チームの情報共有をきっかけに勉強会やカンファレンスに開眼
川口氏が社内での勉強会やコミュニティ活動に注目したきっかけは「ぼっちエンジニア=エンジニアの孤独」だった。当時在籍していた会社ではデータ収集・分析部門のエンジニアとして活動していたが、周囲は数理統計や経済の専門家ばかりで、プログラミングの知識を持つ人はほとんどいなかった。
「ソースコードを書いているのは自分だけで、ちょっと孤独感を感じていた。どうすれば他の人たちにもテクニカルな部分を共有してもらえるかと考え、Wikiを使ってシステムを立ち上げたところ、情報共有に向いていると認められて社内で大流行した」
これを機に、チームでの情報共有の可能性に着目した川口氏は、社外の人々に呼びかけ、アジャイルソフトウェア開発手法であるスクラムの勉強会を立ち上げた。そして、外部のコミュニティとの交流にも力を入れるようになる。
そうした中、スクラム開発者の国際組織から委託を受けて2011年から始めたカンファレンス「Regional SCRUM Gathering Tokyo」は、約300名がコンスタントに参加する有償カンファレンスとして、年1回の開催が定着。次回も2018年1月の開催に向けて、着々と準備が進んでいるという。
まずは社外での活動を盛り上げ、社内勉強会立ち上げの追い風に
2012年4月に楽天に入社した川口氏は、再び社内勉強会の盛り上げに取り組むことになる。
「私の経歴を見て、アジャイルに詳しい人間が来るらしいということで、社内のエンジニアからは期待を持たれていた。幸い、楽天にはすでにアジャイルを実施しているチームや勉強会が複数あったので、それらをどう増やすかといった手伝いから加わっていった」
また、楽天では以前から「Rakuten Technology Conference」という無償の技術カンファレンスを開催しており、川口氏が運営方法の検討・改善に携わるうち、参加者は1000人を超えるようになった。これを見て、いよいよ次は社内での勉強会を立ち上げる番だと考えた。
「何もないところから社内勉強会の実施を呼びかけても、社員は注目してくれない。また会社も、直接業務に貢献しない活動を積極的に認めてくれる期待は薄い。そこでまず、社外での活動を盛り上げれば、おのずと社内の人々も『世の中ではアジャイルが注目されている』と感じて勉強会の必要性に気付くだろうといった、自分なりの“戦略”があった」