自分でコントロールできる表現が新しいネットワークをつくる
自主制作活動で新しい表現を発表すれば注目が集まる可能性もあります。今は多くのプラットフォームがあるので、なにかを発表する際、作品に適したメディアを選ぶこともできます。
学生の間から「VIVIVID」や「MATCH BOX」といったポートフォリオサービスに登録している方も多いですし、Adobeが提供しているクリエイターのためのSNS「Behance」のように、作品を公開すれば世界中とつながることができ、作品への評価やコメントをもらえるサービスもあります。動画ならばVimeoのようなクリエイター向け作品共有サイト、YouTubeやPinterestへのアップロードなど。
どこで誰が見てくれるかわからないので、想像もしていなかった世界を知ることができるかもしれません。私も以前海外のクリエイターファイルに作品を登録していたら、上海のデザイン学校から授業の教材に使わせて欲しいと依頼をもらったこともありました。
何によって自分の制作者としての魅力をつくり発表するのかはそれぞれですが、オリジナルな制作活動を始めることは、YouTubeチャンネルを開設してコンテンツによって登録数を増やすことにも似ているようにも思えます。YouTubeも個人の表現のひとつ。潤沢な資金を元手に大きな作品をつくるのではなく、少ない予算で話題を集める。そんな場としても活用できるYouTubeというメディアは、クリエイター個人の表現の場にも合っているかもしれません。
試して得たスキルを本業に活用するというアプローチも理に適ったやりかたです。本業と自主制作の相乗効果も期待できるでしょう。
たとえばこれは取り組んでいるデザイナーが多い方法でもありますが、まだ仕事で撮影ディレクションを任せてもらえないなら、仕事外でカメラマンと組んで自らテーマを設定し、スチールでも動画でも作品撮りをすればいいのです。そうすることで撮影のノウハウや絵コンテの作りかたといった制作フロー、カメラマンとのコミュニケーションを学ぶことができます。もちろんそのためには、常日頃から外部スタッフとの関係構築は必要です。本業ではできないデザインを自主制作では経験することもできますし、例に挙げたような本業につながるアプローチもあります。
異なる思考法や、新しいスキル、未体験のデザインツールを習得して作品を作るなど、単に論理や操作を学ぶだけではなく、それを身につけることによりどのような新しい制作領域をつくり、次の仕事にどのように結びつくかを考えて計画する――。これだけで結果は大きく変わってきます。
自分が今後デザイナーとしてどのくらい活躍するか、何が働き抜くための力になり得るのかを考えてみたり、自分のクリエイティブの意義は何なのかについて考えることは非常に重要なのです。
このような考えは作り手として成長するためのコツです。こうした積み重ねが、少しずつ自身をタフなデザイナーへと育ててくれるでしょう。他者との関わりをゼロにはできませんが、自分でコントロールすることをできるだけ増やすことが「目指すなにか」になるためのいちばんの近道ではないでしょうか。
視野を常に広げて行動しているデザイナーの豊かなアプローチは、周りへ影響を与えることにもなりますし、周りからのリスペクトにもつながる――。そんな関係ができたら魅力的です。
今回はデザイナーの自主活動についてお伝えしてきました。本業の仕事以外にさまざまなクリエイティブワークを経験して学んだことが、いずれ自分の中のネットワークになります。自分が学んだ後の世界観を想像してみると、意外にクリエイターとしての5年後、10年後の姿も浮かんでくるかもしれません。