コミュニティと企業をエキスパートエンジニアが結ぶ
企業とコミュニティが、いかに関係性を持って互いに成長していくかというテーマを掲げた本セッション。コミュニティ活動についての紹介を始める前に、まずはソウゾウという会社がどのような組織なのか、日高氏が説明を始めた。
「われわれソウゾウのミッションは『Move Fast - 数多くトライしよう』『Go Bold - 大胆にやろう』『All for One - 全ては成功のために』『Be Professional - プロフェッショナルであれ』の4つ。特に大事にしているのが、『Move Fast - 数多くトライしよう』です」
組織体系は一般的なもので、プロダクトごとにメンバー10名程度のチームがあり、小規模な人数でプロダクトを回す。iOSや、Android、サーバーサイド、APIなどの各職能の組織を横断型で持ち、その中に上田氏、日高氏が務めるエキスパートエンジニア職も横断型で存在する。日高氏は「エキスパート職のミッションは、プロダクトを支えながら社外の独立したコミュニティへの貢献を行い、それを社内へ還元していくといった、外とのかかわりを大事にすること」と話したうえで、この職種が生まれた背景を次のように語った。
「エンジニアの世界は技術の進歩が非常に速いです。最先端の技術を取り込んで、試し、プロダクトで活用する作業は、一個人の力で追いきれなくなっています。それを組織の力でカバーしようと試みたのが、この取り組みです。エキスパートエンジニアは、社内活動を5割、社外活動を5割といったバランスで取り組んでいます」
彼らが中心となって回している、社内へ新しい技術を取り込み、社外のコミュニティへ発信するというサイクル。ミッションにあった「Move Fast」の意識が、この取り組みを後押ししている。日高氏は、社内で新しい技術が生まれるのは非常にまれであると語る。よさそうな技術を社外から持って来なければならないため、当然、外部へのコミットメントが必要になってくる。そのためのミッションとして、カンファレンス、勉強会の開催や運営、対外的な講演活動を行っているという。
技術をアウトプットするところに技術が集まる
続いて、主にGo言語のコミュニティの運営をしている上田氏が、コミュニティ活動と企業の相互作用について説明を行った。もともと、大学生のころからGoのコミュニティに携わり、Goの普及活動をライフワークとしていた上田氏。Goの学習の敷居を低くして入門者を増やし、Goで仕事をする人、プロダクトを開発する人を増やすことを目的に、現在もコミュニティ活動を継続している。
「主な私の活動は、4つのコミュニティ『Goビギナーズ』『golang.tokyo』『Go Conference』『GCPUG(Google Cloud Platform User Group)』の運営です。その他には、海外のカンファレンスに参加したり、勉強会やカンファレンスに登壇したり、技術記事の執筆や、社内へのGo/GCPの普及活動を行ったりしています。私の活動の半分は対外活動で、もう半分が『メルカリ カウル』というプロダクトの開発です」
上田氏は、基本的には社内で開発した際の知見をまとめ、コミュニティに共有する形で貢献しているという。例えば、メルカリ カウルでも使われている、バナーを管理するツールについてコミュニティで話す。一方で、そこで返ってきたフィードバックを社内で共有する、といった形だ。もちろん、エキスパート職でない社員が社外へアウトプットすることも推進しており、上田氏は、開発チームのメンバーに対して「こういう勉強会がありますが、発表してみませんか?」と勉強会の推薦をしたり、技術ブログの執筆を促したりもするそうだ。
これだけのコミュニティに関わる上田氏だが、プロダクト開発に50%の時間を割くことも重要視している。いくらコミュニティ内で勉強していても、プロダクト開発でしか得られない知見があると考えているためだ。ここで、上田氏は1枚の図を示した。
「左側がソウゾウで、右側が技術コミュニティ。外に出せる情報は一部ではありますが、カンファレンスでの発表などで知見を共有して、技術コミュニティにアウトプットします。そうすると、何かしらのフィードバックが得られます。仮にフィードバックが得られなかったとしても、人に話す、登壇する、記事を執筆するだけで、社内で生まれた個々人の知見が、明文化されて誰でも分かりやすい形になります。それを社内勉強会で発表し、フィードバックを受け、プロダクト開発で生かすという形です」
技術コミュニティに参加して面白いのは、「技術コミュニティの多様性を生かして多くの知見を集められる」点だと上田氏は言う。1社が取り組めるプロダクト開発の数には限界があるが、技術コミュニティは、さまざまな会社に所属しているエンジニアが、開発の現場で得た知識を持ち寄ることで成立している。これから取り組む課題について、他社の事例から学べるなど、会社の中だけでは得られない知識を得ることができるのがコミュニティだと語った。