必要は“成長”の母
このような変化の中で生き残るために必要なことは、「希少性」「客観性」「万能性」という3つの性質を身につけることだと大竹さんは語った。
完全競争市場においては、ナンバー1でなければ価値がない。「1人が生み出す付加価値が青天井なのであれば、誰もがナンバー1の人に任せたいと考えるので、そうでない人の需要は極端に少なくなります」と大竹さんは言う。しかし、みんながプロ野球選手のイチローのような天才ではないので、いわゆる“普通の人”がナンバー1になるのは難しいことのようにも思える。しかし、「スキルの掛け合わせ」をすることによってその問題は解決できるという。
「例えば、WebデザインとSEOができる人は集客力のあるWebサービスを作れるはずだし、エンジニアリングに強くてUXリサーチとデータ分析もできる人はサービスのグロースに大きく貢献できるはずです。それぞれ単一のスキルだけを持っている人よりも圧倒的に高い付加価値を発揮できます。他にも、マーケティング、ファイナンス、文章力など組み合わせのパターンは無限に存在します。100人に1人の分野を3つ掛け合わせることで100万人に1人の存在になれます。こうやって希少性を作っていくのです」
2つ目の「客観性」については、「端的に言うとTwitterのフォロワー数が多い人は得をするという話です。これは異論があるかもしれませんが、僕の周りの経営者やエンジニアを見ると、Twitterのフォロワー数が多い人は確実に得をしています。仕事も舞い込んでくるし、採用の成功率も高くなるし、良い情報が集まってきます。どういう人がTwitterのフォロワーが多いかというと、“誰から見てもすごい、優秀であることが分かる”という客観的な評価を得ている人です。逆に実際にはすごい人だったとしても、万人が客観的に評価できないような能力は理解されず、Twitterのフォロワーも増えにくい」と説明した。
スキルには、ハードスキルとソフトスキルがある。ハードスキルとは、エンジニアリングの分野でいうと「iOSアプリが作れます」「こんなアプリを作りました」という客観的な技術力で示せるスキルで、ソフトスキルとはUXリサーチや経営スキルのような一緒に仕事をしてみないと評価できないスキルのことである。どちらも重要なスキルではあるが、ソフトスキルだけを持っている人はどうしても客観性に乏しく、他人から見て理解されにくい傾向があるという。
ソフトスキルを持っている人がすべきことは、イベントに登壇したり、ポートフォリオサイトを作ったり、GitHubでコード公開することで、本来理解されにくいスキルに対して客観性を加えていく作業であるという。大竹さん自身も、ソフトスキルを評価してもらうための発信を大切にしているそうだ。
分かりやすい例としてTwitterを挙げているが、Twitterに限らず客観性を加えて行く作業は大切であると語った。「ついでに僕のTwitterフォローしてください!」と来場者に呼びかけ、笑いを誘っていた。
3つ目の「万能性」については、専門技術がSaaS化している今の時代に求められるのは“オーケストレーション能力”だと語った。
「SaaS化されたクラウドサービスは全てがモジュール化されていて、お金を払えば誰でもアクセスできます。それに伴って、多種多様な分野のツールを上手く扱える能力(=万能性)が求められるようになってきました。使える武器の種類が増えれば、課題に対する解決策の引き出しが増やせます。例えば、難解なビジネス課題に対して、エンジニアリング、データ分析、マーケットリサーチなどの多彩な武器を使って包括的なソリューションを作れるエンジニアは非常に高い付加価値を持ちます。もっと欲をいえば、ユーザーヒアリングなどの定性調査から課題自体を見つけて動ける人になるのが理想です」
では、大竹さん自身はどうやってこれらの性質を身につけてきたのか。その答えは、“必要に駆られたから”だという。「2度目の事業撤退の時、僕以外のエンジニアは全員いなくなってしまいました。もともと僕はiOSアプリを開発するスキルしかなかったのですが、その状況になるとそんなことは言っていられないわけです。サーバーサイドの開発、インフラの構築も自分でしなければいけなくて、とにかく必死に勉強して習得しました」と当時をふり返り、「必要は発明の母」ならぬ「必要は成長の母」であったと総括した。
「誰でも必要に駆られたら努力するはずです。だから、成長したいのであればそういう環境に身を置くことが大切だと思います。僕の場合は、delyという会社でさまざまな経験を積めたことが、自分の幅を広げてきました。自分にとって専門外の領域に飛び込むのには勇気がいりますが、そんな環境下でがむしゃらに努力するからこそ、人は成長すると思います」と語るその言葉は、たった1人でクラシルを開発した大竹さんが発するからこその重みがあった。
「僕もみなさんと同様、これからの社会で戦っていかなければならないエンジニアの1人です。どうか一緒に頑張っていけたらと思っています。ご清聴ありがとうございました!」観客をそう鼓舞し、大竹さんの基調講演は幕を閉じた。
変化の早い世界は厳しいが、同時に多くのチャンスが転がっている。そのチャンスを捉え、変化し動ける人が強い。大竹さんの講演にはそんなメッセージが込められていたように思う。

