リクルートのビジネスモデル
具体的な施策のお話をする前に、リクルートのビジネスモデルについて最初に紹介します。リクルートは、ヘアサロン情報検索サービス「ホットペッパービューティー」や住宅情報サービス「SUUMO(スーモ)」、結婚情報サービス「ゼクシィ」のように、個人と企業をつなぐことで、より多くの選択肢を提供するマッチングプラットフォームとしてビジネスを展開しています。
例えば、「ホットペッパービューティー」では、自分に合ったヘアサロンを探したいユーザーと、集客したいヘアサロンをマッチングさせるイメージです。
「ユーザー」と「クライアント」をマッチングさせる様子がリボンのように見えることから、このビジネスモデルを「リボンモデル」と呼んでいます。
今回のリアルタイムなデータを活用した施策についても、「ユーザーとクライアントをどうマッチングさせるか」という基本的なビジネスモデルは変わらないため、この後も必要に応じてこのリボンモデルの絵を念頭に置いて読み進めていただければ幸いです。
hacciのビジネス活用
第1回で紹介した通り、Web上のユーザー行動をリアルタイムに捉えたおもてなしをするニーズが高まっています。ここでは、私たちがGCP上に構築した「hacci(ハッチ)」というリアルタイムデータ基盤を実際のビジネスにどう適用しているか、一例をご紹介します(内容は現在フィジビリティスタディ中のため、サービス名は伏せております)。
例1:「迷いユーザー」への検索条件レコメンド
Web上でショッピングしたり宿泊施設を探したりするとき、最初から明確な条件を持って検索し始めるケースもあれば、いろいろな条件を変更しながら多くのアイテムを閲覧しているうちに、条件が絞られていくケースも多くあるでしょう。また、条件をあれこれと変えて多くのアイテムを閲覧しているうちに、「何が自分にとって欲しかったものか、だんだんわからなくなってしまった」といった体験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
私たちはこういったユーザー体験に課題感を持ち、どうにかして改善できないかと考えました。そこで、サイト内の回遊ログを元に、「正しく検索できているユーザー」「決定に悩んでいるユーザー」を特定するモデルを開発し、ユーザーに合わせてリアルタイムにナビゲーションを出す施策を試みました。
非常にシンプルな例として、下図のように検索結果一覧画面において、サイト内行動からユーザーの嗜好性を推定し「適切な絞り込み条件を、適切なタイミングで提示する」イメージです。
現在テストを行っている段階で、徐々に改善を重ねているところです。
例2:強化学習によるUX改善
「強化学習」という、近年注目を集めている手法があります。最近では、プロ棋士を破った囲碁用AI「AlphaGo(アルファ碁)」の名前でご存知の方もいらっしゃるかもしれません。今回は、hacciとこの強化学習を組み合わせた例を紹介します。
アルゴリズムの詳細はここでは割愛しますが、一言で表すと強化学習とは「ゴール(報酬)を与えれば『どの状態で』『どういった行動』をとればいいかを教えてくれる手法」です。詳細について興味ある方は、以下の記事も参考にしてみてください。
そもそも強化学習という手法を取り上げたのは、「リアルタイム」と非常に相性が良いためです。というのも、強化学習においては「今がどんな状態か」の情報を元に「取るべき行動」を決定するため、ユーザーの「今」をデータで捉えることができれば、強化学習によるレコメンド(=リアルタイム接客)が可能になると考えるからです。
今回はあるサービスにおいて、「hacci×強化学習」を組み合わせてA/Bテストを実施しました。そのサービスでは、例えば宿を探す場合、「朝食付き」「禁煙」などの「こだわり条件」が数十存在しています。ユーザー自身でこだわり条件を設定することもできますが、必ずしも自分の求めるこだわり条件を設定できるわけではなく、無意識のうちに希望する特徴を持つ宿を閲覧していることもあります。
また、ユーザーごとの行動データをベースに、ユーザーにとって適切なおすすめ検索条件を自動でレコメンドする内容でもA/Bテストを行いました。フィジビリティスタディの実施中ですが、一定の成果をあげています。
ただし、強化学習を単に動かせばいいというわけではなく、導入にあたってはユーザーの「状態(State)」「行動(Action)」「報酬(Reward)」をどう定義するかが肝です。そのため、本ケースでもUXやデータサイエンティスト、データエンジニアが協業して設計を行っています。
例3:リスク把握基盤
リクルートの一部のシステム・アプリケーションはJenkinsをベースにCI開発が行われています。このJenkinsが知りうる情報から、システム・アプリケーションが依存するミドルウェアやライブラリのバージョン情報を取り出してhacciに流し、可視化する取り組みを検討しています。
この情報は主に、ミドルウェア・ライブラリの脆弱性が発見され公開されたときに、その依存を持つシステム・アプリケーションを速やかに発見する運用の効率化に貢献できると期待されています。
他にもさまざまな施策を検討中
hacciにデータが流れたことで、他にも施策イメージをふくらませることができました。これを、私たちは「データドリブン施策」と呼んでいます。例えば、パソコンとスマートフォンの両方から私たちのサービスを利用している人を見つけ、適切な対応をする「クロスデバイス接客」、BOT判定でリアルタイムBOTを排除することで無駄な処理を削減することなどを予定しています。