のずれを減らすことができたこと」などだ。「共通認識を増やすためにはチーム内の対話を増やすことが大事。ワークはそのきっかけとして活用するべきだ」と梶原氏は力強く語る。「大事なことはそれだけではない。伝達するのではなく、チームで対話して合意することで共通認識が生まれると考えている」と、続けて述べた。
自己組織化したチームをつくるための、ふりかえり会と妨害リストの運用
自己組織化へのステップは4段階あり、まず「課題を見える化する」、次に「一緒に課題を解決する経験をする」、第三に「チーム自身で課題を解決する」、第四に「チームで意思決定するのが習慣化する」の4つである。エウレカではチームが自己組織化するために、次のことを行っている。スプリントごとに自らのプロセスを振り返る「ふりかえり会」と、チームの活動を妨げるものをリスト化する「妨害リストの運用」だ。
「ふりかえり会は役職、雇用形態に関係なく、チーム全員が同じ立場で、チームのプロセスやチームの状態についてどう改善できるかを考える会。何を発言しても安全な場にしている」と梶原氏。特に重要になるのは意見ではなく、事実に目を向けることだという。
もう一つの妨害リストとは、仕事を進める上で妨げとなっていることをリスト化し、優先順位をつけて解決の方法を検討するためのもの。ここで大事なことは「常にチームから見えるところに置いておくことだ」と梶原氏は語る。チームの課題を見える化できるので、共通認識ができるだけではない。リーダーからアサインされるのではなく、メンバー自らがサインナップするため、自己組織化への第一歩となるのだ。
「チームビルディングに正解はない。対話と学びから微調整するしかない。ただ言えることは、自己組織されたチームが強いチームになる。自己組織化されたチームはユーザーに価値を早く届けることができるようになる。自己組織化されたチームは幸せになる」
最後に梶原氏はこう語り、セッションを締めくくった。
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